日本が好きすぎて移住してきた邦楽マニアの外国人に聞いた! 日本のアイドルのおもしろさって?

特集・インタビュー

[2018/4/27 12:00]

国境を越えてまで応援したくなる日本のアイドルのおもしろさって?

『耳マン』でもたびたび取り上げている女性アイドルシーン。 “アイドル戦国時代”と呼ばれ注目が集まった2010年頃からさまざまな個性豊かなグループが出現し、現在も変化を遂げながら発展しています。最近ではライブ会場で外国人のファンを見かけることも珍しくなく、バラエティ番組で外国人のアイドルファンに密着する企画が放送されることも。今回はそんな外国人ドルヲタの実態に迫るべく、日本の音楽が好きすぎてついには移住してきてしまった邦楽マニアのロジャーさんを直撃! 外国人だからこそ感じる日本の女性アイドルの魅力を、グローバルな目線でたっぷりと語っていただきましたっ。

今回インタビューに応じてくれたロジャーさんは1988年生まれの30歳。日本好きが高じて日本語も独学で習得したそうで、丁寧で美しい言葉遣いが印象的。好きな日本食はうなぎ!

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細野晴臣をきっかけにニューウェイヴやロック、そしてアイドルへ……

ロジャーさんは米カリフォルニア州・サンフランシスコで生まれ育ち、2017年9月より日本に在住。アメリカではオーディオ修理などの仕事をしており、趣味は音楽鑑賞のみならず楽器演奏や音楽制作にまでわたるそう。幼い頃から音楽に囲まれて生活してきた彼は、日本の音楽を好きになったことから日本に住みたいと感じるようになったといいます。

——そもそも日本の音楽を聴くきっかけは何だったんですか?

父がレコードコレクターでさまざまなジャンルのレコードを持っていて、子どもの頃から自然にいろんな国の音楽を耳にしていました。そのなかにたまたま細野晴臣のレコードが1枚あって、子どもながらに深い印象を受けたことが忘れられなくて。その後、中学生くらいから自分でもいろいろな日本の音楽を聴くようになりました。細野さんの影響で「日本にはほかにどんな音楽があるんだろう?」とすごく好奇心が湧いたんです。

——日本の音楽について知ったり、音源を探したりする方法は?

中古レコード屋の“インターナショナル”の棚を随時チェックしておもしろそうなものを探したり、日本のレコード屋のウェブサイトでサンプル音源を試聴して好みのものを買ったり。僕が中高生の頃はSNSも今みたいに発達していなかったんですが、ネットで日本の音楽が好きな外国人が集まる小さな掲示板があって、そこにいる人たちと時々情報交換をしたりもしました。

——そういった工夫をして日本の音楽を知っていって、特にどんなアーティストを好きになったんですか?

いろいろありましたけど、やっぱり細野晴臣周辺の人たちですね。はっぴいえんどとか小坂忠とか矢野顕子、大貫妙子とか。それからプラスチックス(なめらかな発音)とかヒカシューとか、チャクラ……。

——細野さん周辺から1980年代のニューウェイヴへと!

えぇ、特にチャクラがすごく好きでした。チャクラの音楽が好きっていうことは、ある意味でアイドルの音楽が好きになったことに繋がっているかもしれません。高校生のときはナンバーガール(やはりなめらかな発音)とかブラッドサースティ・ブッチャーズ(なめらかな以下略)とか、椎名林檎も好きでした。ニューウェイヴやポストパンク、サイケデリックロックを中心に、ポストハードコアやローファイロックもすごく好きになりました。10代の頃には“渋谷系”もよく聴いていましたね。

——今おっしゃっていた音楽はそれぞれ年代もジャンルもバラバラですよね。

そうですね。やっぱりある音楽を好きになると、その音楽の前に繋がっているものは何だろうっていうのが気になって。常に “好きな音楽と繋がっているもの”を探していたら、全然違う年代やジャンルのものを好きになりました(笑)。

——好きな音楽のルーツをたどっていくと、まったく違うものに出会うと。そういった感じで日本のアイドルとも出会ったんですか?

アイドルを聴くようになったきっかけは今思うとPerfumeだったのかも。先にCAPSULEのサウンドを好きになって、その後『Perfume〜Complete Best〜』(2007年)でPerfumeを知りました。アイドルとして認識してなかったから、ただ“CAPSULE関連のいい音楽”として聴いていましたけども。

——それからアイドルの音楽を聴くことはありましたか?

そのあとは……3776(※)でした。
(※3776……静岡県富士宮市を拠点に活動する“富士山ご当地アイドル”)

——突然インディーズのご当地アイドルを!
ハッハハ(笑)! うんうん、3776はアイドルと認識して聴いた初めての音楽でしたね。

——3776はどうやって知ったんですか?

最初は、OTOTOY(音楽配信・情報サイト)で配信されてたアルバム『ラブレター』(2014年)を聴いて「あぁ、これいいですね!」と思いました。でも、そのときは多分そんなに注意深くは聴いてなくて。その後2015年の春にYouTubeで検索したら、のちにアルバム『3776を聴かない理由があるとすれば』(2015年)に収録される『春がきた』という曲を初めてライブで演奏した映像が出てきたんです。それを観て「これは本当に特別だ!」と感じました。

——どんな部分が“特別”だと感じたのでしょう。

その映像の背景には駐車場とかが映ってて、静岡県のけっこう普通な感じの小さな場所で演奏されてたんですよね。この普通な場所から、ほかでは聴いたことのない特殊な音楽が流れているから……ちょっとわけがわからなかった(笑)。だからもっと知りたかったし……理解したかったです。

ロジャーさんが日本に来てから購入した3776のCDやレコードたち

インディーズアイドルのライブは次に何が起こるのか予想できない

その後、ロジャーさんは日本の音楽への興味が加速し、日本に住むことを決意。2016年に下見として旅行へ来た際、偶然出会った熱狂的3776ファン・掟ポルシェ氏のすすめもあって3776のライブを初鑑賞。それまで彼が持っていたアイドルのライブのイメージが覆され、日本のインディーズアイドルシーンの自由さに魅力を感じるようになったそう。

——3776をはじめ、日本で観たアイドルのライブではどんな部分に衝撃を受けましたか?

実際にライブを観るまではアイドルのライブって王道のアイドルソングばかりの形式ばった世界だと思っていたら、実はその逆ですごく価値観が広い世界だと感じて、好きになりました。例えばロックバンドの対バンイベントでは類似ジャンルのアーティストが出演するから、聴いたことのないバンドでもどういう音楽・パフォーマンスをするか、おおかた予想できると思います。でも、アイドルのイベントではポップスの次にプログレ、そのあとにヒップホップとか、次に何がくるのか予想できない。それが本当にすごいところだと思います。

——アメリカにはあんまりそういう音楽シーンはない?

ないと思います……あっ! 2000年代始め頃にサンフランシスコ辺りで、ローカルバンドが人の家でライブをやることが多かった!

——個人宅でライブを!?

その地域のローカルバンドと、遠くから来たマイナーなバンドがちょっと規模が小さいツアーとして、ゲリラ的な感じで個人の自宅でライブをやっていました。ライブが終わったらメンバー本人から直接CDを買ったり、その家でファンも交えてみんなで食事したりも。演者と観客の距離が近くて、僕にとって日本のアイドルシーンはそれを思い出すかなぁ。

——それはすごい……。そんなロジャーさんが特に“ライブが楽しい”と感じるアイドルは、3776のほかにどなたでしょう。

えーっと……KOTOのライブは、ただ楽しいと思います(にっこり)。音楽的にはテクノポップとダンスミュージックの組み合わせのような感じで、初期のPerfumeに近いかも。それをKOTOがちょっと極端なくらいにすごく大げさにパフォーマンスするのが、観ていてただただ楽しい。それからKOTOの『プラトニック プラネット』(2015年)というアルバムは全曲いいですよ。

——ほかには?

最近だと眉村ちあきのライブも良かったですね。彼女は自分で曲を作っていて、ライブではおもにアコースティックギターを弾いて歌っています。お客さんが楽しめる雰囲気を作るのがすごく上手ですし、楽曲も創造力があっていいです。チャクラとか椎名林檎も、3776もそうですが、音楽的に前衛的なことをやっているけどポップスから離れないところがいいですね。ポップスという規則が多いジャンルのなかで自分の世界観を表現できるのは、すごく難しいけど素晴らしいことだと思います。あと、眉村ちあきのアルバム『Germanium』(2018年)、けっこう好き(にっこり)。

ロジャーさんがライブの物販で本人から直接購入したという眉村ちあきのCDR。ジャケットの手作り感も味わい深く、手元に置いておきたくなる気持ちがわかります

具体的な場所や人、時間と繋がっているからアイドルに夢中になる

日本のインディーズアイドルは自らが物販に立ってグッズやCDを売ったり、ファンと握手や写真を撮ったりする“接触”イベントをすることも多くあり、それらは彼女たちの活動のうえで欠かせないものであると言えます。そんな接触イベントについて、音楽やパフォーマンスを重視するロジャーさんはどう感じているのでしょうか。

こちらもロジャーさんがライブの物販で購入したCDの一部。3776と関わりの深いMi-IIや“彼女のサーブ&レシーブ”、SAKA-SAMAなど音楽性の高さでも注目を浴びているグループが並びます

——これまでのお話を聞いて、ロジャーさんはほかのジャンルと変わらずに音楽的な目線でアイドルを聴いている/観てるんだなと感じました。……握手とかするんですか?(唐突に)

うん、握手もするしチェキも撮ります。

——そういう接触イベントにも参加するんですね! それはそれで楽しいですか?

うん、それはそれで楽しい! まぁ、慣れていない頃がありましたけど……今でもあまり慣れていないかもしれませんが(笑)。チェキっていう活動形態は、尊敬しています。

——尊敬?

あのー、やっぱり音楽で暮らす(生活する)のはなかなか難しいと思います。大きい事務所やレコード会社に所属していなくてDIY的にやっている人は特に。だから、チェキという(ほかのグッズよりも利益率の高い)賢い技を作った人は尊敬しています、本当に。初めてチェキを撮った人が誰かすごく知りたいですが……多分天才だと思います!

——言われてみれば、チェキはファンがアイドルの活動を少しでもサポートできる大事な手段のひとつですね。

あと、僕はチェキそのものも好きになりました。イベントのおみやげとしていい感じだと思います。例えばチェキを撮ったらそのアイドルのCDケースのなかに入れて、CDを聴くときに「あぁ〜、あのライブは楽しかったですねぇ」とか思い出したりして(笑)。それも楽しいですね。

実際にロジャーさんが持参してくれた眉村ちあき『Germanium』のケースのなかには、ふたりのツーショットチェキが挟まれていました♡

——思い出が形になって残るのは良いですよね。ところで、アイドルシーンでは脱退・卒業するメンバーや、最近では解散するグループも多いですが、それについてはどう感じますか?

それもアイドルの大変なところだけど、魅力かもしれない。すごく動きが多くて、目まぐるしく変わっていって、びっくりさせられる世界だから好きっていうのもあります。

——今後はどうなっていくと思います?

それはすごく難しい質問です……。今のアイドルシーンはアイドルの活動形態も観客の層も多様化している感じがしますが、それは今後も続くんじゃないでしょうか。

——先ほどもおっしゃっていたように、特にインディーズのアイドルシーンは幅が広くなっているように感じますね。

個人的に、ストリーミングサイトが普及した時代からはその音楽がどこから/いつから来たものだとかそういった社会や歴史から離れて、リストに頼っているように感じます。でも、アイドルシーンでは逆にネットでは聴けない会場限定のCDが販売されていたり、ご当地アイドルの場合だと限定した場所でしかライブをやらないとか、そういう具体的な場所や人、時間と繋がっている。だから夢中になるし、今後も追いかけていきたいと思っています!


優れた才能やおもしろい現場はまだまだある!

人気メンバーの突然の脱退やグループ解散など、最近の女性アイドルシーンには以前のような勢いが見受けられないと思っていた人も少なくないと思います(というか、筆者もそのひとりです……)。しかし今回ロジャーさんに話を聞いて、優れた才能やおもしろい現場はまだまだ存在しているのだと痛感しました。今後も『耳マン』では女性アイドルシーンに注目し、たくさんの魅力的なアイドルたちをご紹介していければと思います! やっぱりアイドルって最&高!!

[榊ピアノ]