そのときの僕は、梨華ちゃんのことをひとかけらも考えていませんでした【推しメンが結婚しちゃった日記・最終回】
[2019/10/21 12:00]
おしゃれなレストランバーに到着した僕たちは隅っこのテーブル席に座り、彼女はコーラ、僕は生ビールを注文しました。僕は緊張で小刻みに震える手で乾杯をし、生ビールをぐいっと飲みました。そのあと出てきたお通しがとてもおしゃれなものだったので、「こりゃインスタ映えするね」などと言い合いながら写真を撮りました。
そこまではよかったけど、自分の不徳と口下手さにより会話がだんだん険悪な感じになってきて、こりゃ告白どころじゃないなと思い、今回はやめておこう、次回にしようと心を決めそうになりました。しかし、注文したナポリタンスパゲッティが出てきて、それを分け合って食べながら「美味しいね」とか言い合っているうちにだんだん険悪な感じがなくなってきました。
ビールの2杯目を飲み終えた僕はさりげなく深呼吸したあと、勇気を出して「Sちゃんて付き合ってる人とかいるの?」と尋ねます。すると特定の付き合ってる人はいないようだったので、すかさず「じゃあ付き合お!」と提案しました。思案顔の彼女に対して「もっとSちゃんと一緒にいたいなあと思ったんだ」と告げました。きざなセリフだなあ、恥ずかしいなあと思いながら。それからしばらく言葉のやりとりがあったあと、彼女は何気ない感じで「いいよ」と答えました。僕は“え、いいの? やったー!”と思って、自分の顔がひどくにやけているのを感じました。
かつての僕は寝ても覚めても梨華ちゃんのことばかり考えていたけれど、そのときの僕は、梨華ちゃんのことをほんのひとかけらも考えていませんでした。
これからの僕は、今まで梨華ちゃんに向き合ってきたのと同じくらい真摯に、Sちゃんに対して向き合って日々を過ごしていきたい、そう思っています。