「アート」に寄りすぎちゃったやつ……味わいメンボ百景 【第2回】

連載・コラム

[2015/11/22 12:00]

インターネットの勢いに押されて数は減ったものの、いまだに音楽スタジオやライブハウスなどで確認できるメンボ(メンバー募集)の貼り紙。これらのなかには、これから始まるバンド活動への憧れや期待の大きさゆえ、少し空回ってしまった「味わい深い」ものも多くみられます。私たちに夢と希望、そして笑いを届けてくれるこれらのメン募は、ひとつの優れた作品なのです。

第2回 「アート」に寄りすぎちゃったやつ
今回紹介する作品は、いかにも「アート」な、シンメトリーのイラストが施された作品である。メンボ内容は文字数も少なく、いたってシンプルだ。

〜メンボ内容〜
Krautrockが好きな方
Ash Ra Tempel、Agitation Free、Can、NEU!

あれ? パートは?
以上である。前述のとおり非常にシンプルな内容だが……おわかりいただけただろうか。何が言いたいかわからなかった方は、もう一度メンボ内容を見直してほしい。おわかりいただけただろうか……そう、なんのパートを募集しているのか記載がないのである。せっかく力の入ったイラストまで描いてあるのに、痛恨のミスである。

ただ、私も恥ずかしながら勉強不足であり、Krautrock(クラウトロック)に詳しくはない。もしかすると、楽器を演奏するようなものではなく、いわゆるギター、ベース、ドラムがいるような「バンド形式」ではないのかもしれない。そう思い、ウィキペディアで調べてみた。

「クラウト・ロックは、1960年代末から1970年代初めにかけて西ドイツに登場した実験的バンド群、およびその音楽をさす一般名詞である」

なるほど、実験的か……。やはり、作曲ユニットのような、いわゆる「バンド」といった形態を必要としないジャンルなのかもしれない。きっとクラウトロック好きであれば、上記の好きなバンドを提示するだけで「なるほど、こういうことがしたいのね」と、意味が通じるのだ。揚げ足をとった自分を恥じ、折角だからと上記のやりたい方向性であろうと思われるバンドを聴いてみた。

多少エフェクトは効いているものの、ゴリゴリのバンド形式だった——

実は、ほかにも気になる点がある。このメンボ、自分が「何のパート」なのかも明示していないのだ。もしかするとこれは、メンボの形をとった、わかる人だけに向けたメッセージなのかもしれない。そう思って例のイラストをじっくり見ると、シンメトリーに並んだ月や顔、中央に描かれた目のようなモニュメント、何か隠された意図を感じずにいられない。段々怖くなってきた。ここに隠された謎を解き明かし、記載の連絡先にその旨を伝えると、新たによくわからない地図と暗号が添付されたメールが届き、その暗号を解いて地図の場所を探り当て、辿り着くと……そこには数人の男女が待っていた。やはり、全員が同様に謎解きをして集まったらしい……。新たに30人程が集まったかと思ったら、突然エフェクトのかかった機械のような音声で「それでは今からみなさんで殺し合いをしてもらいます」……とか、そんな展開が待って……ない。やっぱりただの記載漏れだと思う。

きっと、メンボ主の彼(彼女)は待ち続けるのだろう。苦労したイラストの一部分を思い返し、好きなクラウトロックの曲を聴いては、まだ見ぬメンバーに想いを馳せることだろう。

(最初はどのパートの人から連絡が来るかな……。イラスト、褒めてくれるかな?)

1日目、連絡なし。

(まだ貼り出されてないのかな? まあそんなすぐ連絡はないか~)

3日目、連絡なし。

(う~ん、もうちょっと目立つようなイラストにすれば良かったかな? 色とかも付けて……)

10日目、連絡もなく、しびれを切らして実際に貼られているのか見に行く。

(……ちゃんと貼られてる。何がダメだったんだろう……。あ、この人のメン募、すごくイラストとかも凝ってて、見やすい……。はぁ……何だか寂しくなってきた。自分って、センスないのかな……。バンド、昔からの夢だったけど、諦めて実家の乾物屋でも継ごうかな……)

今、たくさんのバンドマンが集まるこの広いスタジオの中で、自分だけがひとりであることを噛み締めながら、スタジオの店員に告げる。

「すみません、あのメンボ、剥がしてください……」

待って!! 気付いて!! イラストのセンスとかじゃなくて何の募集か書いてないだけだから!! クラウトロック好きな人でもメール送るのに躊躇しちゃってるだけだから!! こんな……こんな結末、悲しすぎるよ!!

自身のパートor募集パートと、自分の連絡先。メンボにおいて最低限必要な情報とは、そのふたつである。そのどちらか一方でも欠けた場合、どんな素敵なイラストを施そうとも、メンボはただの壁を彩る花となるのである。

[綾小路 龍一]