どこまでも続くメンボ……味わいメンボ百景 【第3回】

連載・コラム

[2015/12/13 12:00]

インターネットの勢いに押されて数は減ったものの、いまだに音楽スタジオやライブハウスなどで確認できるメンボ(メンバー募集)の貼り紙。これらのなかには、これから始まるバンド活動への憧れや期待の大きさゆえ、少し空回ってしまった「味わい深い」ものも多くみられます。私たちに夢と希望、そして笑いを届けてくれるこれらのメンボは、ひとつの優れた作品なのです。

第3回 どこまでも続くメンボ

音楽はもちろん、世の中のほとんどの作品に共通するであろう、ひとつの課題がある。それは、「丁度良い長さ」である。「思い」や「良さ」を十分に伝えようとすると、どうしても長くなってしまいがちであるが、長くなればなるほど伝えたいことはボヤけてしまいがちであり、インパクトも薄れてしまう。

例えばの話だが、負けないことや逃げ出さないことなどが、ダメになりそうなときに一番大事であるという素晴らしいメッセージがあった場合、それを長い時間何度も繰り返し言われると、ありがたみも薄まり、クドく感じてしまうだろう。(実在する特定の何かに対しての意見ではありません)

かと言って、言葉足らずで伝えたいポイントが伝わらないのも、本末転倒である。伝えたいことが間違いなく伝わる程度の、丁度良い長さというのは、さまざまな「作品」を作る上での永遠のテーマである。

〜メンボ内容〜
ご覧頂きありがとうございます。メンバーは現在、ギター、ベース(男)です。メジャーレーベルと契約し、自分たちが作った音楽を世界中に発信し、プロとして活躍したいという真剣な気持ちで音楽活動をしている方を募集します。
リハーサルの前半の時間は徹底的に基礎練習をします。地味で退屈な基礎練習を嫌う人も多いでしょう。確かに基礎練習は敬遠されがちです。しかしながら、オーディエンスを魅了する演奏、そして、プレイヤー同士による“楽器での会話”を実現するには………

ちょっと……
長いよ!長い長い!! ここまででまだ1/4もいってない!! バンドマンなんて、3行以上の文章と中1以降に習う漢字なんか読めないんだから!

確かに、A4用紙にビッチリ書かれた文章は、見た目のインパクトが強い。記載の内容も、メンボ主の「真面目さ」が表れている。そういう意味で言えば、メンボ主の個性が表現された良いメンボである。ただし、長ければ長いほど、よほど共感、納得ができない限り、今ひとつ頭や胸に入ってこない。伝えたい内容も、長くなるだけ薄れてしまうものだ。だがこのメンボ、なんだかとても引っかかるものがある。そう思い、続きを読むと……

〜メンボ内容 続き~
メジャーレーベルと契約するには、音楽を「ひとつの商品」と捉えたビジネスマンとしての才能も必要だと思います。ライブパフォーマンスや曲づくりも大切ですが、ただ音楽を奏でていればいいのではなく、ベンチャー的な思考を持っていなければ……

「意識高い系」というやつだろうか。「スタバでMacBookとかiPadから打ち込んでいる感」がひしひしと伝わってくる。内容も、もはやメンボではなく企画書である。しかも、何だか少し胡散臭い。

そこからしばらく読み進めても、好きなバンドや、やりたい音楽性などの記載もない。このメンボ主は単純に「売れる音楽」がやりたいのであろう。メンボによくみられる「言葉だけのプロ志向」と違い、自分なりに「売れるには」を、ちゃんと考えている辺り、よっぽど誠実である。もちろん記載の内容を忠実に守れば売れるという保証はないが。

ただ、それにつけてもメンボとしては長過ぎる。ボクもバンドマンの端くれなので、3行以上の文章は読めないし、正直前半でお腹いっぱいである。もっとシンプルにやりたいことや要望を伝えるにはどうすれば良いだろうか。そのヒントが、次のメンボにあった。

〜メンボ内容〜
ストーンズ、フールズ、村八分

短かっ!
以上!……カッコ良い。はっきり言ってカッコ良すぎる! 見つけた瞬間、ボクのわずかしかないロック魂が膨れ上がり、爆発した。忘れてた何かを思い出し、心の中で小便を漏らした。こんなシンプルでわかりやすく、内容のこもったメンボは初めて見た。「俺以外のメンバーはいねぇ。だけど今すぐストーンズみたいなロックがやりてぇんだ! 早く歌わせてくれ!」ーー力強い筆圧からは、そんな叫びが聞こえてくる。あえて情報を制限することで、メッセージと「ロックぽさ」を強調した、素晴らしいメンボだ。

ロックに特別思い入れのないボクも、急にロックがしたくなり、今すぐ革ジャンを買って、ジーパンを破き、メンボ主に電話したくなったほどである。

もちろん長いものが悪く、短いものが良いというわけではない。好みの問題もあるし、説明不足で話がもめるよりよっぽどマシである。そういう意味ではある程度の長さが必要なのかもしれないが、メンボに限って言えば、まずは「連絡が来ること」が重要なのだ。細かい話は、そのときでも良いのかもしれない。後者のメンボは極端な例ではあり、ボクは褒めちぎったが、魅力が伝わらない人もいるだろう。音楽同様、何が引っかかるかは、読んでもらうまでわからない。

今回紹介したメンボのテーマは、「メンボにおいて、丁度良い長さとは?」という話である。そんな、短くシンプルな内容を伝えるために、こんな不必要な長文になってしまい、まるで本末転倒な自分の無能ぶりを、ただただ恥じるばかりである。

[綾小路 龍一]