なんで落語!? バンドと全然関係ない……ではなかった! 味わいメンボ百景 【第4回】

連載・コラム

[2016/1/23 12:00]

インターネットの勢いに押されて数は減ったものの、いまだに音楽スタジオやライブハウスなどで確認できるメンボ(メンバー募集)の貼り紙。これらのなかには、これから始まるバンド活動への憧れや期待の大きさゆえ、少し空回ってしまった「味わい深い」ものも多くみられます。私たちに夢と希望、そして笑いを届けてくれるこれらのメンボは、ひとつの優れた作品なのです。

第4回 バンドと全然関係ないっぽい写真
最近のメンボは、そのほとんどがキレイな色使いのイラストや、エフェクトが施されており、ポスターのようにただ眺めるだけでも楽しい。いくら好みにマッチするメンボ内容であっても、まずは目に止まらなければ意味がないと思ってのことだろう。そのため、派手なイラストや写真で、少しでも注目を集めようという努力が、メンボの作品性をも高めてくれる。それに、ビジュアルイメージがあったほうが一見してメンボの方向性もわかりやすい。

写真を載せる場合、自分たちのアーティスト写真を載せているケースも少なくないが、それはアーティスト写真があるような本格的な活動を展開しているバンドでなければ難しいだろう。そのため、コピーバンドであれば、コピーしたいバンドを、決まったジャンルの音楽がしたいのであれば、そのジャンルのレジェンドなどを載せるのが一般的である。ないとは思うが、「X JAPAN」の写真を載せておいて、路上で「ゆず」みたいなユニットをやりたいから、アコギ募集!なんてメン募があったとしたら、たとえ何かのメッセージが込められていたとしても、(使う画像を間違えているだろ……)と、一笑に付されて終わりである。使うビジュアルイメージは、「インパクト」も大事だが、「わかりやすさ」が何より大事なのである。

〜メンボ内容〜
ドラム募集
東京を拠点に活動中
踊れるサウンド、そしてパフォーマンスが魅力のバンドです〜(その他もろもろ)。
※メンボ内に落語を披露している最中と思われる立川談志の写真

立川談志。2011年に惜しまれつつこの世を去った落語会のレジェンド、七代目・立川談志である。知らない方のために『七代目・立川談志』を3行で説明すると……

・今尚続く人気番組『笑点』を立ち上げ、初代司会を務めた

・立川流の最高傑作と名高い立川志の輔や、近年幅広い活躍を見せる立川談春など、優秀な後進を輩出

・国会議員となるも、僅か36日で辞任するなど、破天荒な言動でも有名

……ということになります。覚えておきましょう。

なぜに談志!
こうして詳しく説明すればするほど、何故談志の写真を載せたのか、まったく意味がわからない。もしかして、立川談志は何か音楽と深い関わりがあったのだろうか。そう思い、調べてみた。なるほど、たしかに四代目・柳亭市馬、桂雀三郎など、歌手としても活動する落語家がいることはわかった。ただ、立川談志自身は歌謡曲ファンではあったものの、音楽家としての側面はなかったようだ。

そうなると、メンボ主側が立川談志や落語に対し、バンドをやる上で何かしらのシンパシーを感じているのだろうか。例えば落語と音楽の融合をテーマにしているとか、ライブで登場の際に落語の出囃子を鳴らす、といったことをしているのだろうか……。それはそれで面白いが、「踊れるサウンド」が魅力とのことから、そういうわけでもなさそうである。

多分、立川談志の写真に深い意味などないのだ。どうせウケ狙いで使っただけで、きっと考えるだけ損なんだ。ひと晩必死に考えてしまった後悔を抱えつつ、このメンボを忘却の彼方に追いやった。

話は変わるが、ボクは散歩が好きだ。散歩をしていると、突然アイデアが浮かんだり、複数のまとまりのない考えがひとつの形にまとまったりすることがよくある。ストレスの解消にもなるし、程よい疲れは心地よい睡眠にもつながる。

この日もイヤホンから流れる曲を聴くでもなく、見慣れた風景を見るでもなく、かと言ってボーッとするでもなく、ただただ歩を進めていた。そういうときに限って、アイディアはやってくるものである。なぜだか、突然もんた&ブラザーズの名曲が頭をよぎり、その刹那、凄まじい「気付き」の衝撃が脳天から脊椎を走り、地面に抜けるのを感じた。きっと、初めて「Water」の意味を理解したヘレン・ケラーも、同じ感動を味わったことだろう。

落語中の談志……

談志、落語中……

談志、落語+ing(現在進行形)……!

談志ing……!!

ダンシング!!!

嘘だろ!おい!嘘だろ!! 駄洒落じゃねぇか!!
確かに踊れるサウンドとは書いてあったが、談志とダンシングをかけてるなんて、そんなのわかるか!!

こうして実際に言葉に起こしてみれば、嘘に染まってしまいそうなメンボとの出会いに、心躍る2016年の幕開け。まだ見ぬ味わい深いメンボとの出会いが期待できる予感で胸いっぱいのスタートとなりました。

[綾小路 龍一]