怒りの感情が隠しきれなかったメンボ『味わいメンボ百景』

連載・コラム

[2017/7/4 18:00]

インターネットの勢いに押されて数は減ったものの、いまだに音楽スタジオやライブハウスなどで確認できるメンボ(メンバー募集)の貼り紙。これらのなかには、これから始まるバンド活動への憧れや期待の大きさゆえ、少し空回ってしまった「味わい深い」ものも多くみられます。私たちに夢と希望、そして笑いを届けてくれるこれらのメンボは、ひとつの優れた作品なのです。

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第5回 怒りの感情が隠しきれなかったメンボ

メンボを行う上で絶対に必要な覚悟がある。きっと何度かメンボをしたことがある人ならば、一度は経験したことがあるだろう「バックレ」だ。なぜだかバンドマンにはバックレを罪だと思わない人が多い。イソップ童話とかで学ばなかった?善悪。

ボクの体感になるが、メールなどでのエントリーから、スタジオで音合わせが出来る状況にまで持っていける確率は6割くらいだ。途中で連絡が途切れるのはまだマシなほうで、不思議なことに多くの人が音合わせ当日にインフルエンザや急性胃腸炎などに罹患し、スタジオの予約時間が過ぎるまで音信不通になる。または、親戚が死ぬ。この現象は「メンボ七不思議」のひとつに数えられている。

顔合わせがダメなの? ボクの服装がいっそ裸のほうがオシャレに感じるくらいダサいからなのか、それとも地獄を煮詰めたような口臭が原因? それなら、事前の顔合わせは余計だ。スタジオで待ち合わせて、セッションからスタートすればムダがない!と思い、初顔合わせはスタジオでのセッションと平行することに決めた。1、2万円くらいスタジオ代を無駄にした頃かな……? 事前の顔合わせをなくすってことは、バックレの罪悪感をさらに少なくさせるってことに気づいたのは。

メンボとは、バックレに負けない根気が必要なのである。

~メンボ内容~
都内で活動中のパンクバンドです!
ドラム募集してます(^O^)/
連絡よろしくお願いします★
おい、バックレ野郎の「A」!死ね!
※「A」としてますが、佐藤とか、小林みたいに、ガッツリ名前が書いてありました。

死ねとか殺すとか、簡単に言っちゃダメなんだからね!

「死ね」。いたわりや友愛とは対極にある、シンプルな憎悪の感情である。前半のポップな文体からのギャップが、逆に恐ろしさを増長している。メンボに貼られた写真も何だかハードコアだ。白塗りだったり、モヒカンだったり、皆イカツイ表情をしている。悪の組織なら多分全員幹部クラスだ。写真には3人の人物が写っているのだが、スマホの画像認識ではひとりしか人物の顔と認識されなかった。さすがである。

それにしても、こんな大胆なメッセージを載せたメンボは、都内広しと言えどもなかなか見ることはない。改めて考えるとバンドもスタジオもスゴイなぁ、ハードコアだなぁと思い返したところ、このメンボは高円寺のスタジオで発見したことを思い出した。さすがである。

いかに高円寺のスタジオと言えど、バックレくらいで死ねは言い過ぎじゃない~?と、お思いの人は少なくないだろう。ただ、想像してほしい。こちらはもちろんバンドがやりたくてメンボを投稿し、相手も同じ気持ちで応募したはず。期待に胸を膨らませてスタジオを予約し、応募者を待つもバックレ……。スタジオ代もタダじゃない。婚活中にイイ感じになれた異性とデートの約束を取り付けてお店も予約したのに、バックレられたと考えれば、理解できるのではないだろうか。しかも、名指しで死ねとまで言わせるあたり、ただのバックレではない。おそらくバンド結成までに至り、本格始動やライブ日程が決まるまでしてからのバックレなのではないだろうか。これはもう婚約破棄レベルである。いくらなんでもそんな人いないでしょ?と、お思いの人も少なくないだろう。そんなことはない。むしろよく聞く話である。バンドを組んでからのバックレだってザラにある。

ボク自身メンボを重ね、当初の目的どおりとは言えないまでも、なんとかセッションバンドじみた、ベース、ギター、ドラムのトリオを組むことができた。この状態をベースとし、鍵盤やボーカルを探しながら何度かセッションを繰り返していた。新たにメンボで知り合った鍵盤候補を迎えて、セッションするために新宿のスタジオを予約し、迎えた当日。まさかのギターが失踪。鍵盤は当然のようにスタジオに来ず、後日インフルエンザだったとメールが来た。ドラムとはこのことがあって気まずくなり、自然消滅。積み上げて、完成間近でまさかの出直し。賽の河原かと思った。

そんなボクからしたら、メンボ主の気持ちは痛いほどわかる。口に出してはいけない単語を叫びそうになったこともある。具体的に言えば大島優子と同じ気持ちである。

メンボに多くみられる、ホウレンソウ(報告、連絡、相談)ができる人、体調不良お断り、信用できる人、などの記載を見るたび、みんな同じ苦労をしているんだろうなという共感と、「まぁ、そんなの書いてもムダだけどな!」という悟りにも似た諦めが胸を過ぎる。きっと、メンボのバックレはこの先もずっとなくならないだろう。バンドマンってきっとそういうものなんだ。だって、ここまで言っといてなんだけど、ボクもバックレたことがあるから。

[綾小路 龍一]