TAKEMURA(SNAIL RAMP)『43歳のバンドマンチャンプ』【勝利のアナウンスが鳴り響いたあの日(part.1)】

連載・コラム

[2015/11/5 00:00]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのメンバーでありながら、キックボクシングの日本チャンピオンに上り詰めたTAKEMURAの自伝的連載!


みなさま、こんにちは。SNAIL RAMPのボーカル&ベースのTAKEMURAです。スネイルは1995年から、そしてプロキックボクサーとしてのキャリアは2002年、31歳という遅すぎる年齢からスタートしました。

3度の手術など紆余曲折がありつつも、現役選手生活12年目となった2014年10月、43歳の挑戦者として27歳の現役チャンピオンと対戦しました。そして、どうにかNKBウエルター級チャンピオンになることができました。

僕は今年、現役生活13年を経て、12月12日(土)に後楽園ホールで引退します。ここへ来て、『耳マン』編集部から「キックボクサーとして過ごした人生を書き起こしてみないか」とのお声をいただきましたので、今回からしばらく僕の連載にお付き合い願えればと思っています。もし要望、感想などありましたら、ぜひ下記リンクのTwitterアカウントまでよろしくお願いします。

さて、初回は先述のタイトルマッチ、最終ラウンドの5R終盤から始まります。


負けたら、残された道は引退

「もう時間がない」――残り時間を見る余裕などなかったが、キックボクサーとして12年間、試合を重ねてきた感覚がそう思わせた。フルラウンドである5Rを闘ってきた身体にもうスタミナは残っていないが、せめて最後に有利な展開をみせて最終ラウンドを終わらせたい。負ければ俺に残された道は引退。ここで諦めたら「あの最終ラウンド、本当はもっとがんばれたんじゃないか」という悔しい気持ちで余生を過ごすことになる。

疲れた身体は重く、まるでスライムのなかで泳いでいるよう。速い鼓動、ゼエゼエと荒い呼吸は全力を出している何よりの証拠だが、勝つためにはさらにその先に踏み込まねばいけない。

「やるんだ!」

チャンピオンの上体に手をかけ、5発6発と左膝蹴りを連続で見舞う。「オーイ!」「オーイ!」「オーイ!」「オーイ!」と膝蹴りに合わせ会場から歓声が上がり、無我夢中の俺にもはっきりと聞こえる。そのままロープ際までもつれ込み、打ち鳴らされる試合終了のゴングをそこで聞いた。

「カンカンカンカンカンカンカン!」

そのゴングと同時に、チャンピオンと俺はほぼ同時に両手を挙げ勝利のアピールをした。「勝ったのは俺だ」――両者はアピールしたものの本当はお互いわかっていたはずだ。

「決定的な差は付いていない」

これはNKBウエルター級タイトルマッチ。挑戦者の俺が勝てばベルト奪取、チャンピオンが勝てばもちろん防衛成功だが、判定がドロー(引き分け)の場合もチャンピオンの防衛成功となり、挑戦者の俺は事実上の負けになる。「マズい……」自陣コーナーに戻った俺はそう思った。セコンド陣は「大丈夫だ!」と言ってくれたものの、どこか確証が持てていない感じの口振りは俺を不安にさせたのだった――。

これまでに2度、タイトルマッチで惜敗
このタイトルマッチからさかのぼること6ヶ月、俺は2014年4月にこのチャンピオンとノンタイトル戦で闘っていた。そのときは、ひとりのジャッジがチャンピオンを支持、ひとりが竹村を支持、最後の1人がドローと三者三様の判定を下し、 結果はドローとなっていた。

このノンタイトル戦は、「もしチャンピオンに勝つことができれば、タイトルマッチで再戦だ」と戦前に言われて組まれた試合。結果はドローだったために意気消沈したが、試合中盤にチャンピオンの膝蹴りで肋骨を折られるも、最後まで接戦を展開した試合内容が評価され、2014年10月にタイトルマッチでの再戦が決まった。そして、このチャンピオンと王座をかけて闘うこととなった。

それまでにもタイトルマッチの経験はあった。プロデビュー9年目の2011年10月、40歳にしてタイトルマッチに初めて挑戦したが、結果は判定負け。翌年6月の2度目のタイトル挑戦も判定負けを喫した。このときは試合中にハイキックで顎を折られ、数日後には手術をして入院。試合が終わって苦しい減量から解放されたにもかかわらず、まともな食べものは1ヶ月程食べられないという苦い経験もした。

しかし、これらの何よりも辛かったのは、応援してくれている人たちの期待を裏切ってしまったことだった。多くの人が「竹村がチャンピオンになる瞬間を見てやろう」と、決して安くはないチケットを買って、わざわざ後楽園ホールまで足を運んでくれたにも関わらず負けてしまった。自分のあまりの不甲斐なさに、人目も憚らず声を上げて泣いたこともあった。

そして同時に、SNAIL RAMPとの確執にも悩まされていた。対外的には「問題ないですよ。バンドもキックボクシングも両立できています」としていたが、やはりそんなわけはなかった。(続く)


<次回更新は11月17日(火)予定!>

【著者紹介】

TAKEMURA(竹村哲)
1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なう予定。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中だ。

[耳マン編集部]