バックドロップシンデレラの美しきベーシスト・アサヒキャナコが経営する隠れ家バーに行ってきた!
今、インディーズシーンにおいてもっともヤバイバンドがいる。バックドロップシンデレラだ。
ボスニアのアーティストからインスパイアされたという民族音楽を、“ウンザウンザ”と掻き鳴らし暴れ回っている。やたら音のデカいドラム、アフロヘアにメタルTシャツ姿のギター、観るものを引かせるくらいの奇怪なパフォーマンスのボーカル。そんなアクの強い連中に囲まれながらひと際目を惹くのが、凛とした佇まいの紅一点ベーシスト・アサヒキャナコである。
ハチャメチャな音楽性を支える堅実的なベースプレイはもちろんのこと、可憐な歌声と機械まじりのような魅惑ボイスを使い分ける絶妙なコーラスワークは、奇妙な楽曲&サウンドにさらなる不可解さをあたえ、そのミステリアスな美貌の前には男女問わずひざまずくしかない。
そんなクールビューティーなベーシストが持つ、バンドと別の顔とは──? “カフェ&バーを営む美人店主”と聞いたら、もう迷わず行くしかないだろ。
というわけで、やってきたのは池袋。サンシャイン60通りを駅側から進んで、東急ハンズ手前のABCマートを右折、さらに2本目の路地を右折して、右手にあるビルにその店『Loin d'ici (ロワンディシー)』はある。
池袋の隠れ家的バー“Loin d'ici (ロワンディシー)”
「開店してから3年半くらいになります。もともとバンドをやりながら、銀座でホステスをやっていたんです。そこで、基本的な接客マナーやお客様に対する考え方を培わせていただきました。たくさんの一流の世界に触れさせていただいたのでとても良い経験だったと思っています! いつか自分で、老若男女問わず気兼ねなくご来店いただける小さなお店を開きたいと漠然と考えてはいたのですが。思い立ったら早かったです。『物件どうしよ?』から始まり、開店まで3ヶ月くらいですかね」
3ヶ月って早くないですか!?
「内装が出来上がっていく過程はすごく楽しかったですが、実際は死にそうでしたね……。棚のペンキ塗りとかやれるところは自分でやりました。こだわりは、茶色と赤の配色。かわいい感じにしたくて」
定番メニューはあるのですか?
「食べ物は基本的にはないんです。最初はいろいろ考えてやったりもしたんですけど、意外とみなさん食べないんですよね。ただ、ご要望があればパスタとか簡単なものでしたら作ります」
この日は、北海道でのライブを終えた直後ということもあり、いくらから六花亭のマルセイバターサンドまで北海道名物がたくさん用意されていた。キャナコさんは北海道の出身である。なぜ、池袋を選んだのでしょうか?
「バックドロップシンデレラが池袋で結成されたんです。というのも、すぐ近くにAdm(アダム)というライブハウスがあるんですけど、そこによく出演していたふたつのバンドメンバーが集まった形なんです。正直、それまでは池袋という街に思い入れがあったわけではなかったのですが」
“すぐ近く”ということで、たまたまこの日、Admでイベント『ペリーのささやかな誕生祭』を開催していた、ギターの豊島”ペリー来航”渉氏がふらっとやってきた。キャナコさんの大学時代の先輩であり、バックドロップシンデレラ以前にバンドを組んでいた間柄でもある。
そんなペリー氏はキャナコさんのベーシスト像をこう語る。
「んー、ベース超初心者の頃から知っているのでよくわからないけど、いいんじゃないんスか??」
軽っ!軽すぎるっ!! なんかもっと旧知のバンド仲間だからこそ知ってる!みたいなさー。そういうの求めてます。
「なんだろ……。ツアー先などでの食べ物に対する執着が凄まじい。食べたいときに食べられなかったり、まずいものだったりすると一瞬にして不機嫌になる。ベース弾いてるときよりも、メニューを選んでいるときが最も真剣」
だそうだ…。「じゃあ、イベントはじまるので」ということで、ペリー氏はそそくさと店を後にした。
幅広い客層が集まるお店
午後9時近くになると、お店は常連さんを中心に満席になった。このお店の魅力を尋ねると「居心地がよい」「落ち着く」「気取ってない」などの応えが返ってくる。次に「キャナコ店主の良いところは?」の問いには至るところから「それは難しい質問だなぁ〜(笑)」との声が……。とはいいつつも、「気立てがよい」「飾らない」「話が面白い」@@などちゃんと答えていただきました。親しまれるキャナコ店主の人柄は愛されております。
「場所柄もありますけど、仕事帰りのビジネスマンの方がひとりで来られることも多いですね」
店内にはベースも飾ってある。「ベース弾いてよ」なんて言われることも多いんじゃないですか?
「弾きません。『高いですよ』って(笑)。隠してるわけではないのですが、基本的にバンドとお店は別に考えてます」
“美人店主がバンドでベースを弾いている”と聞いてどんなバンドを想像するかは人それぞれだとは思うが、これだけは言える、多くの人が考えるそれとバックドロップシンデレラはかけ離れているはずだ。刺激が強すぎるはず……。
「しばらくは聴かせません(笑)。『どんなバンドなの?』と聞かれたら『わーわーきゃーきゃーしてる賑やかなバンドです』と答えてます」
キャナコさんからバックドロップシンデレラを聴かせてもらったら、常連の証というわけか。中には、3年越しでライブに行ったという常連さんも……。
「最初、こっそりCDを買ってみたんです。『ああ、こういう感じなのか』と予想外でしたね(笑)。でも、聴いているとなんだか妙な心地よさを感じまして。アクの強さもあるんだけど、ゴリゴリなサウンドでもないし、意外と聴きやすい。面白いバンドだなと」
快くインタビューに応えてくれたのは、2〜3ヶ月に1度のペースで来店しているという星和彦さん。もともと音楽は好きでヘビメタからブルースまでいろいろ聴くそうだ。そう、バックドロップシンデレラって基本はヘンなんだけど、キャッチーで聴きやすくて妙な中毒性があるんだよなぁ。
バンドマンからビジネスマンまで、いろんな職業と幅広い年齢のお客さんが来店するのもロワンディシーの魅力。
「一般企業に勤めるビジネスマンの方でも音楽が好きだったり、昔バンドや楽器をやっていたという方もいたり。ウチはお客さま同士で会話することも多いので、そういう方と若いバンドマンが交流してる光景を見ると嬉しいです」
女性ベーシストとして、ほかと被らないようにしています
「キャナコさんのお客さまに対する細々とした気遣いには本当頭が下がります。でも天然の気があるので、たまにぼんやりふんわりしていたり、可愛らしい少女みたいな面も。その絶妙なバランスが最大の魅力。ぼんやりシャキっとガールです」
と語るのは、スタッフの青木凛さん。彼女もまたバンドマンであり、故・佐久間正英氏にデモ音源を送ったところ、ご本人が気に入り、インディーズバンドながら佐久間氏が自ら直接プロデュースを買って出たというバンド、アンドロメルトのボーカル&ピアノである。
「バンドってやっぱり男社会な部分があるし、その中で長く続けることって結構シビアなところもあるんですよね。キャナコさんは自分を持って輝き続けているので、本当に尊敬しています。そして、何よりあのステージでの立ち姿。美しくて、とんでもなくフォトジェニックなので、いつも見惚れています」
近年ガールズバンドをはじめ、女性メンバーがいるバンドが増えてきている。特にバックドロップシンデレラのように、女性べーシストのバンドもよく見かけるようになった。
「ほかと被らないようにしようと考えますね。対バンに女性ベーシストがいたら、その人と違うことをします。プレイも見た目も」
惜しげもなく美脚を披露したり、着物を着たり、サラシを巻いたり……むさくるしい男連中のなかで、その美貌による破壊力は抜群である。
それにしても、めちゃくちゃ身体鍛えてますよね?
「ジム通いで割りましたね。腹筋割ってる女性ベーシストっていないですかね?まぁ、ベースで隠れちゃうんですけど(笑)」
そもそもベースを始めたきっかけは?
「高校のときに、吹奏楽部でコントラバスをやってました。すぐ辞めちゃったんですが。普通のベースは大学のサークルで。スマパン(スマッシング・パンプキンズ)しか弾きませんでしたけど(笑)。もともと誰か好きなベーシストがいて始めたわけではないんですが、ベースは年々好きになっていきます。誰かに習ったわけでもないですし、自分でできることが増えていくと面白いですね」
2015年11月18日に最新アルバム『OPA!』がリリースされた。このアルバムにおけるベースの聴きどころは?
「はじめてスラップやってます。前からやりたかったんですけど、今までは楽曲&バンド的にいらないと言われていたので。今回初めて『スラップを入れてほしい』と言われて、『キターーッ!!』と思う存分やってます」
このアルバムの『よのっしーがやってくる』という曲で、スラップが炸裂している。“よのっしー”とは、埼玉県旧与野市非公認の“ゆるキャラ”であり、バンドのマスコット的存在としても愛されている。そういえば、さっきから視界に入り込んでくる黄色い物体が……
って、よのっしーやっ!!
よのっしーさんもよくお店に来られるのですか?
「はじめて偵察にきた。余は潜伏中の身である」
よのっしーは埼玉県で最も危険な思想と言われる「さいたま市ヨリ与野ヲ開放セヨ」という『与野解放戦線』を立ち上げた革命家である。そのため、至るところから命を狙われており、そそくさと姿を消した。
定休日は日曜・祝日。キャナコさんがライブやツアーのときは、凛さんを始めとしたスタッフが営業しているが、どうしてもというときは休業することも。そうしたお店情報は、FacebookとTwitterアカウントで随時発信されているのでチェックだ。
「凛ちゃんもそうなんですけど、バンドやってる女性スタッフに入ってもらったり、そういうところで活気づけていきたいです。お客さまも含めて、もっといろんな世代の人が交流できるようなお店にしていきたいですね」
池袋の隠れ家的バー“ロワンディシー”、ロック&音楽好きならぜひ一度足を運んでみてほしい。
<店舗情報>
cafe&bar『Loin d'ici (ロワンディシー)』
東京都豊島区東池袋1-23-1第一ソシアルビル5F
営業時間:19:00〜24:00
定休日:日曜、祝日