ボーカルを生かすも殺すもマイク次第という話【ロックのウラ教科書 Part.3】
プレスリー、ビートルズ、ストーンズ、ジミヘン、デヴィッド・ボウイ……歴史に刻まれた名盤の数々をレコーディングという側面で切り、そのウラに隠された噂の真相を探る新連載。
プレスリー、ジョン・レノン、マーヴィン・ゲイが愛用した伝統のマイクとは?
コンデンサーマイク、リボンマイク、ダイナミックマイクとさまざまなマイクがレコーディングでは使用されます。RCAの44BXというリボンマイクはエルヴィス・プレスリーがボーカル用に使っていたもの。昔のアメリカのニュース映像などでアナウンサーの前に立っているRCAの77DXは、アル・グリーンの『レッツ・ステイ・トゥゲザー』のボーカルで使用されていて、びっくりするほど柔らかい声質に聴こえます。1970年代に入ってからのジョン・レノンはノイマンのU87を使っています。ソロになってからよりビートルズ時代のほうが好きだな~という方は、もしかするとU87よりU47の方が好きな可能性がありますね(笑)。ほかにはジャクソン・ブラウンのファーストアルバムや、マーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイング・オン』のボーカルもこのマイクで録音されています。
マイクでボーカルが変わる説を信じない人はノラ・ジョーンズを聞け!
いやいやマイクでそんなボーカルが変わるほど違いが出るはずないでしょと疑う人もいるのではないかと思いますが、そういう方にはノラ・ジョーンズの聴き比べをお勧めします。デビューアルバムの『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』のボーカルはノイマンM49というビンテージマイクで録音されていて、ざらつきと柔らかさが同居したような、いかにも気持ちの良い音色です。
それと2002年頃のライブ映像で歌っている音を比べてみると、紛れもなくノラ・ジョーンズ本人の声であるものの、深みがなく軽い若者の声に聴こえます。もちろん、パフォーマンスのクオリティは高いですが、先にアルバムのほうを聴いてしまって刷り込まれているせいか、ちょっと物足りなく感じてしまいます。こう感じてしまう現象は1950年頃にもあったようで、当時にもジャズはライブが良いのか音源が良いのかという議論があったそうです。ナチュラルに聴こえるジャズの音源でも、やはり迫力があるような音に聴こえるようなギミックが使われていて、それを聴き込んだリスナーからすると、本物のライブにガッカリすることもあったのです。
この話が収録された『名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書』5月25日発売!
著・中村公輔
レコーディングがわかると、ロックがもっと見えてくる! バスドラムに穴を開けるようになったのはビートルズの無茶振りのせい!? スティーリー・ダンのドラムは生演奏ではなく本当は打ち込みだった!? 歪んだギターが誕生したのは壊れたアンプを新聞紙で応急処置したから!? 録音機材の進化と、破天荒なエンジニアが生み出したブレイクスルーを詳細に解説。『ザ・ビートルズ』ザ・ビートルズ、『ベガーズ・バンケット』ローリング・ストーンズ、『ペット・サウンズ』ビーチ・ボーイズ、『メタル・ジャスティス』メタリカ、『エイジャ』スティーリー・ダン、『ナイト・フライ』ドラルド・フェイゲン、『パレード』プリンス、『L.A.ウーマン』ドアーズ、『ラヴレス』マイ・ブラッディ・バレンタインなどなど、絶対の名盤が多数登場! ロックをより深く聴くための、リスナー向け録音マニュアル。5月25日に発売。全288ページ、1600円+税。ロックのウラを知りたいあたなのための1冊です!
◎なかむらこうすけ
1974年生まれ。1999年にNeinaのメンバーとしてドイツMile Plateauxよりデビュー。その後、自身のソロプロジェクトKangarooPaw のアルバム制作途中にずぶずぶと宅録にハマリ、気づいたらエンジニアに。近年に手がけたアーティストは、入江陽、宇宙ネコ子、Taiko Super Kicks、TAMTAM、ツチヤニボンド、ルルルルズなど。プロデューサー、作曲家、音楽ライターとしても活躍中。