『たのしいドルヲタ図鑑』【4人目:富士山ご当地アイドル3776にすべてを捧げる フカヲさん】

連載・コラム

[2015/12/18 12:00]

4人目:富士山ご当地アイドル3776にすべてを捧げる フカヲさん

 今や日本中、いや世界中に生息するドルヲタ(アイドルヲタク)たち。本連載では、そんなドルヲタのなかでも特にエッジが効いた個性的な人々を紹介していく。今回紹介するのは、富士山のご当地アイドル“3776(みななろ)”のすべてのイベントに通うフカヲさん。落ち着いた雰囲気で冷静に見える彼を熱くさせてしまうアイドルとは……?

フカヲさん

    年齢30代後半
    出身地福島県
    星座おとめ座
    趣味サウンド&レコーディング・マガジンを読むこと
    特技トルコ語
    現在の本現場3776(富士山ご当地アイドル)
    属性3776おまいつ。時々ライブ写真の撮影も
    鑑賞スタイル汗だく

    [※本現場(ほんげんば)……メインで行っているライブ(現場)、大切なライブのこと]
    [※おまいつ……“お前いつもいるな”の略語。ライブやイベントにいつもいるヲタクのことを指す]

    ブラジルで小学生時代を過ごし、中高は男子校で育つ
    「日本人の若い女の子は未知の生き物だ」
     フカヲさんは福島県で生まれ、父の仕事の都合で小学校をブラジルで過ごす。中学入学のタイミングで帰国してからは東京に在住。「帰国してからも中高6年間男子校だったので、10代の日本人の女の子って目にも入らないし完全にエイリアンというか、未知の生き物だったんですよ。何を考えているかが全然わからなかったんです。なので、のちにアイドルを好きになって観に行ったり握手して話したりするなんて、当時は考えてもみなかったですね」

    小学校高学年で音楽に目覚める バンドのスタッフも
     そんなフカヲさんは小学校高学年の頃から音楽に興味を持つようになる。「『電気グルーヴのオールナイトニッポン』で紹介されてる音楽を片っ端から聴いたり、DTMも好きで趣味でやってました。大人になってからもバンドのスタッフみたいなことをやったりしてましたね」。なお、XTCが好きすぎて、彼らが住むスウィンドンまで足を運んだことも。フカヲさんの好きなものへの情熱の深さがうかがえる。

    フカヲさんの部屋にはフカヲさんの好きなものがたくさん詰まっていた

    フカヲさんの本棚の一部。音楽関係の書籍も多い

    フカヲさんがドルヲタになった日

     そんなフカヲさんは2007年からPerfumeにハマり、2008年のツアー『Perfume First Tour“GAME”』を全通(※)するなどドルヲタ化が始まる。そして2011年2月に渋谷AXで行われたももいろクローバーと神聖かまってちゃんのツーマンライブにて衝撃を受け、本格的にドルヲタに。「1曲目の『Chai Maxx』が始まった瞬間に……ものすごい衝撃を受けたんですよね。目当てだったかまってちゃんがどうでも良くなってしまうくらいに……。その日を境に私は“ドルヲタ”になりました」。もともと凝り性で、好きになった対象のすべての活動を見届けたいという想いがあるフカヲさんは、ももいろクローバーZ(有安杏果推し)をはじめ、私立恵比寿中学(杏野なつ推し)、ライムベリー(MC HIME推し)、usa☆usa少女倶楽部(星野綾美推し)を応援するようになり、それぞれのグループのほぼすべての現場に足を運ぶことになる。

    [全通……ツアーなどで行われているすべての公演に行くこと]
    [※推し……“イチ推しメンバー”の略で、グループ内で特にひいきして応援しているメンバーのこと]

    ドルヲタになってからは同じCDを複数買いすることも

    2015年元旦、3776を初めて観に行く
    「誰が応援するんだろう……俺か」

     フカヲさんは、応援していた星野綾美ちゃん(usa☆usa少女倶楽部)の突然の脱退で傷心した1年後、新しいアイドルに出会う。それが富士山ご当地アイドル(※)の3776だ。イベントにDJとして出演していた掟ポルシェがかけた3776の楽曲が耳に止まったことをきっかけに、あえて何の情報も得ないまま2015年の元旦に3776の本拠地である静岡県富士宮市へ足を運んだ。
     「静岡県の富士宮市という縁もゆかりもない場所に、メンバーの名前も顔も知らない・何人組かも知らない状態で、変わったグループがいるという情報を頼りに行ったんです。元気広場っていう野外のステージで、すごい変な曲を3人だったり、2人だったり、1人だったりっていうよくわからない編成で歌っていて。お客さんも黙って観てるし、元旦だから超寒いし、近くにあったヒーターが故障して火吹き出したりとかしてて、でも曲がすごい変で耳に残って。頭のなかがすごく混乱して、ひとりで帰りの電車で“このアイドル、誰が好きになるんだろう”って考えてたんですよ。富士宮市から出てる身延線っていうローカル線に乗りながら、終点の富士駅に着いても答えが出なくて。頭が混乱してるまま電車で富士宮まで戻って、“あっ、俺か。”って気付いたんですよ。“このグループすごい面白いんだけど、誰が好きになるんだろう……あっ、俺が好きになったから観に行けばいいんだ”って気付いて、なんか泣けてきちゃったんですよね。すごい変だったんです。ほかのアイドルに似てる曲が思い当たらないすごい変な曲をやってるすごい変なグループで、ひとりだけすごい気になる子(井出ちよの)がいて……その子を観てたいなって思ったのがきっかけだったんですよね」
     当時3776は、まりりん、ちよの、すみれによる計3人で活動する#2+(しーずんつーぷらす)、ちよのソロである#3(しーずんすりー)とライブごとに違う編成でパフォーマンスをしていた。2015年4月からは現在の井出ちよの(現在14歳・中学2年生)ソロユニット(#3)に統一されている。

    [ご当地アイドル……地元を活動拠点とするアイドル。地方の特産品をアピールすることも多い。ローカルアイドル(ロコドル)と呼ばれることも。]

    3776が定期ライブを行っている『富士宮市花と食の元気広場』

    フカヲさんを虜にした3776の魅力

     3776を観に行きたい、応援したいと思ったフカヲさんは、それからというもの3776のほぼすべてのライブやイベントに足を運んでいる。時には自分以外にお客さんがいないときや、メンバーの身内しか観に来ていない日もあったそう。

    雲から少しのぞく富士山も美しい

    富士宮の名物・富士宮やきそば

     これまでさまざまなバンドやアーティスト、アイドルを観てきたフカヲさんをそこまで虜にする3776の魅力について聞いてみた。
     「ここ2、3年、東京のライブハウスで活動するアイドルやご当地アイドルってすごく増えていて“ちょっと可愛い子集めて、ちょっと面白い曲を作ってライブやれば小銭稼げるんじゃない?”っていうコンビニエントな感じで活動しているアイドルグループって、正直増えてきてると思うんですよね。それで一発スタートダッシュするっていうのはできても、1年くらいで失速して解散ていうパターンがとても多い。3776っていうのは石田彰というあまり本意を表に出さないプロデューサーが手がけていて、最初の1年間(前身グループのTEAM MII)は富士宮市のバックアップを受けて活動してたんですけど、今は一切支援なしで活動しているんです。メンバーも最初は7人だったのが現在はひとりになっているのに、楽曲自体は東京の耳の早いファンに評価されたりして、3年近く続いてるっていう。東京で評価を受けてるんだったら、東京で活動すればいいじゃんって普通だったら思うじゃないですか。だけどあくまで“富士山ご当地アイドル”っていうものにこだわって、すごく面白いことを地方都市から発信しようとしているっていう、その馬鹿さ加減というか不器用なところに付き合いたいというのもあるし、自分が大好きだと思うものを作っている人が地方にいるのならば、酔狂だけど自分が地方に行ったりして、地方にいるなりに支持をしたいと思うんです。可愛いアイドルが東京には何人もいたとしても、富士宮に行くほうが自分にとって楽しいことや発見がたくさんあるんです」

    フカヲさんが出演されているCM『「3776を聴かない理由があるとすれば」10/28発売!#2』

    ドルヲタになってから私は変わった
     そんなフカヲさんはドルヲタになってから変化したことが3つあるという。

    1つ目「ライフスタイルの変化」
     「ヲタになってスケジューリングの仕方が変わって、アイドルを観に行く予定を組んだあとにほかの予定を入れるようになったんですね。休みの日は1日に4公演観に行ったりとか。仕事はそれまですごく真面目にやってた反面、のめり込むような趣味への情熱もなくなってたんですけど、ももクロにハマッてヲタになってからは残業もなるべくしたくないし、土日に何もすることがなくて不安になることもなくなりました」

    2つ目「泣けるようになった」
     「私は今まで“泣く”っていう経験を一切してこなかったんですよ。泣いてる人を見て“なんで泣くの?”って思うくらい、泣けなかったんです。恋愛して彼女に振られても、好きなバンドが解散しても、悲しいけどなんでみんな泣くんだろうって不思議に感じてたんですけど、ドルヲタになってから泣けるようになったんです。感情のスイッチがどこかで入るようになったんでしょうね。応援してたusa☆usa少女倶楽部の子が突然脱退することになったときは、1週間部屋のなかで膝を抱えて泣いていました。気持ちを整理するために泣くというか。アイドルを応援していると、泣かないと整理できないことがたくさんあるから……」

    脱退してしまった子との思い出のチェキたちは整理できずそのままに。部屋のなかでここだけ時間が止まっているかのようだった

    3つ目「10代女子の成長や変化を見届ける面白さを知った」
     「小学生だと動物みたいなもんだし、高校生だとその場を取り繕うのを覚えてしまいますし、中学生という年代が1番変化や成長を観るのに面白いと感じるようになりました。4年間中学生のアイドルをずっと観てるって字面だけで完全にアウトなんですけど、あるアイドルが企画されて女の子が集められて、初めはオトナの言われるとおりやってても次第に表現の自我が芽生えてくる過程が、いい面でも悪い面でも、すごくわかりやすくダイレクトに見えるのが“中学生”という年代だからなんでしょうね。リアルに背丈も伸びるし。僕が観ているアイドルのプロデューサーさんたちもその“化学変化”を転がして作品に反映するのを楽しんでいると思います。」

    3776のメンバー井出ちよのについて
    「アイドルだし超人、観させていただいてありがとうっていう感じ」

     プロジェクトとしての3776の魅力を語ってくれたフカヲさん。現在の3776のただひとりのメンバー、井出ちよのについてはどんな感情を持っているのだろうか。
     「井出ちよのという子は今14歳の中学2年生で、自分にとっては鑑賞対象として大好きな年代ではあるんですけど(笑)、ガチ恋(※)するとか性的なものを感じるとかそういうのではなくて、本当に自分にとってのアイドルなんですね。自分にとってものすごく影響を受けた、例えば楳図かずおさんとか、杉浦日向子さんとか、横川理彦さんや掟ポルシェさんと同じクラスの人で。そういうレベルの人が今現在ガンガン活動して月に15本とかライブを行っていて、次のライブに行ったらとんでもない面白い展開があるんじゃないかと思うと、行きますよね。行ったら行ったで並のレベルのライブでもいっぱい良いことがあるし、行かない理由がないんですよね。もちろんすごく可愛いと思うし本人のパーソナリティも好きだけど、ステージに立って歌って踊って、パフォーマンスしてるこの子を観ていたいっていうのが1番大きいんです。自分にとってはアイドルだし超人だし、今こうして観させていただいてありがとう、っていう感じですね」

    [ガチ恋……アイドルにガチ(本気)で恋するヲタクのこと]

    3776のグッズや井出ちよのからのサイン。右のTシャツは3776のグッズではなくgoodbymarketというブランドのもの。富士山の標高である“3776”がプリントされてある

    フカヲさんの今後の目標
    「井出ちよのが40歳になっても表現しているところを観たい」

     そんなフカヲさんに今後の目標を聞いてみた。
     「今後の目標というか、こうなったらいいなって思うことがふたつあって。ひとつは、井出ちよのが“富士宮の元気市場に100人お客さんを呼びたい”って言ってるんですね。私が呼ぶわけじゃないですけど、“富士宮って楽しいよね”っていうムードにしていけたらいいなって。富士宮に100人ファンが来たら素敵だなって思います。もうひとつは、井出ちよのが40歳になっても表現しているところを観たい。初めて“この子が40歳になっても表現活動しているところに居合わせたいな”って思う女の子に出会ったんですよ。そのために今アイドルを辞めてほしくない。高校生や大学生になっても何かやっていてほしいなって思うし、そう思うことが苦じゃないというか。井出ちよのの表現活動を、どんな形態になってもひたすら観ていたい、って思います」

    3776の歴代のフライヤーたち

    フカヲさんの心の一節
    「まさか山登りするような子だとは思わないでしょ? 私も思わなかった 君の話に惹かれたのか 君に惹かれたのか」

     これは3776のファーストシングル『私の世界遺産』に収録されている楽曲『君と一緒に登りたい』の歌詞の一節だ。今回取材をしたところ、フカヲさんの話はとても論理的に整理されていたため、とても冷静な方なのだという印象を持った。しかし今回の記事を読んでいただいておわかりのように、本当は内に秘めた情熱を持つ方で、好きな音楽やアイドルへの想いの深さが伝わるような、とても惹き込まれる内容の話をたくさん聞かせてくれた。まさに“まさか山登りするような子だとは思わないでしょ?”という歌詞のような意外性を持つ人物だ。「仕事以外の時間は3776のことを考えています」と語ってくれたフカヲさんは、来年初めて富士山に登る予定だそうだ。今後も山に登りながら、3776を応援していくことだろう。

    3776ワンマンライブ『3776ライブに行かない理由があるとすれば』

    【場所】渋谷O-nest
    【日時】2016年1月16日
    【時間】11:00開場 11:30開演
    【チケット】前売/2500円(+1d)当日/3000円(+1d)
    プレイガイド【10/31 10時~発売】:ぴあ(280-393)・ローソン(78566)・e+
    ※プレイガイド購入者が優先して入場。公式サイトでの予約は12/16~予定。

    フカヲさんが制作された3776の非公式サイト

    [耳マン編集部]