掟ポルシェ『男の!ヤバすぎバイト列伝』【新聞配達・1】
本連載はニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当、DJ、ライター、ひとり打ち込みデスメタル「ド・ロドロシテル」など多岐な活躍をみせる掟ポルシェが、男気あふれるバイト遍歴を語る連載である。すべての社会人、学生、無職よ、心して読め!!
ナメまくりのバイト体験
俺はナメていた。仕事を、そして、人生を。
すべての労働と、それに従事する人々への畏敬が、圧倒的に欠けていた。故に、バイトで生計を立てていた若い頃の俺は、業務内容が単純作業であればあるほどまともにやる気がなく、パーフェクトに使えなかった。目も当てられないほど腐っていた。
上司が大事な話をしている最中は見えない角度でつるセコな変顔をすることでやり過ごし、業務上の指示は環境音楽としてとらえて右耳→左耳スルー。見た目にはわからないが脳内ではいやらしいことを考えるのに必死で何も頭に入らない。現場では俺流オリジナルで「よくわかんないけどこんな感じでいんじゃね?」的に実務をこなす。故に、どんな仕事も3日~3週間程度でクビになっていた。本当にどうしようもなかった。人間的にはともあれ、社会的にはただのクズだった。
「いまここでどうしようもないクソバイトをしている俺は本当の俺ではない」という甘えたことは、寝ている間と酒を飲んでいる間以外常に思っていた。若者にありがちな、(人には絶対に言わないが)漠然とした自己評価の高さをいたずらに胸に懐くバカの一人であったことは間違いない。
ふざけていてもあの時代はなんとかなったのだ。割のいい仕事などいくらでもある好景気時代に育った幸運な世代は、得てしてそんなものかもしれない。まぁまぁ適当にやって大事になったら逃げて次に行けばいいぐらいに思っていたのも事実であり、実際ケツをまくる時のスピードと思い切りの良さには眼を見張るものがあった。そして、どんな辞め方をしてもバイト料の請求だけは鬼の如しだ(電話だとまっとうなことを言われて説教されてしまう恐れがあるため、官製はがきに振込先だけ書いて送りつけて)。
こう言ってはなんだが、日本人男性は30歳ぐらいまで中身は子供同然なのである(突然思い切りの良い自己正当化)。その成熟しない精神の代表格が当時の俺であった。この連載は、いい加減な気持ち100%で仕事に望んできた俺のバイト懺悔録(懺悔成分極薄)なのだ。
初バイトは新聞配達
人生初バイトは、新聞配達だった。契約されたお宅の郵便受け(昭和っぽい表現)に新聞を入れるだけの簡単なバイトだし、そんなもん普通にやるだけならしくじりようがないと思うことだろう。しかし、俺が担当する区域の皆様からは毎日のようにクレーム電話が新聞店にバカスカ寄せられていた。そう、俺が朝刊を配るのが8時過ぎになったりするからだ。「バカ野郎! こんな新聞来んの遅くちゃあ朝出勤前に読めねえだろうが!」とお客様は激昂していらっしゃったようである。朝配るから朝刊! 間違ってない! 一体どこが不満なんでしょうか!? と当時の俺は割と本気で思い、文句を言ってきた家の新聞を玄関に叩きつけるように投げいれて対抗したりしていた。本当に、ナメているにもほどがある。俺の担当区域の皆様に謹んでお詫びしたい(今更遅い)。
【著者紹介】
掟ポルシェ
(Okite Porsche)
1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社刊)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン5刊)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど、活動は多岐にわたるが、なかでも独自の視点からのアイドル評論には定評があり、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。