掟ポルシェ『男の!ヤバすぎバイト列伝』【新聞配達・4】

連載・コラム

[2015/12/23 12:00]

本連載はニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当、DJ、ライター、ひとり打ち込みデスメタル「ド・ロドロシテル」など多岐な活躍をみせる掟ポルシェが、男気あふれるバイト遍歴を語る連載である。すべての社会人、学生、無職よ、心して読め!!


続・続・新聞配達(さらに嫌々と)


 新聞配達は単純労働な割に惰性では出来ないのがなんとも腹立たしかった。
 ルーティンワークのいいところとして、手さえ動かしてれば頭は別なことを考えていて良いというのがある。しかし、あの家は今月ずっと旅行に出ているから配らなくていいとか、あのマンションは○○号室が新聞取るのをやめるから○○日以降配らなくていいとか、毎日細かく配達部数に増減があり、寝起きで頭が働かない、いやもっと率直に言えば頭が9割方寝てるスリープウォーク状態のまま配達してると、キッチリ部数持って出たはずなのに何故か2部ぐらい余ってるという事態が起きがちだ。

 そういうときは慌てず騒がず、適当な家のポストに無差別無料プレゼントし、何食わぬ顔で家路に就く。どの家に配ってどの家に配ってないのか、考えたってわからないものはわからないので考えてはいけない。その諦めの良さは精神衛生のため絶対必要だ。
 もし、新聞を配り忘れた家のことをいつまでも気に病み、結果俺がPTSD発症したら誰が責任をとってくれるというのか? 新聞一部110円(当時)×2部=220円と俺の心の健康を天秤にかければ、自ずと答えは見えるはず。

 こういうややこしい事態を避けるため、俺の担当区域では、引っ越した奴等はもう住んでいない家であっても新聞を取り続けていて欲しいし、旅行中に読まない新聞を家に配達されることを気にしない人ばかりの国になって欲しいと全力で祈っていた。
 人間、気遣いというのが大切だ。そして、たかだか日給300円程度の薄給で新聞を配ってくれるこの俺に、お前らもっと気を遣わなくてどうするのだと思っていた。配達中不平不満がすぐ顔に出ていつも目が座っていた。

 誤配した分は給料支払時に天引きされるのだが、その度に新聞販売店社長らに対し、「たかが1、2部の新聞を配り忘れたぐらいで、ただでさえ安い給料から更に差っ引くとは、実に尻の穴の小さい奴等だ」ぐらいのことは本気で思い、腹を立てていた。もちろん新聞配達を労働ではなく「ちょっとの時間嫌なことをガマンすればお金がもらえるシステム」程度に考えていたからだ。寒い朝、まだ日が出ないうちに起きて、ちり紙交換の材料になるしかない無意味な大型の紙を肩から大量下げ、嫌々ガマンしてハァハァ虫の息で配ってやったのに、更なるお小言とともに二重苦を与えようとは何事だと。
 雇用者である社長の娘a.k.a.タケちゃんマンから職務怠慢を注意されながら手渡しの月給をもらう際、ありったけの生返事で謝りながらも、帰り道腹いせにその辺のガードレールにドロップキックを食らわせて歪ませる程度には腸を煮えたぎらせていた。
 新聞販売店から家までの間の路地に、何度怒りのあまり野糞を垂れて放置してやったか計り知れない。野糞のし過ぎで家でトイレに行く回数が極端に減っていた。


高校の修学旅行にて。嫌な新聞配達バイトをしばらく休めて最高だった。


【著者紹介】

掟ポルシェ
(Okite Porsche)
1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社刊)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン5刊)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど、活動は多岐にわたるが、なかでも独自の視点からのアイドル評論には定評があり、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。

[耳マン編集部]