【新聞配達編・最終回】掟ポルシェ『男の!ヤバすぎバイト列伝』第6回

連載・コラム

[2016/1/27 12:00]

本連載はニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当、DJ、ライター、ひとり打ち込みデスメタル「ド・ロドロシテル」など多岐な活躍をみせる掟ポルシェが、男気あふれるバイト遍歴を語る連載である。すべての社会人、学生、無職よ、心して読め!!


新聞配達編・最終回


 新聞配達をクビになったのは、高2から高3になる間の春休みのことだった。
 毎年この時期地元の高校の合格発表があり、それを印刷したものを号外として配らなければならないんだが、まぁなんというか、面倒だったのだ。朝刊とは別に夕方イレギュラーに配達させられるくせに、一回200円だかのハナクソ程度の端金しかもらえないとあって、言わせてもらえば、まぁ恐ろしくダルかった。

 3月の北海道は春とは名ばかりの猛吹雪や極寒に見舞われることも珍しくなく、外を確認して一面銀世界だったときの絶望感たるやハンパではない。寒い→面倒臭い→でも号外配達しないと→寒い→面倒臭い→でも号外配達しないと、の強迫神経循環に苛まれること数十分、あ、そっか! と、ある名案を思いつく。

「よし、雪に穴掘って埋めよう」。

画・掟ポルシェ

 半ペラ一枚の号外とはいえ、100部近く部数があると結構かさばるため、捨て場所を見つけるのも一苦労。だが幸いここは3月の北海道、ヨッコラショと雪に穴を掘りサクッと埋めれば、5月に遅い春が来る頃には溶けてドロドロになり、パッと見「んっ、粘土?」ぐらいの元号外だった残骸が、俺の担当区域のアパートの裏庭にベタッと放置されるだけだ。俺頭いいんじゃないかと割と真剣に思った。

画:掟ポルシェ

 バレたらどうするかは特に考えていなかった。というより、寒い中たった200円のためにヒーコラ言うのが嫌で嫌で仕方ない、そのかったるさが自分内で圧倒的勝利を収めていた。新聞専売所に行って何食わぬ顔で号外を受け取り、いい塩梅に雪深く&目立たない路地裏をサーチ&号外をサックリ雪にインクルード。石油ストーブガンガン焚いて超温い自宅へ帰宅した。完全犯罪だと思っていた。お菓子とか食べて寝転がって半日楽しく過ごした。

 翌朝、朝刊を配達するために専売所に行くと、タケちゃんマンがこれまで見たこともない最大級の暗い表情とともに事務所の中から現れ、俺に向かって巨大な溜息を吐きかけた。

 「高橋くん、配ってないしょ?」
 あっさりバレていた。
 「お客さんから号外届いてないって10件ぐらい文句来たわ……あんた、配ってないしょ?」
 その通りなんだが、とりあえず取り繕うことにした。いや! 配ったはずなんですけど! おかしいですね! なんでですかね! と。焦れば焦るほど、ひときわ丁寧な口調になっていた。
 「もういい……もうこなくていいわ。朝も遅いし、いきなり当日休みも多いし、いままで我慢してたけどもう無理だわ。ハァ……明日から来なくていいわあんた」
 いや、あの、今度から時間通りに来てちゃんとやりますんで! と一応言ってはみたものの、いくらなんでもこの「今後はちゃんとする宣言」が無理があることぐらいは自分でもわかっていた。一応食い下がるだけ食い下がってみたが当然無駄だった。
 「も~ういい。も~ういいわ……」
タケちゃんマンが片手をひらひらさせてさよならポーズをとり、こぶしを回す演歌歌手のような口調で俺に解雇通告を下した。号外を捨てたのはさすがに気が大きすぎたようだった。

 人生初バイトは、クビという形で終わった。だが、そこで反省するような俺ではない。「明日から朝遅くまで寝てられる! ラッキー!」ぐらいにしか思ってなかったので、以降25歳ぐらいまで依然としてナメた勤務態度でバイトに臨んだ。リアルにクズだった。

 たまに海外で働く日本人のテレビ番組で、アフリカの政情不安定な国で日本人経営者が会社を興したら、現地人労働者が適当な勤務態度でズルばかりしているのを見ることがある。中高校生時分、新聞配達をやっていた頃の俺はまさにあのアフリカ人労働者と同じ感じだったので笑えない。

(※あまりにも酷すぎるので、多分この文面はフィクションです)


【著者紹介】

掟ポルシェ
(Okite Porsche)
1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社刊)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン5刊)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど、活動は多岐にわたるが、なかでも独自の視点からのアイドル評論には定評があり、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。

[耳マン編集部]