【高校時代いい加減な気持ちでやったバイトの数々】掟ポルシェ『男の!ヤバすぎバイト列伝』第7回

連載・コラム

[2016/2/10 12:00]

本連載はニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当、DJ、ライター、ひとり打ち込みデスメタル「ド・ロドロシテル」など多岐な活躍をみせる掟ポルシェが、男気あふれるバイト遍歴を語る連載である。すべての社会人、学生、無職よ、心して読め!!


【第7回】高校時代いい加減な気持ちでやったバイトの数々


 あの糞忌々しい新聞配達をクビになり、開放感に浸る日々が続いた。朝も高校の一時間目が始まる頃ゆとりを持って起床し、二時間目の授業に間に合うか間に合わないかぐらいの時間に焦ることなくゆとりを持って登校。単位制の高校なのかといえばそうではなく、もちろん素行が悪いというわけでもない。大体の部分は品行方正であったが、生まれつき定刻通りの行動を遵守することにはどうにも長けていないと自主判断し、ゆとり過剰な遅刻ライフを満喫していただけだ。1980年代中盤にはすでにゆとり世代をひとり先取りしていた。

 そして持ち前の可愛げだけで大体のことは許されてきた。若くて理解力のある担任教師からさえも、「お前、ナメてんの?」と時折ストレートに戒められることもあったものの、遅刻する以外は特に問題のない生徒だったため、面白い遅刻の理由を口から出まかせでクリエイト(「風が強くてなかなか前に進めなかった」等)し、でも、あの、スンマセン! とその場で死ぬほど大げさに謝ってオチを付ければまず逃げきれた。必要以上に謙ることへの才能の萌芽であった。

毎日2時間目ぐらいから登校していた高校時代。新聞配達をクビになって晴れやかな笑顔

 労働意欲は0~マイナスをキープ。しかし、金はなくなる。コンビニすらない1980年代の北海道の田舎町で、高校生が新聞配達以外の定期バイトを探すのは至難の技だったが、欲しいレコードと本があり過ぎて、仕方なくちょこちょこ短期バイトを探してきてはやった。

 正月の年越しそば作りに忙しい時期、製麺所で1週間バイトしたときには、就業時間が朝9時だったこともあって普通に定時出社できた。俺のほかに若いのがいなかったせいかパートのおばちゃんも良くしてくれて職場環境もよく、何の問題もなく働いた。「早朝クソ早い時間に起きるのが苦手なのと、タケちゃんマンと社長親子が人をうまく使えないどうしようもない奴らだっただけで、俺には何の問題もなかったんだよなぁ」と、雪に穴を掘って号外埋めて新聞配達をクビになった事実をすっかり忘れ、勝手に納得していた。自分にとって都合のいい考え方をする競技があったならば、北海道大会優勝レベルに達していた。

 隣町のスーパーで友人数名と、獲れたばかりの秋鮭の一日販売をやったときには、調子よく口上を述べれば述べるほど売上が伸びて、自分が心を込めない上っ面の営業トークに向いていることを知った。高校生のバイトが心づもりひとつで値引き販売する権限を与えられていたのは、いま考えると地元のスーパーの店長大丈夫かと思うが、故にこの仕事は面白かった。

 俺も適当だったが、面白いウソをつかせたら学年で一番だった照井はもっと酷かった。明らかに腰が曲がったズボンにうんこついてそうな小汚いババァをロックオンして、「お姉さんキレイだから安くしちゃうン!」と、(それはさすがに言われた方も怒るだろ)というレベルのウソを速射砲的に叩きつけていた。するとどうだろう、数秒後頬を赤らめたババァはまんまと鮭を買っていくではないか。ズボンにうんこついてそうなのに、だ。ウソでも調子よく言えればOKだとわかってからは全員照井方式を取り入れ、とにかく来る客来る客「うわー! お姉さんキレイでビックリ! 鮭買うでしょ!?」と、ナンパものAVでももう少し段階踏むだろ的なセールストークを開始&バンバン鮭を買わせることに成功。朝には300本以上あった秋鮭が、夕方4時にはすべて完売したのだった。

 帰り際、店長から感謝の言葉とともにバイト代をもらった。それは新聞配達だと半月分の額だった。「仕事には向き不向きというものがある」という重要な事実に気付くとともに、「金稼ぐのって意外とチョロいな」と、仕事というものに対するナメた意識を雪だるま式にゴロンゴロンに肥大させていくのだった。

地元のキャバレー前で先輩の革ジャンを着て中指を立てる。出演しているフィリピンダンサーをひとり残らずファックしてやる! という意味ではない


【著者紹介】

掟ポルシェ
(Okite Porsche)
1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社刊)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン5刊)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど、活動は多岐にわたるが、なかでも独自の視点からのアイドル評論には定評があり、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。

[耳マン編集部]