掟ポルシェ『男の!ヤバすぎバイト列伝』【新聞配達・5】

連載・コラム

[2016/1/13 12:00]

本連載はニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当、DJ、ライター、ひとり打ち込みデスメタル「ド・ロドロシテル」など多岐な活躍をみせる掟ポルシェが、男気あふれるバイト遍歴を語る連載である。すべての社会人、学生、無職よ、心して読め!!


新聞配達・5


 明けの空が白みきってから数時間経過、朝日と断言するのが憚られる太陽本来のギラつきを感じ始める頃、ようやく新聞専売所に辿り着く。社長の娘a.k.a.タケちゃんマン(アイメイクに毎日失敗し眉をごん太塗装する故の蔑称)の大きな舌打ちと極寒の冷たい視線を「下等動物のやることだ、気にしないに限る」とやり過ごしつつ、これから配達する新聞をたすきにかけて嫌々装着していると、同じくだらしのない勤務態度のいつものメンツに会う。

 一個上の先輩で、家に頻繁に遊びに行くほど仲が良かったブラッド・サースティー・ブッチャーズの初代ドラマーの佐野さんも、ギリギリアウトな朝6時半出勤。「バンドマンは生活態度がだらしない」という一般論を地で行くファックな姿勢を堂々保ち続けており、同じく朝ちゃんと来ない派を固く自認する俺とは波長が合った。「社会や権力の言いなりには決してならない」というパンク精神を雇用関係にまで適用する履き違いが、俺たちの怠惰をグングン育んでいったのである。

 学校が休みに入っていたある日、佐野さんが余裕で遅刻を続けるので女社長がしびれを切らし、「佐野くん、ちょっと毎日遅すぎるんでないの? お客さんから新聞遅いって文句来てるべさ。あんまり酷いようだと、辞めてもらわないとならないわ」と、重みのある口調で叱責。それに対して佐野さんが取った行動はというと、かぶっていたパーカーのフードをおもむろに脱ぎ、学校がしばらく休みだということで染めた金髪を見せつけ、無言でひたすら睨みつけるというものだった。斬新すぎる対抗手段であった。

 呆れた社長が事務所の中に戻った後、同じく遅れてきていた俺に向かって誇らしげに、「金髪見せてガメッて(=睨みつけて)やったら、ババァめちゃくちゃビビッてたべや!」と勝利宣言。遅れて出勤したのを真っ当に咎められたことに一切怯むことなく、逆にあんまりガタガタ言うとブチ殺すぞ! とばかりに全力で睨み返すとは……。
(これがパンクと言わずに何がパンクだというのか……佐野さん、カッコイイぜ!)

 この完全に間違った行いは、俺の目にはとても美しく映っていた。何故なら俺もまた己の労働意欲の欠如を「パンクスがちゃんと働くなんてちゃんちゃらおかしいぜ! 飼い慣らされてたまるか!」と、パンク的な生き様にすり替えていたからだ。実際、パンクよりも俺はニューウェーブやアイドル歌謡曲を、佐野さんはハードロックやメタルを好んで聴いていたので、真面目に働かないことを指摘されたときだけ都合よくパンクを自称した感は否めなかった。つまり、多くの真面目に生きているハートフルパンクスの皆さんにこの場を借りてお詫びしたい。

 「仕事は真面目にやるべきだ」……そんな当たり前のことに気がつくには、まだまだ時間がかかるのだった。


【著者紹介】

掟ポルシェ
(Okite Porsche)
1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社刊)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン5刊)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど、活動は多岐にわたるが、なかでも独自の視点からのアイドル評論には定評があり、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。

[耳マン編集部]