掟ポルシェ『男の!ヤバすぎバイト列伝』【新聞配達・3】

連載・コラム

[2015/12/9 12:00]

本連載はニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当、DJ、ライター、ひとり打ち込みデスメタル「ド・ロドロシテル」など多岐な活躍をみせる掟ポルシェが、男気あふれるバイト遍歴を語る連載である。すべての社会人、学生、無職よ、心して読め!!


初めての彼女


新聞配達をしていた中2の冬、初めて彼女が出来た。生徒会役員などもやっていたため下級生女子を中心にそれなりにちやほやされ、バレンタインデーにチョコを何個かもらえる程度にはモテていた。
おかげで童貞をこじらせているような部分はいまもあまりなく、逆に童貞をこじらせているような者のことは心の中で全力で蔑んでいる。歪んだ性格にならなくて本当によかったと思っている。


続・「さぼり」


最初の彼女は、少し気まずかった。何故なら、相手が新聞専売所のまっちゃん(当連載第2回目参照)の娘だったからだ。まっちゃんには非常に迷惑をかけていると思っていた。
睡眠時間が足りず(オールナイトニッポンを木曜1部のビートたけしから2部の谷山浩子までぶっ通しで聞いてから寝ていたため)朝起きるのがスーパーダルいときは何の躊躇いもなく電話をかけ、「熱が42℃出てもうダメです」とウソをつきズル休み、悪天候だったり寒かったりした日にも電話をかけ、『生きる』の志村喬に学んだ死にかけ風の声色&聞き取れる最小ボリュームで「下痢が止まらなくて動けません」とか適当なことを言いズル休み、そのしわ寄せが全部まっちゃんに行く。
まっちゃんの顔色がいつ見ても土偶っぽいマットな土気色だったのは、俺含むチンタラバイト数名が超ライトな気持ちで自主ホリデーを決め込んだため、まっちゃんが一人で一日何区域も新聞を配るハメになったからだという良心の呵責が心のどこかにあったのだ。
まぁ心のどこかにある程度なので、実際はまったく気にせずズル休みし続けたわけだが。

まっちゃん(画:掟ポルシェ)


交際方法は文通


中1の時同じクラスだったまっちゃんの娘から、中2のバレンタインデーにチョコと手紙をもらって即時・全力で食いつき、こちらから「実は可愛いと思ってた! よかったら付き合って!」と性急な内容の手紙を返信した結果、晴れて付き合うことになった。
交際方法はもちろん文通。付き合うと言っても何をどうしていいかわからず、そのまま手紙のやり取りをすることになっただけだ。
手渡しは恥ずかしくて無理だったので完全郵送で。新聞配達の給料の大部分が切手代に消えるほど猛烈に文通した。
この頃「可愛い女の子には性欲がない(=ブスは全員ヤリマン)」と何故か信じて疑わなかったため、ズリネタにすら一度も使用しなかった。
まっちゃんの娘はお母さんに似たのか顔色も土気色ではなく普通にかわいかったこともあり、いやらしいことをするなんて滅相もないと割と本気で思っていた。
何を言っているかわからないだろうが、病気でない方のリアルな中2のやることだと大目に見て欲しい。

中1。見た目ではそれほどわからないが、世の中をナメきっている


人生初デート


そんな中、遂にデートすることになった。お互い半袖を着ていたことは覚えているので、恐らく中3の夏休みとかだったと思う。
人生初デートということで緊張しすぎて、口が乾きすぎて唾液が干からび、雑菌の繁殖した酸っぱい臭いがしていないか気になって仕方がなかった。
デートとはいっても特に何をするではなく、地元の海辺のあまり人気のないところを、途切れ途切れに会話しながら数十分一緒に歩くのが限界で、すぐに帰ってしまったことしか覚えていない。手も握ったかどうかも記憶が定かでない。


初デート、その後


初デートの後、まっちゃんの娘からピタリと手紙が来なくなった。そしてほどなく自然消滅。呆気無く人生初交際が終了した。
理由はわからないが、多分俺のことだから余計なことしか言わなかったんだろうと思う。
「一年の同じクラスの時、目が眠そうで半開きだということで一部の男子から「フランケン」というアダ名で呼ばれていたよね。でも俺はそうは思っていなかったよ」と、彼女の嫌な記憶を呼び覚ましたことが悪かったのかもしれないし、キュロットスカートとハイソックスの間の絶対領域が健康的で眩しかったことを伝えるのに失敗し、デート直後に俺が書いた手紙に「太もも、パッツンパッツンに太かったね!」と冗談めかして書いたのがストレートに受け取られ逆鱗に触れたのかもしれないし、本当に緊張のため唾の乾いた異臭が口からしていたのかもしれないし、破局の真相は未だにわからない。

いや、よく考えてみれば、「お父さん(まっちゃん)、いつもがんばってるよね、俺は見てるよ」と、父親であるまっちゃんの精勤な仕事ぶりを誉める方向に話を持って行ったことが悪かったのだろう。彼女がそれをまっちゃん本人に伝えたならば、自分の範囲を超えてがんばらねばならないのは娘の彼氏である俺が頻繁にズル休みをするからだということがバレ、「うちのお父さんの顔色を土気色にしていたのはお前か!」となるからだ。

あの頃の俺は、バイト先での勤務態度が最悪だっただけでなく、女の子に対する話し方も恐ろしくナメていたと思うので、この場を借りて謝りたい。
いつかまっちゃんの娘に再会することがあったら、丸めた新聞紙で顔面をフルスイングで殴ってもらおうと思っている。


【著者紹介】

掟ポルシェ
(Okite Porsche)
1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社刊)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン5刊)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど、活動は多岐にわたるが、なかでも独自の視点からのアイドル評論には定評があり、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。

[耳マン編集部]