一切の誠意が感じられないメンボ『味わいメンボ百景』

連載・コラム

[2017/8/7 11:00]

インターネットの勢いに押されて数は減ったものの、いまだに音楽スタジオやライブハウスなどで確認できるメンボ(メンバー募集)の貼り紙。これらのなかには、これから始まるバンド活動への憧れや期待の大きさゆえ、少し空回ってしまった「味わい深い」ものも多くみられます。私たちに夢と希望、そして笑いを届けてくれるこれらのメンボは、ひとつの優れた作品なのです。

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第7回 誠意って一体なんだろう?

誠意とはなんだろうか。誠意が足りない、誠意をみせろ。さまざまなシーンで誠意という言葉を聞くが、実態がよくわからないものだけに、急に出せと言われても困る。逆に、実態のないことを逆手にとれば、“誠意”という言葉は使い勝手がいいのかもしれない。しかし、必要以上に誠意をアピールすることが愚策であることを、かつてかの有名な誠意大将軍(a.k.a羽賀研二)殿が証明してくれた。

誠意を伝えるには一体どうすればいいのだろうか。必要以上な“ガムシャラ”ぶりをみせれば伝わるもののように思えるが、一歩間違えればただのポーズであることがバレバレで、滑稽である。誠意をみせるというのは、案外普通のことを普通に行えばいいだけなのかもしれない。ポイントポイントを外さず、真面目に、丁寧に行うこと。それが一番の誠意なのかもしれない。何事も過剰でなくていいのだ。しかし、それすらまともにできないのがバンドマンのいいところでもある。行儀よく真面目なんてできやしないアホの合奏団。それがバンドマンだ。

~メンボ内容~
バンドメンバー募集
ラスティックヤローゼ
サイコビリー、ジャイブ、オールディーズ、ロカ、クンビア、メスティソ、ロックラティーノが好きなクズ感満点なあなた

その素材、何なの?

正直、書いてあることのほとんどが意味わからん。字も雑で、なんのパートを募集してるかも書いてないし、これは本当にメンボなのか? クンビアとかメスティソとか、暗号にしか見えない。……まさか、これはメンボに見せかけたなんらかのメッセージ……?(2回目)

調べてみると、ラスティックという、サイコビリーやアイリッシュパンク、オールドジャズなどを融合したジャンルがあるらしい。つまり、ラスティックヤローゼとは、ラスティックをやろうぜ!という意味のようだ。

また、クンビア、メスティソ、ロックラティーノ、これらも音楽ジャンルのひとつであり、いずれも南米をルーツにしているノリのいい音楽のようだ。試しに聴いてみると、なるほど、ラテンのノリが心地よく、非常にカッコいい。

書いてある内容は理解した。ただ、このメンボ、ほかにも実に気になることがある。メンボの紙は、プリンタなどで大量に作成するためかA4サイズのコピー用紙を使用しているケースが多い。一方でこのメンボはあまり他所で見かけないサイズ感であり、紙質も独特だ。写真を加工しているので、上手く伝わらないのが残念だが、非常に薄く、涼しげな印象を与えてくれる紙。どこか夏らしくもあり、ぶっきらぼうにボールペンで書きなぐったメッセージとは裏腹に、繊細な印象を受ける。紙の強度も儚げで、羽のように軽やかで柔らかく、肌触りもよさそうだ。

何かのこだわりか? そう思い、そっと手に取る。おおよそ受け入れがたい事実に気がついた。……ハンバーガー屋とか喫茶店でもらう紙ナプキンじゃねーか! もしくは厚めのティッシュペーパーだったのかもしれない。紙ナプキンとかティッシュにボールペンで殴り書きしたメンボ……。キミに問いたい。そこに誠意はあるのか!? テキトー感丸出しのリクルート。そのくせ、一度書いたアドレスの記号を読みにくいと判断したのか、もう一度書き直し、カタカナでアンダーバーと補足する気づかい。意外と繊細! ……っていうか、書き直せ! ティッシュだろうがナプキンだろうがいくらでもあるんだから! 紙がもったいない、地球に優しくないって判断か? やっぱり、意外と繊細!

長い間メンボ愛好家として活動してきたが、こんなに誠意を感じないメンボはなかなかない。「クズ感満点」なメンバーを募集してるとのことから、狙ってやっているのだろう。効果は抜群だ。メンボ自体からも紙クズ感を満点に感じる。そう考えると、誠意を出さないところに、逆に誠意を感じてきた。真面目なヤツは来るな、と、そういうことなのだ。多分。しらんけど。

これを提出したメンボ主もすごいが、受け入れた店員もアッパレである。出すも出したりメンボ主。貼るも貼ったりスタジオ店員。改めてまじまじみてみると、サイコビリーを強調するため、「サ」の字を二重になぞって書いているのだが、紙が薄くてちょっと破れてしまい、そこから普通に書いているのがなんだか可愛い(スーパー雑なメンボだし、クズ感とか言ってるけど、絶対悪いヤツじゃないよな……)。誠意は伝わらないけど、人間は伝わった。どこか少し、ほっこりした。

[綾小路 龍一]