ANZEN漫才・あらぽんの『アダチニスト〜足立区ストーリーズ〜』第22回:足立区拉致ドッキリ(後編)
足立区で生まれ育ったあらぽん(ANZEN漫才)が足立区のリアルをつづっていく新連載!
ジャージ猫男
(前回からの続き)半年後、その日は突然やってきた。夜中に先輩3人と萩本と公園でたむろっていたら、近くのマンションの駐輪場に鍵がついたままのバイクが置いてあるのを先輩が見つけてきた。先輩3人は境川くんと伊藤くんと鹿野くんだ。
境川「鍵つきのバイクあるんだけどどうする?」
鹿野「いらないでしょ」
境川「乗りたくない?」
鹿野「別に」
境川「1回見に行かない?」
ということでバイクを見に行くことになり、みんなでマンションの駐輪場へ。そこにはハンドルにグローブ、大きめの風避けと鍵がついたスーパーカブが停まっていた。
伊藤「おじいちゃんが乗るタイプのじゃん。ていうかおじさん以上が乗ってると思うよこれ」
鹿野「ミッションだしやめといたほうがいいよ」
境川「練習したくない?」
そんなやりとりをしていたら駐輪場入り口から声が聞こえた。
「お前らなにしてんだよ」
焦って逃げようとしたが入り口と出口が同じタイプの駐輪場だったため逃げれなかった。近づいてきた男は金髪のロン毛に白のカール・カナイのジャージ、そして黒猫と白猫に紐をつないでいた。
ジャージ猫男「お前らバイクパクろうとしてたろ?」
境川「してないです。ただ見てただけです」
ジャージ猫男「お前ら俺がここで通報すれば全員捕まるからな」
境川「ほんとに見てただけです」
ジャージ猫男「どうせお前ら○中だろ?」
境川「そうです」
このときジャージ猫男が言った中学はまったく別の学校だった。
ジャージ猫男「お前ら通報されたくなかったら1回うちに来い。話あるから」
境川「わかりました。俺だけでいいですか?」
ジャージ猫男「ダメ、全員」
境川「わかりました」
境川くんの男気は秒でくつがえり、僕たちは全員ジャージ猫男の家に行くことになった。ジャージ猫男の家は昭和に建てられました感全開の薄暗いアパートの2階だった。2階に上がる階段は塗装がはがれいて、手すりも全力でいったら壊せそうなほど劣化していた。
部屋に入るとすぐに台所があり、畳の部屋がふたつの2DK。土壁で電気は昔ながらカチャカチャタイプで紐を長くしていた。なんでこういうやつってこういう家?な家で、小さいテーブルの前にジャージ猫が腰かけた。目の前には灰と吸い殻が山積みの灰皿があった。
ジャージ猫男「とりあえず座れよ」
僕たちは横並びに座らされた。
伊藤「話ってなんですか?」
ジャージ猫男「今からやべーやつ呼ぶからそいつと話せ」
と言いジャージ猫男が電話をかける。
ジャージ猫男「もしもし、○○さんいいの見つけました。原付パクろうとしてたとこ捕まえました。来れますか?」
ジャージ猫男が話しているとふいに電話を差し出してきた。
ジャージ猫男「電話出ろ」
境川くんが電話に出た瞬間、男の怒鳴り声が電話からもれてきた。「てめぇら、クソガキ、殺す」などの言葉が聞き取れた。雰囲気的にジャージ猫男とは比べものにならない猛者なんだと誰もが悟った。こいつがもしここに来たらやばい。全員がやられる覚悟をしたが、いっこうに怒鳴り男が来ない。
1時間、2時間、3時間……僕たちはジャージ猫男のタバコの煙ばかりみていた。ふいに猫が鳴くとみんな一斉に反応してしまうような緊張感のなか、ジャージ猫男が「とりあえず全員携帯番号と名前教えろ」と言い出した。そして、なんの紙切れかわからない紙にメモリ始めた。
1人目、境川くんのターン。
「小林です」
2人目、伊藤くんのターン。
「竹本です」
!? みんな偽名でいくんすか?
3人目、萩本のターン。
「田中です」
4人目、鹿野くんのターン。
「鈴木です」
そして、俺のターン。
「新井です」
テンパりすぎてほぼ正解を出してしまった。そして携帯番号を聞かれ、それぞれが持ってない、親の携帯、などの理由で回避していたが、目の前で携帯を使ってしまった僕と、「持っていない」と携帯を握りながら言い出した伊藤くんは逃げ切れずで、ふたりだけ番号がバレてしまった。それからはジャージ猫男の武勇伝などを聞かされ、気がつくと朝になっていた。
飲みものもない状態で8時間近く家にいて、許されたのはトイレだけ。さすがにもう怒鳴り男も来ないし、ジャージ猫男が限界を迎えて言い出した。
ジャージ猫男「今日は○○さん来なそうだからお前らもう帰れ。このふたりの番号にあとで電話するからそれに出ろ」
僕たちは長い拘束から解放された。結局なにが言いたかったかはジャージ猫男からは聞けなかったが、その日の夕方、怒鳴り男から電話かかってきた。
怒鳴り男「おい、お前逃げたんか? ○○だよ」
あら「いや逃げてないです。○○さんが帰っていいって言うんで帰りました」
怒鳴り男は終始、半笑いな口調でしゃべってくる。
怒鳴り男「お前ら暴走族やれよ。俺がバイクも用意するしけつももってやるから」
あら「いやそういうのあまり興味ないので大丈夫です」
怒鳴り男「名前も決まってるからやれよ。お前ら昨日バイクいじくろうとしてたんだろ?」
あら「ほんと見てただけです。すみません」
怒鳴り男「じゃ興味ありそうなやついるか?」
あら「いやちょっとわからないです」
怒鳴り男「腰抜けだなお前ら。もうじき○○っていう暴走族できるからもし絡まれたら俺の名前出していいからな」
あら「わかりました。ありがとうございますぅ!」
怒鳴り男「今回は勘弁してやっからあんま調子こいたことすんなよ」
あら「すみませんでした! ありがとうございますぅ!」
こうして僕らは難を逃れた。その後、足立区のいたるところにその暴走族の落書きが出現していた。
8時間拘束されていたとき、誰かがトイレに行きたいと言うとジャージ猫男は必ず、
「お前絶対座ってしょんべんしろよ」
と言ってきた。なぜ座らせたのか、大人になってわかった。雑にみえたジャージ猫男は意外に几帳面だったのだろう。