【オネエの考察】『おっさんずラブ』にはなかった“ゲイあるある”に「わかるわ〜」の連続! 『きのう何食べた?』のおもしろさ

連載・コラム

[2019/6/14 18:12]

2018年のヒットドラマ『おっさんずラブ』に続き、2019年もLGBTを題材にしたドラマが続々と放送されている。そんななか話題を呼んでいるのが『きのう何食べた?』だ。展覧会(6月13日から東京・渋谷のGALLERY X BY PARCOにて)も開催されるなど大きな注目を集めている同作だが、リアルなゲイライフを送っている新宿2丁目の住人の目にはどう映っているのか? ドラァグクイーンとして活躍し、コラムニストとしても著書『永遠ていう安室奈美恵なんて知らなかったよね。新宿2丁目も愛した歌姫』を発売しているアロム奈美江が『きのう何食べた?』の魅力をつづる!

(c) 『きのう何食べた?』製作委員会

ゲイのリアリティがよく表現されているドラマだわ

今春スタートのテレビドラマは各局でLGBTを扱ったものが多数オンエアされていてSNSでもなにかと話題だというのに、自宅のテレビを処分してから数年経つためほとんどチェックできていない私……。だけど、そんな私でも唯一、友人宅に押しかけてまで視聴しているドラマが『きのう何食べた?』よ。

ドラマ制作発表と同時に、ダブル主演として西島秀俊(筧史朗役)、内野聖陽(矢吹賢二役)の出演が決定となった際、Twitterのタイムラインにいるゲイの友人知人たちがザワザワと色めきだっていたわ。彼らは総じて原作のファンであり、配役の妙に感心する声をあげていたのよ。そういえば、原作漫画が『モーニング』で連載スタートした当初も、ゲイ友たちの間で「あれ、いいよね」と好意的な意見が飛び交っていたっけ……と思い出したら、このドラマ化の機会に絶対チェックせねば!という気に満ち満ちたのよ。

観た結果から申しますと……非常に良き! 期待を裏切らない作品だったわ!
原作ファンからすれば、漫画から実写化となると違和感を感じる部分が多少なりあるかもしれないけれど、私は原作を読んでいないから、主演ふたりの演技やドラマ自体の世界観にすんなり入っていけたというのも、好印象の要因のひとつかも。それ以外にも職場や周囲の友人たちにゲイであることをひた隠しにしている、通称“クローゼットゲイ”の筧と、ゲイであることを一切隠さない“オープンリーゲイ”の矢吹、ふたりの日常に起こる何気ない出来事や会話のやりとりに“ゲイあるある”がたくさん散りばめられていて、うんうん、わかるわ〜! とテレビの前で思わず叫んでしまうのよ。

例えば、夜の営みについて職場でベラベラと話してしまった矢吹に、筧が怒りをぶつけたことで矢吹が涙するシーン。
「なんで自分だけ恋人の話をしちゃいけないの」──わかるわ〜!
日頃から男らしく振る舞っている筧のほうがウケだったというのも、あるあるだし。

筧が実家に帰った際、ゲイであることを受け入れているようで実は根本的に理解しきれていない両親との会話シーン。
「で、どんな女性だったら大丈夫なんだ?」──きっつー!

筧がひょんなことから知り合った主婦友達に、「(ケンジと)絶対別れたくないんです」と話すシーン。
「(もし別れたら)まずゲイのマッチングアプリに登録して出会いを探して、また1から恋愛するなんてめんどくさい」──切実ぅ〜!

こんなにゲイのリアリティがよく表現されているのは、原作者・よしながふみ先生が多くのBL作品を生み出した腐女子作家だから!というだけではなく、丁寧なリサーチがあってこそなのでは、と推測してみたり。

内野さんの絶妙なイントネーションや声色による台詞回しや、細かい仕草で表現するオネエ感は、私たち当事者から見ても自然だし嫌味がなくていい。そして何より、筧が矢吹のために愛情あふれる料理をこしらえ、それを食しながら会話する食卓のシーンでは、「こんな落ち着いた関係の彼氏ほしぃ〜!」とか「こんなふうにラブラブでふたりご飯してたこともあったわ〜!」とキュンキュンさせてくれるの。

私が彼氏のためにご飯をせっせと作ってたのなんて10年以上昔の話だわ〜。あーん、せつな〜い!(知らんがな)

この『きのう何食べた?』、すでにDVD&Blu-rayの発売が決定していたり、ドラマの雰囲気を生身で体感できる展覧会が開催中だったり……この人気を支えているのはゲイよりも腐女子のほう。この人気ぶりは昨年大ヒットとなったドラマ『おっさんずラブ』を彷彿とさせるわね。実際、私も『おっさんずラブ』ファンで、同じく大ファンのバイセクシュアル女友達と一緒に展覧会まで行ってグッズも買っちゃったくらい。展覧会に来てる来場客は99%が女性で占められていて、私、気まずかったわ……。

『おっさんずラブ』との違い

ただ、『きのう何食べた?』と『おっさんずラブ』は男性同性愛を主軸にした作品同士ではあるけれど、その魅力はだいぶ違うのよね。『おっさんずラブ』は、作品中に「ゲイ」や「LGBT」といったワードが一切出てこないし、同性愛に関する説明もなければ、差別・偏見に悩むキャラクターも登場しない。それが新しかったのよ!

LGBTを扱ったドラマ作品といえば、『同窓会』(1993年)から始まり、『3年B組金八先生』第6シリーズ(2001年)、『学校じゃ教えられない!』(2008年)など、多くの名作があるけれど、いずれもセクシュアルマイノリティならではの苦悩が描かれていた。だけど『おっさんずラブ』においては、まるで当たり前かのようにゲイのキャラクターが続々登場し、好意を寄せる男性へまっすぐに告白していくの……。

その点、ゲイあるある満載の『きのう何食べた?』は、『同窓会』などの既存ドラマ側に属する作品といえるかもしれないけれど、観ていてそれほど深刻にならずに済むのは、タイトルにもあるとおり、まるで料理番組か!?と勘違いしてしまうような調理シーンが合間に入っていたり、ほのぼのするふたりの食事シーンが中和剤となってくれているからだろうね。

ふと気づけば、『きのう何食べた?』最終回までカウントダウンが始まっているけれど、私ったら寂しがるどころか、もうすでに続編に期待しちゃってるわ。続編が決まるまでに“自宅にテレビ設置”が、私の大きな課題だわね……。

アロム奈美江プロフィール

ゲイをテーマにした電子書籍ライター、ゲイ雑誌『Badi』編集者を経て、2009年にドラァグクイーンデビュー。プライベートでは、30歳から女性ホルモン投与を始め、ゲイからトランスジェンダーの領域へ転向。2018年12月15日には安室奈美恵への思いをつづった書籍『永遠ていう安室奈美恵なんて知らなかったよね。新宿2丁目も愛した歌姫』を発売。

◎『永遠ていう安室奈美恵なんて知らなかったよね。新宿2丁目も愛した歌姫』
https://www.amazon.co.jp/dp/4845633329

アロム奈美江

ゲイをテーマにした電子書籍ライター、ゲイ雑誌『Badi』編集者を経て、2009年にドラァグクイーンデビュー。プライベートでは、30歳から女性ホルモン投与を始め、ゲイからトランスジェンダーの領域へ転向。現在は、流しの女装パフォーマー、ホステス、MC、イベントオーガナイザーとして節操なく小銭を稼いでいる。