賛否両論!? 多様な愛をテーマにした紅白でのMISIAのステージはオネエライターの目にはどう映った?

連載・コラム

[2020/1/7 17:00]

前後半の2部制となった1989年以降でのワースト視聴率を更新したことが報じられている2019年大晦日の紅白歌合戦。とはいえ、前後半ともに30%以上の高視聴率をマークしており、豪華出演者によるステージの数々は日本中におめでたい気分をたっぷりとお届けしてくれた。なかでも、ステージ上にレインボーフラッグを掲げてパフォーマンスを行ったMISIAには注目が集まり、ネット上でも大きな話題に。そんなMISIAのステージはオネエライター・アロム奈美江氏にはどう映ったのだろうか!?


私は新宿2丁目でkiiちゃんになりきっていたわ

いよいよ2020年、東京オリンピックイヤーを迎えましたが、その直前に当たる2019年大晦日の夜をみなさん、どうお過ごしだったのでしょうか? 「テレビ離れ」などと囁かれるなかでも、やはり大晦日の風物詩である紅白歌合戦を家族や友人たちと視聴して1年の終わりを過ごした人は多いはず。

私はというと、これまた毎年恒例となった新宿2丁目の大晦日イベント『女装紅白歌合戦』に出場していたため2019年もまたリアルタイムで紅白歌合戦を観ることはできなかったの。

『女装紅白』とはなんぞや? という読者の方はぜひググってお調べになって。なにげに18回も続いている歴史あるイベントなのよ。そこで私は、氷川きよしさん(以後、kiiちゃん)のなりきりショーを披露しておりました。

最近のkiiちゃんがライブで『限界突破×サバイバー』を歌う際にはゴンドラに乗って宙を舞うのがお約束なようなので、それを再現するべく、私は会場で使用されている台車をお借りして、そこに乗り、スタッフに動かしてもらうという安直かつチープな仕上がりのショーだったけど、「それがいい!」とごく一部のオカマたちから評判で少し照れちゃう私。てへへ。

そんなことをしていたので、毎年どおり紅白歌合戦自体は録画したものを後日チェックしてみたのですが、私にとっての見所は2部の後半にギュッと詰まっていました!

石川さゆり様、竹内まりや様、ユーミン様と超がつくベテラン歌姫でいちいち心を掴まれたあとに、kiiちゃんと聖子ちゃんの一騎打ち。こんなのどっちが勝ちとか決められない!っていうか、kiiちゃん、金のドラゴンに乗って『限界突破×サバイバー』を歌ってたのね……。ちょうど同じ時間帯に私は新宿2丁目で台車に乗ってたっつーのに! 悔しい!(比べるとこ違う)

レインボーの架け橋をかけてくれたMISIAに拍手! よく思わないLGBT当事者も!?

そして感動のフィナーレは、紅組のトリを務めるMISIA様!

年齢や性別、国境を超越した愛の形をテーマに『アイノカタチメドレー』を披露していたのだけど、それがどこをとっても素晴らしくて、私ったらうっかり泣いちゃうところだった!

『アイノカタチfeat.HIDE(GReeeeN)』に続いて流れたのは、“ゲイアンセム”として新宿2丁目のクラブでもおなじみの『INTO THE LIGHT』。するとコンテンポラリーダンサー、ポールダンサーに加えて、ハウスミュージック界の皇帝・DJ EMMAさん、そしてゲイクラブシーンの最前線を行くドラァグクイーンの大先輩たちが全身シルバーの衣装で続々登場! さらには、バックコーラスにはミッツ・マングローブさん率いるユニット・星屑スキャットもちゃっかりいるじゃない!

最後の代表曲『Everything』では、LGBTのシンボルであるレインボーフラッグがMISIAの真後ろにあるスクリーンにどでかく映し出され、kiiちゃんなどの他の出演者もレインボーフラッグを手に持って応援するという演出でクライマックスを迎えたのよ!

多様な愛の形を賞賛し、祝福するパフォーマンスに打ち震える感動を覚えたし、毎年『女装紅白歌合戦』でご一緒していたドラァグクイーンの先輩たちが本家の紅白に出ている! という誇らしさに涙腺も緩んじゃったの……。出演していたドラァグクイーンたちのTwitterを見ていると、パフォーマンス演出、衣装制作にも当人たちが関わっていることがわかり、さらに感服したわけなんだけど、私にとっては喜ばしい以外の何者でもないこのMISIAのパフォーマンスにも、実はよく思っていないLGBT当事者もいることがTwitterで判明した。

その人たちの言い分の多くはこう。

「日本もこういう時代だからって、急にレインボーフラッグやドラァグクイーンを使っちゃって逆に違和感」

「私はLGBTのこと理解してます感に嫌悪感を感じる」

まあ、感じ方は人それぞれなので、LGBT当事者にも様々な感想をもっている人がいて当然だし、別にどっちが正しいとか間違っているとかを審議するつもりはないわ。ただ、これだけは言いたい。MISIAは、昨日今日LGBTフレンドリーをアピールし始めた歌手なのではないのよ。ミリオンセラーを連発していた1999年には本人のライブツアーで、他のアーティストの誰よりも先んじてドラァグクイーンを起用しているの(私自身も新宿2丁目に出てくるはるか昔の話なので先輩方から聞いたことだけど)。

また、2007年にはエイズ対策支援の活動にも積極的に参加しているの。ただLGBTフレンドリーなわけでもなく、彼女はアフリカをはじめとする世界の子どもたちの教育支援を10年以上続けていたり、世界平和の大切さを発信する活動にも取り組んできた人なの。ここまで支援活動に熱心なアーティストって日本のなかでも稀有な存在かも。

だから、LGBTフレンドリーの姿勢を示しているのも、MISIAが平和を願っているから以外のなんでもないんじゃないかと私は感じているわ。大きなレインボーフラッグを掲げ、ドラァグクイーンなどのLGBTのパフォーマーがわんさか集合する様は、日本各地のゲイイベントやプライドパレードでよく見られるし、日本のメディアも多く取り上げるようにはなったけれど、70年も続く紅白歌合戦という国民的音楽番組であのパフォーマンスを高らかに成し得たのはまさに偉業としか言いようがない。

紅白歌合戦も過去には、桃組と呼ばれるオネエタレントチームが登場したり、性同一性障がいを公表している歌手の中村中さんが紅組で出場したりしていたけれど、今回ほど男女で紅白を分ける意味ってあるの?と考えさせてくれた回はなかったんじゃないかしら。音楽を通して、年齢や性別、国境を越えられるレインボーの架け橋をかけてくれたMISIAに拍手!

ってか、紅白どちらも女装でお送りする『女装紅白歌合戦』が、カオスでありながらとってもフェアで先進的なイベントに思えてきたわ(笑)。

アロム奈美江

ゲイをテーマにした電子書籍ライター、ゲイ雑誌『Badi』編集者を経て、2009年にドラァグクイーンデビュー。プライベートでは、30歳から女性ホルモン投与を始め、ゲイからトランスジェンダーの領域へ転向。現在は、流しの女装パフォーマー、ホステス、MC、イベントオーガナイザーとして節操なく小銭を稼いでいる。