彼女の音世界を具現化させ調和させた秀逸なジャケット~ケイト・ブッシュ『魔物語』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
[2019/12/4 12:00]
実際14歳の頃にはすでに自然と曲が頭に浮かんでしまうくらいの作曲能力を持っていたそうだから、まさしく天才少女だったということだろう。ただ『嵐が丘』のMVはその美しい曲調に反してかなり狂気的な不気味さも孕んでいて、柔軟な体でクネクネと踊るケイトの姿にはちょっとゾッとさせられる部分もある。ただまあそんなところも彼女の魅力というか、不思議な魔力になっているのだが。
彼女のサードアルバムにあたる『魔物語』も相変わらず美しさと不気味さを絶妙に合わせもつ彼女らしさ全開のアルバムとなっている。イギリスのどこか陰のある湿った空気感がそのまま内包されたような世界観で、そのなかでさまざまな表情をみせるケイトの歌唱にはやはり本物の妖精とすら思えてきてしまうような人間離れした雰囲気を感じる。ちなみにケイト本人も初めて自身でプロデュースした作品ということでこの作品にはかなり満足しているらしい。
ジャケットはまるで古い絵本のような雰囲気だが、さまざまな動物たちが女性(ケイト本人?)のスカートのなかから無限に飛び出してくるというかなりシュールな絵である。しかし、ケイトの生み出す音世界をうまく絵として具現化させ調和させた秀逸なジャケットだと思う。逆に考えてもこのデザインと調和するような音楽をやっている者などケイトくらいのものだろう。デザイナーがケイトの音楽をよく理解しているということが伝わってくるジャケットだ。ついでに『魔物語』という邦題にもセンスを感じる。
イギリスの風土が生み出したケイト・ブッシュという名の妖精。彼女の紡ぎだす不思議な魔物語にあなたも迷い込んでみてはいかがだろうか。
ちなみに僕は『恋のから騒ぎ』よりも『夜もヒッパレ』派でした。