音楽性、世界観を見事に表している素晴らしいジャケット〜サヴァタージ『ガター・バレエ』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第156回:音楽性、世界観を見事に表している素晴らしいジャケット
今回ご紹介するのはこちら。
サヴァタージ『ガター・バレエ』(1989年)
サヴァタージはアメリカのヘヴィメタルバンド。キャリアは非常に長く、デビューは1980年代に入ってからだが、1970年代には活動を開始していた。実力はあるものの日本では長らくマニアックバンド的な扱いを受けていた彼らだが、初めて日本盤が発売されたこのアルバムあたりから評価が高まっていき、日本でもそれなりの知名度と立ち位置を確立するようになる。ただここしばらくは目立った活動をしていないため、若いメタルファンからすれば多分ピンとこないタイプのバンドだろう。
で、この記念すべき初の日本盤が発売された『ガター・バレエ』だが、これはメタルファンにはぜひとも聴いていただきたい名盤である。むしろメタルの歴史的名盤のひとつとして数えられていいレベルとすら思う。音楽性は劇的でドラマチックなヘヴィメタル。しかしマノウォーあたりのような勇壮な感じというよりはブラック・サバス的な陰鬱さに近く、そこにオペラチックな風味を施したアレンジで、知らずに聴けば普通にヨーロッパのバンドだと思うだろう。
とにかく全編を通して素晴らしいと思ったのはギターサウンド。クリス・オリヴァというギタリストで、彼は1993年に事故で亡くなってしまうが、その洗練されたテクニックはソロでも輝きを放っているし、同時にバッキングにおいても楽曲のよさを引き立たせる役割を見事にこなしており、そこらのテクニカル系ギタリストとは一線を画す個性と才能を感じた。ちなみに彼の使用ギターはESPのギターでしょうか? いろいろ書かれているクレジットのなかにESPの文字は見えるのだが、なにしろ音を聴いて自信をもって判断できるような耳をもっていないもので。とにかく彼のギターを聴いてESPの音っていいなーと思わされた。もし全然違ってたらてへぺろ大戦争だ。
ちなみにボーカルはややクセが強く、どちらかというとスラッシュメタル系の声質をもっているタイプなので、この音楽性からするとミスマッチ感がありとっつきにくく感じるかもしれない。まあ慣れれば別に気にならないが。
ジャケットはまさにアルバムの音楽性、世界観を見事に表していて素晴らしい。画家は不明だが画力は高い。画面を縁取るように描かれている柱と幕は鑑賞者に外側からその世界を覗いているような印象を与える効果があり、フェルメールや広重なんかにもそういった演出の作品はある。音楽のジャケットとして見るとこの絵に描かれている世界が、音としてどのように聴かせてくれるのかより楽しみに感じるというものだ。バレリーナお化けがまたミステリアスな味を出している。
というわけでこの『ガター・バレエ』、間違いなく日本でももっと評価されるべき作品なので、少なくともメタルファンでまだ知らない人はぜひ聴いてみてほしい。
もし気に入らなかったらそれはもうどう考えてもてへぺろ大戦争だ。