こういうところで10時間くらいぼーっとしたい〜バッハ『カンタータBWV173』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第154回:こういうところで10時間くらいぼーっとしたい
今回ご紹介するのはこちら。
バッハ『カンタータBWV173』(2000年)
以前クラシックギターのアリリオ・ディアスを取り上げたことはあるが、いわゆる純粋なクラシックとしてはこの連載初となる。というわけでご登場いただくのは音楽室の壁でお馴染みのバッハのアニキだ。
まあ勿論その存在を知らない人はいないだろうが、意外としっかり向き合って彼の音楽を鑑賞する機会はないと思う。僕もクラシックは多少なり嗜むが、主食としているわけではないので、あまり深くは知らないというのが正直なところだ。誕生日が僕と同じ(3月21日)というのは知っているが。
さて本作はバッハのアニキの数多く残したカンタータ(器楽伴奏つきの声楽曲)のうちの2曲『レーオポルト殿下』と『高められし肉と血よ』を収録している。そして面白いのがこの2曲、非常に似ているのである。というのも、小難しいライナーノーツ(トーマス・カントルやらクラヴィーアやらカルヴァン派やらクラシックに精通してないと理解不能と思われる暗号まみれの文)を何とか解読するに、どうやらこの2曲は全く別の機会に作曲を求められたものの、忙しすぎて新曲を作っている余裕のなかったバッハが過去の自分の作品を転用しているものであるらしいからだ。まあそれだけが理由ではないかもしれないが、いかに天才と言われていようとも超多忙のなか次々と新曲を生み出す余裕はさすがになかったのかもしれない。それもまあ仕方のないことだ。バッハだって人間なのだから。ちなみに現代の我々が使っているニュアンスとは若干異なるが、音楽上において自分の作品を転用することを“パロディ”と呼ぶらしい。
一部を除いてほぼそのまま転用されている2曲だが、最後の合唱に関しては『レーオポルト殿下』のソプラノとバスに、アルトとテノールが加えられた『高められし肉と血よ』版が格段に神聖さが増していて感動的だ。
そしてクラシック音楽のCDジャケットといえば定番はやはり名作絵画かヨーロッパの城や聖堂の風景。こちらは後者。ある意味で無難ではあるので「そりゃあいいだろう」ともいえるのだが、しかしやはりこの人のいない薄暗い聖堂の雰囲気というものは、まるで呼吸が止まるような荘厳さがあって個人的にたまらないものがある。こういうところで10時間くらい何もせずぼーっとしたい。
というわけで今週は音楽の父バッハさんを取り上げさせていただいたが、音楽室の壁から彼は現代の音楽をどう見ているだろうか。もし毎夜ベートーヴェンやモーツァルトとロック談義でもしていたら……お祓いが必要だ。