【掟ポルシェの食尽族】番外編:ラーメンのみで8000字! 2022年に食べて美味しかったものあれこれ

連載・コラム

[2022/12/31 12:00]

自称「食べもののことになると人格が変わる」ほど食に執心する“食尽族”でミュージシャンの掟ポルシェ(ロマンポルシェ。、ド・ロドロシテル)が、実際に食べてみて感動するほど美味しかったものや、はたまた頭にくるほどマズかったもの、食にまつわるエピソードについて綴る連載。読んで味わうグルメコラムがここに!


番外編: 2022年に食べて美味しかったものあれこれ(ラーメン部門)


2022年に食べて美味しかったものあれこれ

【ラーメン部門】
★東京・高円寺『ともちんラーメン』の『中華そば』&『もり中華』
★東京・一橋学園『中華そば と』の『煮干中華そば(青のり抜き)』
★東京・荻窪『人と羊』の『羊中華』&『番紅花そば』&『灰汁魔そば(万願寺ドルマトッピング)』
★沖縄・美栄橋『むとう』の『一口沖縄そば』(※サービスで出てきたやつ)
★佐賀・西唐津『竜里ラーメン(かため、月見増し)』
★名古屋・今池『呑助飯店』の『重油ラーメン』(※通称)
★東京・荻窪『らーめん髙尾』の『ラーメン(玉子入り)』
★札幌・南郷7丁目『二代目けけけ』の『もやし醤油ラーメン(自家製チャーシュー乗せ)』
★東京・西早稲田『渡なべ』の『昔懐かしい背脂ラーメン(味玉入り)』&『幻の渡なべネオノス』
★埼玉・航空公園『㐂九八garaze』の『三種の貝出汁潮そば(味玉入り)』
★東京・井荻『あんくるてい』の『ニコニコそば』

 2022年! 食に関するありったけの言葉のツバをデローリと吐きかけた下品な拙著『食尽族〜読んで味わうグルメコラム集〜』を出版した年! それのあれで食に関するインタビューを割とちゃんとした媒体から複数受けるなどして、「掟さんってグルメですもんね!」と順調に勘違いされてきております! 自分で書いといてなんですが、口に合わない料理をクソだミソだ吐瀉物以下だとあらゆる表現を駆使して地獄の底まで全力で貶める本出すような輩がグルメを名乗っていいわけがないです! 例えばうちの子どもの通う小学校の先生から「お父様は本を出されているようで? どんな本を書いておられるのでしょう?」と問われたら、張り付いた笑顔で「本など出していませんよ」とピシャリ言い切りバックレ必至。人格が疑われるような本自分で出しといて申し訳ない! (特に九州地方のデフォで醤油が甘い地方の方々が何かの間違いで読んでしまい)読後感の悪さに閉口したならそれは俺じゃなくて出版社が悪いと思うの! 俺は一応止めましたよ!? 「インターネットならまだしも、紙媒体なんかにしたらうっかり読んで絶対怒る人出てきますよ」って! でも、出しちゃったもんはしょうがない! う~ん、あとは野となれ山となれ! 俺知~らね!
 ただですね、こちらの書籍『食尽族』ではマズいものへのありったけの罵詈雑言だけでなく、俺が食べた美味いものもバランス取るためにちゃんと掲載しておりまして。 そっちのほうは地味な信頼を勝ち得ておるようで、俺レコメンドのうまいものアワードなんかの取材もあったりするようになりました。というわけで、俺が選んだ個人的な食べログ=オレログ! 2022年勝手に百名店ならぬ約二十俺名店をダラっと列挙! 場合によっては過去ツイートを堂々まんま貼り付けちゃう! あんま長い文章、読まされるほうも辟易しますもんねえ? じゃ、手短に!

【ラーメン部門】

 ラーメンという食品について考えている時間が明らかに増えてきた、そうそれが俺にとっての2022年。だってラーメンって、昔に比べて本当に美味しくなりましたもんね。先日もたまたま某四半世紀前に流行ったラーメン屋行ってすげえ久々食ったんですけど、いやこんなピリっとしねえうすうすパコパコ味のもんありがたがってたのかと戦慄しすぎて軽く失禁! ピャッ! みたいな! 拙著でも「味の世界は日進月歩」と散々講釈たれてますが、その最たるものがラーメンであり、だからこそ食べずにいられませんし、食べたい気持ちが強すぎて夢にまで出たりするようになりました。そんなラーメン界の夢眠ねむこと掟ポルきゅんが、今年夢に出てきた&現実に啜ってうまかったラーメンを五月雨式にご紹介。

東京・高円寺『ともちんラーメン』の『中華そば』&『もり中華』

 2020年、コロナ禍の入口頃から都内に突如現れた「ちゃん系」と言われるラーメン店。店名に「○○ちゃん」とついてはいるが共通のホームページなどもなく、店同士の関係性も明らかにしない、でも味はほぼ一緒。あえて説明しない多少の不案内エンタテイメントが20世紀的でたまらないちゃん系のなかで、2022年俺が通い詰めたのが高円寺『ともちんラーメン』です! ちゃん系の店は『ラーメン凪』の跡地にできることが多い&とはいえ関係性は一切否定という、正体バレバレマスクマン方式で我々を楽しませてくれています。「お前平田だろ」的な指摘は野暮。ウルトラマンロビンの中身は尾内淳。そんなのは誰だって知っていることです(誰もが90年代インディープロレスに猛烈に詳しい前提で失礼します)。かつて新宿『えっちゃんラーメン。』を人気店にした経歴でもおなじみのバンタム店長といえば、『ラーメン凪』のエース社員として知られた存在。ラーメン作りの天才であるバンタム氏がちゃん系の高円寺店である『ともちんラーメン』に店長として投入されたのが2022年5月下旬。「朝ラーメンっていうのをやったらウケると思うんだよね」という名物社長の突然の思いつきにより朝7時から開店!&閉店時間21時まで通し営業! しかもほぼワンオペというなかなかのイカレっぷりにビンビン来ましたんでさっそく行ってみたところ、ただでさえ美味いちゃん系の究極形ともいえる極うま中華そばを出してるではありませんか! ちゃん系の中華そばといえば大量の焼豚、その茹で汁由来の豚の旨みと野菜&乾物の旨みに加え、うま味調味料でキリッと〆た豚清湯スープがもう最高で。塩分も油も濃い目でシャープで中毒性抜群、そこにリングイネのような平たい楕円形麺&チャーシュー麺頼んでないですけど?な大量の焼豚が麺が見えないほど乗せられて、この「子どもの頃近所の食堂で食べていた美味しいラーメンが改造手術を受けて帰ってきた」感バリバリのオリジナルな味はすでに発明の領域。ある意味ノスタルジックラーメンでありながら、昔懐かしの中華そばみたいなやさしいほっとするノスラーの王道味とは真逆のアグレッシブラーメン、その一番美味しいやつ(俺調べ)が『ともちんラーメン』なのです! その後営業時間も変わり店員も増えてバンタム氏も長時間ワンオペから開放されまして、彼の丁寧な仕事によるちゃん系の美味しいやつが店員に伝承された結果、いつ行ってもニコニコうまうまな『ともちんラーメン』を楽しむことができるようになりました。ぶっ飛んだ発想で知られる生○社長(関係性は否定してますが笑)が『ラーメン凪』に続き、革新的な味のラーメンでまたしても俺を虜にしてくれているのです。しかも値上げラッシュのこのご時世に2度の値下げを断行、現在『中華そば』1杯700円って! どうかしてて最高! 社長、さすがです。ありがとうございます。まだまだ通っちゃう。あ、『中華そば』だけでなく『もり中華』も当然おすすめ! 土日は朝8時から営業してますが、飲むツマミにも最適な『もり中華』と朝ビールでキメる生活態度がサイケデリックな高円寺民があとを絶たないようです。ニセ高円寺民の俺もたまに朝ラー朝ともちん朝ビールで、最高な背徳感を味わい中。たっっまんねええ。

『中華そば』
『もり中華』スープ
『もり中華』麺

東京・一橋学園『中華そば と』の『煮干中華そば(青のり抜き)』

 東京都下の飲食店全滅の町に引っ越してきたのが2020年末。30年くらい前から味が変わらないたいして美味くもねえのにそれなりに客がいる店&趣味の合わないチェーン店だらけで外食を封じられ泣く泣く自宅で自分の作った料理に舌鼓を打つしかなかった俺に、2022年晩秋ようやく一筋の光明が。それが小平市と国分寺市の間くらいの一橋学園駅に6月開店した『中華そば と』です。ガムテでかつての店名をバッテンして真ん中に「と」と貼っつけただけという居抜き全開の店構えにビビり、店の前を通っても(ここだけは入るのやめとこう)と思っていたんですが(すみません)、食べログ等で画像を見ると、「あれっ……これ見た目メチャクチャ美味しそうなんだけど」とピンときて11月ついに行ってみたところ、これがまぁ当たりで。昼のメニューは『煮干中華そば』1点のみ。特に変わったことはないんですが、基本に忠実でありながら麺の食感や麺線を揃えた盛り付けなどに現代的な要素も感じられるラーメンに仕上がっていて、普段遣いに最適な毎日食べられるさりげない美味さにあふれています。夜は居酒屋営業、むしろそっちがメインの店なようで、「飲んだシメに食べるのに丁度いいラーメン」を居酒屋開店にあたって店主が独自開発したとのこと。前職はお寿司屋さんというだけあって出汁のとり方が抜群に上手い印象で、煮干しの旨み十分。そこに醤油のカエシを合わせたシンプルなスープはスッキリしつつ脂分も旨みも絶妙で、こんな店が近所にあったら最高なんだけどなを実現中。ラヲタじゃないのでこの説明で合ってるかわかりませんが、上品めの『春木屋』みたいなというか、『中華そば みたか』的な感じもあるというか。派手さはないので遠くからわざわざ食べに来ると多少拍子抜けするかもな、近所にあって嬉しい店。個人的にはデフォルトで入ってる青のりを毎度抜いてもらってますんで、そこら辺はお好みで。

『煮干中華そば(青のり抜き)』

東京・荻窪『人と羊』の『羊中華』&『番紅花そば』&『灰汁魔そば(万願寺ドルマトッピング)』

 2022年、『食尽族』読者には『ひつじそば』でおなじみの『人と羊』が間借り営業から独立店舗を構えるようになった記念イヤー! 週2日夜4時間程度の営業から週5日営業に変わって、さらには土日は昼間にもあのオリジナリティ最大レッドゾーンぶっちぎり羊出汁ラーメンの『ひつじそば』が食べられるように! 座席数は多少減ったものの週5に営業日に増えたんで間借り営業時代の懸念事項だった入店待ち列も解消されまして、大体はすんなり入店できるように。日によっては『人と羊』店主からの現在閑古Bird飛行中ツイートも飛び出すなど、行ってすぐ食べられる狙い目な日もある模様。看板商品『ひつじそば』は、羊白湯に1杯当たり100gものラム挽き肉を投入して澄ませた羊コンソメスープが静脈注射したいほど美味しいまさに是天国味。羊肉の世界的品不足により原材料費が高騰し1杯1,900円というラーメンにしては高級な価格になってしまいましたが、トッピングにクミンなどのスパイスが入ったラムテリーヌやラム肩ロースが乗るなど一般的な概念上のラーメンとはまた別物で、麺料理の形をした羊料理アラカルトを1杯の丼宇宙に盛り込んだものだと思えば値段相応あるいは全ッ然それ以上の美味さハイパー多幸感を保証。食べたことがある人なら理解してもらえると思います。こればっかりは替えが効かないの。うまいんでしょうがないの。日替わり限定の『羊中華』(醤油味の羊スープが頭を離れずしばらくそのことばかり考えてボーッとしてしまうほど美味しい)、『番紅花そば』(羊コンソメ+煮干&節のWスープ=サフラン味が人と羊限定の中で最強との呼び声も高い)、『灰汁魔そば』(羊肉を調理した際に出た灰汁をそのままスープに使うという大胆不敵アイデア脱帽ラーメン。羊の肉汁味って他店は真似しようにもまずできないやつ)etc、独自路線をひた走る『人と羊』店主の飽くなき未知なる美味いもの探究心に来年もドハマリ必至です。年末年始も行くしかない!

『ひつじそば』
『羊中華』
『番紅花そば』
『灰汁魔そば(万願寺ドルマトッピング)』

沖縄・美栄橋『むとう』の『一口沖縄そば』(※サービスで出てきたやつ)

 沖縄そばがすごく好きで、今年も沖縄行ったとき何軒か行ったんですが、ぶっちぎり美味かったのはちゃんとした商品ではない名店居酒屋のシメのサービスでのこぶりな1杯。紙コップで提供されるそれ、塊から厚く削った鰹節で出汁をとっていてカツオの風味がとんでもないことに! サービスの小さいやつじゃなくてこれだけでっかい器で食べたい!
 (これだけ写真撮るの忘れてうっかり食べ終わっちゃいました! す、すみません!)

佐賀・西唐津『竜里ラーメン(かため、月見増し)』

 ラーメンをよく食べるようになってくると、地方に行ったときその地方にしかない特徴的&ハードコアなのを食べてみたい!と思うように。で、今年仕事で佐賀に行ったとき地元の方の教えに従ってスーパー特徴だらけのこちらへ。多少熟した豚骨スープは後味にほのかな発酵味と脂っ気が感じられてワイルドテイスト。中太麺にミリ単位薄切り焼豚、刻み小葱に月見が浮かんで良い見た目。丼の底に残ったザラザラ骨粉にKO。うまかった〜。デフォだとやわ麺だそうなのでそれ無理勢としてかためで失礼します。

『竜里ラーメン(かため、月見増し)』

名古屋・今池『呑助飯店』の『重油ラーメン』(※通称)

 誰が呼んだか通称『重油ラーメン』(※正式名称は『ラーメン A.伝統の油こってり濃い口』なんだが誰もそう呼んでない)は名古屋・今池に所在。こちらも言わずとしれた地方ハードコアラーメンの雄。名古屋でライブの際、名古屋駅到着と同時に脳内に割礼の曲が流れていくるのはいつものことなんだけど、なんか大事なことを忘れているような……そうだ! 『呑助飯店』行かなきゃ! 30年以上前のキャニスルーパスと割礼のツアーの際、今池の宍戸幸司さんちに1ヶ月程泊まっていた北村昌士先生が毎日のように通った今池の『重油ラーメン』(通称だが店員さんも公認の呼び方)! やっと食えました! 見てこれ、油ドス黒! どう見ても重油! 油分に隠れた塩分があとから追いかけてくる! 重油なのに美味いとはこれ如何に(実際には重油は入ってないです当たり前ですが)! ヤバ旨でっす!

『重油ラーメン』(※通称)

東京・荻窪『らーめん髙尾』の『ラーメン(玉子入り)』

 年相応に体調にも気を遣うことを医者から言われるように。お年頃だということで数年前から定期的にやるようにしている胃カメラ&腸カメラのあと、「消化に良いものなら食べてもいい」と言われ熟考した結果やさしいお味だというこちらへ(ちょっとダメなのはわかっています多分)。シンプルイズベスト、食べ進めるごとに動物系から節系の旨みが絶妙にクロスフェードで染みる。寸胴に浮かぶキャベツ昆布を見ながらスープ啜ると余計な甘みのないシンプル醤油味、日本そばの如き歯ごたえと喉越しの地粉麺は伸びずらくて理想的。玉子がポーチドエッグ状で乗っている等含め、『中華そば みたか』で修行されたというのがよくわかるシンプルな滋味深い味。地味で堅実に美味い、なるとをのの字に配したラーメンをうまく感じる歳になりました。しみじみ美味いなぁ、美味いなこれ、あー、本当に美味かったなぁ……と家に帰ってから何度も反芻、気がつけば24時間後にもう1回食べたりして(照)。

『ラーメン(玉子入り)』

札幌・南郷7丁目『二代目けけけ』の『もやし醤油ラーメン(自家製チャーシュー乗せ)』

 『食尽族』出版記念で地元北海道留萌市の書店でトークイベントした際、担当編集者が北海道初上陸だと言うので綿密に北海道日本海側うまいものツアーを計画し、ラーメン屋ではこちらにお連れしました。美味いものがあふれる札幌でも、オールドスクールな札幌ラーメンを出す店はもう希少になってきてまして、西山製麺を使ったベタな札幌ラーメンが食べたいとツイートして地元の方に教えてもらったのが、札幌の中心・地下鉄大通駅から5駅離れた白石区の南郷7丁目駅が最寄りの『二代目けけけ』。かつて南16条西8丁目にあった札幌ラーメンの名店『福来軒』本店出身だそうで、現存する『福来軒』すすきの店よりもこちらの味を好む方も多いとのこと。多少しんなりするほどラードで炒めた正油色のもやしと豚挽肉が乗っかって、北海道出身の自分が記憶しているザ・札幌ラーメンがまさにこれ。濃厚な正油色の見た目より塩気はそこまで強くないがコクのある1杯で、札幌来たからには街の中心にある現代的なラーメンよりもこういうのを食べて舌に記憶させておきたい。すでに文化遺産の領域。

『もやし醤油ラーメン(自家製チャーシュー乗せ)』

東京・西早稲田『渡なべ』の『昔懐かしい背脂ラーメン(味玉入り)』&『幻の渡なべネオノス』

 西武新宿線沿線に住み始めてからというもの、西武新宿駅から最寄り駅までの間で食べられる美味しいラーメン屋をネットを駆使し日夜血眼で探すように(その間仕事は全部止まっている)。以前住んでいた中央線沿線等に比べるとある程度の美味しい店はあっても中毒性まで喚起するところはなかなかなくて難しい。やっぱ西武線では無理なのかなと諦めかけていた矢先、Twitterのタイムラインで流れてくる特徴的なラーメンの画像ばかりアップしている方にぶち当たりました。それが『渡なべ』店主・渡辺寿庵さんのTwitterアカウントです。ラーメンコンサルタントとして数多くの店舗の立ち上げに関わりながら、高田馬場の早稲田通りの坂道を早稲田方面に上がりきった辺りに『渡なべ』を開店、多数の優秀なお弟子さんも育てていらっしゃいます。これまで8,000軒以上のラーメン店を食べ歩いたという渡辺さんですが、古いラーメンも新しい店も「今の時代にあってどうなのか」を伝えてくれるツイートは、ラヲタ未満のラーメン興味深い勢である自分には大変参考になっています。そんな渡辺寿庵さんが『渡なべ』で出している限定ラーメンが本当におもしろい。ここ10年くらい流行っている品のいい清湯スープの無化調ラーメンに目もくれず、意識的な味のレイドバックをあえて大胆に盛り込んでおり、1杯のラーメンのなかで時間軸を狂わせる試みを連打していてとんでもないのです。とにかくラーメン好きをビックリさせつつその美味しさに唸らせてやろうという気概を感じて頭を垂れつつビビります。
 『渡なべ』開店20周年ラーメンのスピンオフとして出された『幻の渡なべ1955』は、「もし1955年に渡なべがあったら?」というかなりおかしなことになっているラーメンでして、眉間の真ん中がツーンとするのを禁じえなくてたまらんのですが、これをさらにアレンジした『幻の渡なべネオノス』ってのをリリースしてきたからさぁ大変。醤油強めで出汁感を抑えた代わりに目がシバシバするほど化調ドバ入れした痛快な味は雁屋哲先生が食べたら怒り出しそうな反骨の魅力を放っています。脳にノスを錯覚させてなおかつネオなお味は、過去にこんなのあった風でいて現代にしかありえないトゥーマッチ感にあふれていて最高。スープはガラ透き通りつつ油が唇に残る程度に熱々、醤油の酸味とみりんの甘みと化調で尾道ラーメンすら彷彿。多少不揃いに切られた平打ち麺もグッド。また、『昔懐かしい背脂ラーメン』も1980年代~1990年代に環七通りを席巻した背脂チャッチャな土佐っ子風を現代にリアニメイトさせており魔術的。背脂バリバリの化調バリバリ、怒涛のおいしさと罪悪感が拮抗し思わず笑ってしまうほどすごい。食べた瞬間いま西暦何年かわからなくなるタイムトリップ美味い限定が本当に心憎いです。しかしながら最近になって流行りの味の現代的なラーメンにハマり、あまつさえネオノスなんていうのを注文する様子、これ音楽で言うと最近シティポップってのが流行ってて良いらしいぜ! なかでも安っぽいドラムマシンの音が鳴ってるのが一際通好みなんだよな! って感じに相当すると思うと……いやこれかなり恥ずかしいんじゃないの俺。でもうまいんだからしょうがない。

『昔懐かしい背脂ラーメン(味玉入り)』
『幻の渡なべネオノス』

埼玉・航空公園『㐂九八garaze』の『三種の貝出汁潮そば(味玉入り)』

 自宅から車で行ける範囲で美味そうなラーメン屋を探したところ、青梅の『㐂九屋』の系列店であるこの店の情報がオレログに引っかかり今年4月初訪。貝出汁の甘み旨みが最上級に引き出されたスープが深みがあって素晴らしく、これで家の近くにあったら言うことないんだけどな、の一言に尽きる。貝に針海苔、中細麺。三つ葉玉ねぎに魚粉少々、家の近所ではお目にかかれない現代的で繊細な美味しさで最高。所沢の次の航空公園駅から1,523メートルという電車勢にはハードルが高い所在地なのがネックだが、どのラーメンもメチャメチャ美味い。嫁が食べてた『生姜中華そば』も昆布と白醤油でまとめられて出来が良かったです。美味い、でも遠い。なかなか行けない店です。近所の人は行った方がいい。

『三種の貝出汁潮そば(味玉入り)』

東京・井荻『あんくるてい』の『ニコニコそば』

 西武新宿線沿線で今年見つけた希望の光。『ニコニコそば』は海老と肉のワンタンが2コずつ乗った店一押し。揃えられた中細麺が薄い琥珀色のスープに浸り見目麗しい。煮干がえぐみないギリの線で前に出て昆布やクリアな動物系が見え隠れするスープが最高に美味い。店内BGMが有線のスイートソウルチャンネルなのも官能的でたまらんですし、このラーメンにはとてもマッチしてます。行ったことない人はTHE DELFONICSの『LYING TO MYSELF』がラーメンになった感じを想像してみて下さい。多分そんなのです(わかりづらい説明)。

『ニコニコそば』

 以上、ラーメンだけで11店ご紹介しました! 2022年食べて美味しかったカレー部門とか寿司部門、居酒屋部門もこのあと続けて書こうと思ったんですけど、ここまでで文字数8,000字ほどになっちゃいましたんで、今回はラーメンのみでフィニッシュ! 続きは……またどこかで書く機会があるんでしょうかね?

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書籍『食尽族〜読んで味わうグルメコラム集〜』好評発売中! 自称「食べもののことになると人格が変わる」ほど食に執心する“食尽族”の掟ポルシェが、これまでに食べて感動するほど美味しかったもの、はたまた頭にくるほどマズかったもの等、食にまつわるエピソードを独特なタッチで綴ります。さらに書籍限定の新録コンテンツとして、大のラーメン好きとして知られ、著書『ラーメン狂走曲』も話題のベーシスト田中貴(サニーデイ・サービス)、書籍にも登場し筆者が愛してやまないカレー店『かれーの店 うどん?』店主との特別グルメ対談も収録。食欲をそそること間違いなしの1冊です!

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掟ポルシェ

おきてぽるしぇ●1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン・ファイブ)、『出し逃げ』(おおかみ書房)、『男の!ヤバすぎバイト列伝』(リットーミュージック)、『豪傑っぽいの好き』(ガイドワークス)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど活動は多岐にわたるが、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。