【掟ポルシェの食尽族】最終回:かけがえのない出会いも……10年以上続くイベント『スナック掟ポルシェ』

連載・コラム

[2022/4/21 12:00]

自称「食べもののことになると人格が変わる」ほど食に執心する“食尽族”でミュージシャンの掟ポルシェ(ロマンポルシェ。、ド・ロドロシテル)が、実際に食べてみて感動するほど美味しかったものや、はたまた頭にくるほどマズかったもの、食にまつわるエピソードについて綴る連載。読んで味わうグルメコラムがここに!


最終回:かけがえのない出会いも……10年以上続くイベント『スナック掟ポルシェ』


10年以上続くイベント『スナック掟ポルシェ』とは?

 飲む(『TaKaRa焼酎ハイボールレモン』を冷蔵庫に常備して)! 打つ(自分で作ったハウスのクリームシチューにコンビーフを入れたものが美味すぎて舌鼓を)! 買う(四谷三丁目の『妻家房』でかなり酸っぱくなってる熟成キムチをニコニコ顔で)! 食の放蕩記こと『掟ポルシェの食尽族』。美味いものは瞳孔開きながら死ぬほど褒めちぎり、マズいものには目が据わった状態で口汚い呪詛を強めにEnterキー押して書きまくった連載も今回で、最・終・回……。あれ? もしかして、ちょっとやりすぎました? ま、いっか! 当方、吐いたツバは率先して飲み込んでシラを切り通すタイプですが、書いちゃったもんはしょうがない! ラストもノー推敲でチャチャッと書きあげちゃうもんね! というわけで! 口に合わない食品への悪口雑言は前回で出し尽くしましたんで、今回のテーマは手前どもが長年やっております『スナック掟ポルシェ』についてです。
 スナック掟ポルシェとは何か? 手っ取り早くご説明しますと、月1回程度、お店を間借りして自作の料理を出したりお客さんと一緒に酒を飲んだりする掟ポルシェがホストの接客イベントのことです。あれですよ、クールファイブの宮本悦朗さんの『クール101』とか、井上京子さんの『あかゆ』みたいなこと! 自分で店を出すのはさすがに先立つものがありませんから、月1間借りで趣味程度に接客営業しております。お客様のために料理作るのは楽しいですし、音楽を作ったりするよりは料理を作るほうが才能があるとの自己判断のもと、タイトルと内容を多少変えながらもう10数年続いてます。

 きっかけは2009年頃、本来コラムの原稿収入で生計を立てていたのが本数少なめになってきて、テレビやCMの仕事や声優業等多様な食い扶持も減少傾向。テレビや芸能の世界にもお金が回らなくなってきて、大手芸能事務所が出演料の大幅ダンピングを始めたことで、これまでやっていたスペースシャワー等CSの音楽系チャンネルのレギュラー仕事まで、俺のようなハンパなおもしろミュージシャンから大手お笑い事務所の地上波が主戦場の芸人さんに取って代わられ、目に見えて収入が減ってきたところでした(突然の深刻な話)。
 そんな折、J-POP DJイベント『申し訳ないと』で一緒にDJをやっていた電撃ネットワークのギュウゾウさんに声をかけていただき、学芸大学の古本バー『古本GALLERY673 ひらいし』で毎週月曜夜日替わりマスターをやることに。3階建ての古本屋の1階入口部分にカウンターがあり、そこで酒作って出してました。厨房が極端に狭く、料理を作るほどのスペースはなかったんで、ツマミの用意は冷凍餃子&冷凍やきそばをチンして出す程度。とまれ、それが飲食接客業の起点だったのです。
 料理を作って人様に振る舞った最初は、2010年、ギュウゾウさんが四谷三丁目にOPENさせた燻製料理の店『煙人』で月1程度開催していた『掟ポルシェの手料理を食べる会』という、文字どおりすぎるイベントから。料理4品で2,000円(ドリンク代別)、「手料理」と冠することで素人料理を好意的に解釈してくれるだろうというギュウゾウさんの配慮も手伝って、たいした料理は出せなくてもなかなか盛況でした。最盛期はカウンター8席&奥座敷に6名で1日2回回し=最大28人分の料理を仕込み! 素人には大変! 毎回ヒーヒー言いながらその場で料理を作っては出し作っては出しで休む暇もなく、料理に追われてお客様とほぼ話せないというとんでもない状態でしたが、なんだかんだで3年ほどやったかと思います。月替りでメニューを変えていたことからたまには失敗つまみもあり、秋刀魚の肝漬け焼きを網で焼いたら網に盛大に秋刀魚の皮が貼り付いてしまい、ボロボロの見た目最悪なものを出してしまったり、カレー味チヂミのときはたまに生焼けのがあったり……これが料理店なら即潰れるところ、「手料理なんで! 所詮素人なんで!」ってことで平謝りで許してもらったり、反省すべきことだらけでしたね……。大半の料理はうまく行っていたと思いますけども。その節はすみませんでした(泣)。
 古本バーひらいしが2011年秋に閉店し、さてこれからどうしたものかと思っていたところ、2012年初頭に秋葉原『マチガイネッサンドウィッチズ』と恵比寿『EAT TOKYO』から声をかけていただき、第1第3月曜が秋葉原で『掟ポルシェキャプテン公演』、第2第4月曜が恵比寿で『掟ポルシェ1日バー店長』を交互に開催。手料理は出さず、ドリンクのお給仕と接客だけやることに。恵比寿と秋葉原という対極にある街の気質のせいなのか、恵比寿はおしゃれな女性客でごった返し、秋葉原は女性客皆無でヲタ男子でムンムンむせ返り、あまりの違いに面食らいました。しかしEAT TOKYOのほうは半年くらいで終了、秋葉原の7階建てのビルの階段上って8階というギリ違法建築一歩前な場所に所在のマチガイネッのみ継続。毎週月曜アキバ固定に。これまであんなに女性客ばかりだったのが呪われたように男ヲタ限定マクー空間イベントになり、呪術というものの存在を信じざるを得ませんでしたが、DJブースがあって大音量が出せるため、最後にDJタイムがあるマチガイネッの掟ポルシェキャプテン公演もそれは愛着を持ってやらせていただきました。マチガイネッ店主はかなりのハロヲタ&後藤真希ヲタ(人気絶頂期のAKB48板野友美がテレビバラエティ番組で取材に来たとき、「うちはハロプロの店だから」といってすごい雑に扱ってておもしろかった)だったため、暇なときは一緒にハロプロの映像観たり、あまり仕事という感じもなく楽しく営業。2013年秋、マチガイネッが秋葉原に小さな路面店として移転するまで約1年半やりました。
 2014年夏からは、渋谷の『アシッドパンダカフェ』で『掟ポルシェひとり会』を月曜日に月1で開始。お酒の提供は店のほうがやって、自分は自作料理とグッズ販売という形式。中野の家で料理を作ってタクシーで渋谷まで持っていく方式でしたんでまぁそれなりに遠くて大変だったり、30分程度の出しものコーナー(DJ、またはド・ロドロシテルのライブ等。自分が客前でできることはひととおりやってみる)があったりして、自分的にはがんばってるのに割に合わない感じもあったものの、秋葉原じゃなくなったことで多少女性客も復活。こちらも楽しくやらせていただいてたんですが、2015年3月、店が突然の閉店(理由はあえて書かないので各自調査!)。流浪の掟ポルシェBAR営業、またしても場所を変えることに。
 俺が1日店長をやる店、ことごとく諸事情によりなくなってしまう! もういっそやめた方がいいのかな? と悲嘆に暮れ涙で枕を濡らしていた2015年のある日、開店してまだ1年半程度のトークライブハウス『高円寺パンディット』の奥野さんから、「よかったらうちを使って下さい」という一筋の蜘蛛の糸が! 場所も高円寺なら当時仕事場マンションを借りていた中野からすぐってことで、遠慮なくしがみつかせてもらいます! そういうわけで始まったのが、今に続く高円寺パンディットでの『スナック掟ポルシェ』。もう7年やってますよ! パンディットができてよかった!

豊富なフードと濃・厚・接・客! かけがえのない出会いも

 スナック掟ポルシェでは、これまで行ってきた各種接客営業の経験が活かされております。料理もありますが、手料理の会のときみたいにリアルタイムで作って出していると接客がおろそかになるということで、家で完全に作ってきたタイカレーと冷めても美味しく食べられるつまみを提供。出しものを用意するのは大変なのでそこもカット。もうただ単に、濃厚接触ならぬ濃厚接客1本でやっていくことに。タイカレーの作り方は本連載第10回(https://33man.jp/article/column43/008504.html)でも書いたのでそちらを参照していただくとして、月替りのつまみセットに盛られる中身をざっと挙げますと、『低温調理ローストビーフ&ローストポーク』、『鶏肉ときのこのアンチョビガーリック』、『蒸し鶏とネギザーサイあえ』、『マヨネーズ不使用ベーコンポテトサラダ』、『コンビーフ入り卵焼き』、『豚キムチ』、『麻婆豆腐』、それに本連載第25回(https://33man.jp/article/column43/010804.html)で取り上げた糖質制限メニューである『鳥むね挽肉と白菜のハンバーグ』なんかを、その日の気分で出したり引っ込めたりしています。最近ではタイカレーだけでなく、本連載29回(https://33man.jp/article/column43/011433.html)で書いた掟ポルシェの家カレーもたまに出していたり、フードも以前よりかなり質が向上。カレーとおつまみはテイクアウトも開始して、ますます自分が何屋なのかわからなくなってきました。まぁ、ウケることをやれればなんだっていいんです!

『スナック掟ポルシェ』はこの看板が目印
『タイカレー』
つまみセット一例。左から『低温調理ローストビーフ』、『豚キムチ』、『麻婆豆腐』、『味玉』

 長いことスナック営業をやっていますと、おもしろいものでそこで会った常連さん同士がホストの俺を介さずに仲良く会話するようになったり、中にはスナック掟ポルシェで出会ったのをきっかけに結婚したカップルまでおります! 「ひとりで行くのは不安……」、「コミュニケーション能力に自信がないので……」という人も、意外と馴染めたりしています。不安がらずにぜひ一度いらしてください!
 が、不安になることをあえて言っとくと(このタイミングで言わなくていい)、接客営業をやると、必ずと言っていいほど、「ホスト役の俺に変わって場を回そうとする客」「ホスト役の俺への質問なのになぜか俺に変わって答える客」という厄介な生きものが、ごくたまーに出現します。なんで……そんなことをするんでしょうか……もう全然意味がわからないです。しかも俺ではなく一見の女性客にロックオンして話しかけて、それで来なくなった女性客が何人もいたりと、驚くほどの迷惑ぶりを発揮。そういう手合いが表れたときは、仕方なく俺が矢継ぎ早に話して厄介な生きものに話す隙を与えず潰したりして対処しますが、それでも己の厄介具合に気づかず挫けないのが厄介の厄介たる所以だったりもしますんで、ホント勘弁してくんねえかなと思います。ああいうのが出現するのもなんかの呪い? 現在は厄介駆除に成功し、以前より心地よい空間をクリエイト&キープしておりますので、厄介にロックオンされて心が折れて来なくなった方々、安心して戻ってきてください!

 福岡在住時の6年間には、福岡でもスナック掟ポルシェを開催。最初は嫁の実家である天神の老舗書店『書斎りーぶる』会議室で。書斎りーぶる閉店後は『大濠公園PARKS』、『中洲川端ソウルインアティック』と渡り歩きましたが、サブカル不毛の地・福岡で30人しかいないと言われるサブカルエリートの方々がしょっちゅう来店してくれまして、本当に心強かったです。福岡のど真ん中メインカルチャーに馴染めなかった彼らの多くは音楽、アイドル文化に造詣が深く、それは東京のスナック掟ポルシェ常連客とまったく同じ気質を持っていました。いろんなことに詳しくて、わからないことがあったら誰かが正解を知っている。自分と似通った趣味の人が集まってくるのだから当然とも言えるでしょうが、長い年月かけて接客営業をやったことで、自分にとっても居場所ができたのです。福岡に引っ越して一番最初に出演したDJイベントが有料入場者4人とかで、俺ホントこの街と相性が悪いなと思ったものですが、スナック掟ポルシェのお客さんがイベントに来てくれるようになって、福岡を離れる前の最後のDJイベントでは福岡にいるサブカル全員を総動員し、福岡サブカル30人説の倍くらいの集客になっていました。福岡ディスがてんこ盛りの本連載でしたけど、福岡のスナック掟ポルシェを通じて知り合ったお客様だけは本当にかけがえがなく、感謝しております。いや、ホントに。
 高円寺パンディットで月1開催中のスナック掟ポルシェにも、自分と似たような偏狭な趣味のお客様がいろいろいらっしゃいます。年季の入ったアイドルヲタ、ソフトバレエのファン、トランスレコードのファン、カーカスのファン、俺が通ってるラーメン屋のファン等等。ヲタ仲間と話をする感覚でこちらとしても話が尽きません。皆さんとても物知りなのでこちらも勉強になること頻り。で、中にはロマンポルシェ。のファンという奇特な方もいらっしゃいます! 一番嬉しいやつ! そういう方、ぜひとも一度ご来店下さい! サービスしちゃうん(売れ残ったつまみセットをジップロックに入れて強制的に持ち帰らせる等で)!

北海道銘菓『千秋庵の山親爺』Tシャツでバッチリキメた著者近影!!!

書籍『食尽族〜読んで味わうグルメコラム集〜』6月16日発売!

本連載『食尽族』をまとめた書籍『食尽族〜読んで味わうグルメコラム集〜』が6月16日に発売することが決定しました! 自称「食べもののことになると人格が変わる」ほど食に執心する“食尽族”の掟ポルシェが、これまでに食べて感動するほど美味しかったもの、はたまた頭にくるほどマズかったもの等、食にまつわるエピソードを独特なタッチで綴ります。さらに書籍限定の新録コンテンツとして、大のラーメン好きとして知られ、著書『ラーメン狂走曲』も話題のベーシスト田中貴(サニーデイ・サービス)、書籍にも登場し筆者が愛してやまないカレー店『かれーの店 うどん?』店主との特別グルメ対談も収録。食欲をそそること間違いなしの1冊です!

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掟ポルシェ

おきてぽるしぇ●1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン・ファイブ)、『出し逃げ』(おおかみ書房)、『男の!ヤバすぎバイト列伝』(リットーミュージック)、『豪傑っぽいの好き』(ガイドワークス)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど活動は多岐にわたるが、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。