【掟ポルシェの食尽族】第30回:これ作った奴を呼べ! 舌と記憶に残る「マズいメシ」の悪口
自称「食べもののことになると人格が変わる」ほど食に執心する“食尽族”でミュージシャンの掟ポルシェ(ロマンポルシェ。、ド・ロドロシテル)が、実際に食べてみて感動するほど美味しかったものや、はたまた頭にくるほどマズかったもの、食にまつわるエピソードについて綴る連載。読んで味わうグルメコラムがここに!
第30回:これ作った奴を呼べ! 舌と記憶に残る「マズいメシ」の悪口
今回は思う存分「マズいメシ」の悪口!
この連載も第30回。佳境に入って参りまして。するってえと、あ、まだあの話してなかったな、あのメシには触れておかないといけないなってのが残っておるわけですね。そうです! お待たせしました! 今回は『マズいメシの悪口』です! 口に合わない食事に対して極端に了見が狭い! 人からどう思われようがそういうのを言わずにいらんないの! もう、あれだ、あとちょっとで連載も終わっからよ、マズいメシ食わされた屈辱の大蔵浚えだ! 食べたくないものを食べなきゃいけなかった最悪な瞬間のすべてを、今日ここで宿便の如く書きひり出したるッ!!
マズいものを食べた最古の記憶、それは「子どもの頃通っていた小学校中学校の給食」です。昔からよく「親と給食センターは選べない」と申します(※要出典)。そして俺の出身地である北海道某市において、昭和50年~59年頃出されていたあの凶悪ゲロマズ給食の数々は、今思い出しても涙と反吐が止まりません。そのおかげか、子どもの頃は結構痩せていました。思い出し怒りできる程度に、うちの学校の給食はぶっちぎりマズかったのです。いや、マジで。
東京都下の小学校に通っているうちの子どもなんかは、今日食べた給食が如何に美味しかったかということを嬉々として伝えてくれますし、現代ですからパエリアだとか太平燕だとかパッタイだとかメニューも進化しまくり、給食で初めて食べるものも多いらしく、未知の味覚の入口としても学校給食は機能しているようです。もちろん昭和だったとて福岡出身のうちの嫁も給食はとても美味しかったと言っていますし、特に美味しかった給食の献立を記憶しています。で、自分。さすがに美味しかった給食少しぐらいはあっただろうと思い返そうとするのですが、本当に、ない(唯一思い出せたのは冷凍みかん。調理してねえし)。それどころか思い出されるのは脳にこびり付いて離れないパンチの効いた激マズメニューの味地獄。
例えばラーメンひとつとっても、「なんでこんなにマズく作れるんだろう?」という不思議なまでの逆・仕上がり。温食缶に入ったスープは、蓋を開けた瞬間生臭みが教室の隅々まで轟きます。チャーシューとして別添にすればいいものをそれをせず、動物臭をこれでもかと醸すよう雑に煮込まれたボソボソの豚肉、シャープな水っぽさで醤油スープにエグみのみを与える折れ曲がったくたくたのモヤシ、そしてこれまたブヨブヨになるまで無造作に煮込み時間をしっかり確保し生臭みとマズさを倍化させる不要の極みワカメ。動物の死骸の悪いところばかりがクローズアップされた生温い茶色の液体を、ソフトめんにかけていただく軽度の地獄。あれを超えるマズイラーメンは恐らく現代の人類には作れません。食材を一括してブチ込んで煮込んだりせず別々に調理して盛り付けたり、ちょっと調理法を変えただけで美味しく食べられることが子どもにもわかるのに、栄養価だけ担保すればそれでよく、調理に対し一切の旨味を放棄していた北海道某市の昭和50年代の給食。子どもは出されたもん文句言わず黙って食えばいいの! 好き嫌いすんなバカ!ぐらいのことは思ってたんじゃないでしょうか、あの給食センターの奴ら。
主食もダメ。温かいご飯を食べてもらおうという配慮なのか、白飯はプラスチックパックに小分けされ、保温のための発泡スチロールの入れものに入ってきます。その発想自体はよかったんですが、残念なことに発泡スチロールのニオイが全部しっかり米に染み込んでいるというなかなかの配慮間違い具合。コッペパンも上っ皮に妙なドリュールが塗ってある上、外は焦げの味で中身はボソボソ、パンの種に酒精のような妙な甘みがあり、なんでパンひとつでこんなにマズくできるんだろうという、どれをとっても鉄壁のマズ布陣。思い出しても腹が立ちます。
味の記憶はパーソナルなものですし、これだけ書いてもなかなか理解されないと思います。いつものパターンで舌の了見が狭いお前だけがマズいマズい言ってんだろと思われるかもしれませんが、これに関してはそうではないという確証があるのです。
父方の叔父さんが当時教員をやってまして、北海道を数年ずつ周って最終的にはうちの隣の小学校に校長として赴任してきました。で、しばらくしてうちの実家に顔を出したと。そのとき、俺と兄貴に向かって突然「お前ら、かわいそうだな」と。えっ、かわいそうって何が?と聞き返すと「俺、北海道の学校いろいろ周ってきたけどな、お前んとこの給食、北海道で一番マズいぞ」と、うんざりした表情とともに断言。マズいマズいと思ってたけど、いろんな学校給食を食べてきた叔父さんからしても、ぶっちぎりのマズさなんだと……。叔父としてもわざわざ俺たちに伝えたいほどマズかったんでしょう。いや、校長になったんだからマズい給食センターに直接文句言ってくれよと思いましたけども。結局中3までの9年間、逃げ場のないマズメシ給食にみっちり苦しめられました。マジでトラウマ。
大人になってからぶち当たったゲロマズメシの数々
大人になり、外食の頻度も上がるに連れ、凶悪なゲロマズメシにぶち当たることが何度かありました。その中で、あまりにもマズすぎて「これ作った奴を呼べ!」っていう、人として下品な行いのうち結構上位に来るあれをですね、やったことがあります(照)。
ギリ20世紀末のある日のこと。コンバットRECを含むプロレス観戦仲間数名で、総合格闘技の興行終了後、渋谷で打ち上げしようということになり、とりあえず飲めりゃなんでもいいわってことで、渋谷センター街のとあるビルの2階の適当な居酒屋にin。なぜか客は俺たちしかいません。確か冬場だったんで鍋でも食うかという話になり、まずはモツ鍋とつみれ鍋の2種類注文。これが今までの人生でもっともそのマズさに怒りまくった料理になるとは思ってもみませんでした。ビールを何杯も飲み、結構な時間が経ってからやっとのことで鍋が運ばれてきました。まず、モツ鍋のモツがその頃はまだ多くなかった完全生タイプなことに(え、これ内臓ただぶった切ってあるだけみたいに見えるけど大丈夫か?)と不安を覚えます。で、カセットコンロ点火。火が通って煮え立つ頃、その不安が悪臭になって鼻腔を襲います。なんだこの獣のニオイ! そしてグツグツ煮えてくるにつれ腸の油がブワブワ表面に浮いてくる! 食べられる気がしないけど一応食べてみると……オゲエエエ! くっせええ~(泣)! これ、腸の下処理なんもしてないじゃねえかよ! スープの味も猛烈に薄く、そこに腸から出た油がブワブワに浮きまくってなんだか知らんが異常なまでにマズい! これはもう料理の形をした公害! 食えるかこんなもん! うわー、とんでもない店入っちゃったなぁ……。すぐにでも店を変えたいところでしたが、まぁ、つみれ鍋も頼んじゃったし、最悪そっちだけでも食えればいいわと思っていたら、うっわこっちのつみれ、まだ冷凍状態だろこれ!? まぁ火が通ればいけるか……と点火すると、煮込まれていくごとにスープがどんどんドロドロに粘度を増していく! なんだこれ!? よく見ると、つみれのつなぎに大量の小麦粉を入れているようで、それがスープに溶け出して、つみれ鍋がただの小麦粉ドロドロ鍋に! 食うまでもないけど一応ひと口! 小麦粉の味しかしねええええ!! その瞬間、自分の中で何かがパーンと弾けるとともに、厨房に入っていきました。
俺「これ作ったのお前か?」。調理場にはひとり、貧相な中年男性。
俺「お前、これ、少しでも自分で食ったか?」。中年男性は「……はぁ」と仏頂面。
俺「お前、本当にこの味でいいと思ってんのか?」。中年男性は「……はぁ」と仏頂面のまま。
俺「金は払うわ、そうしないと文句も言えなくて気持ち悪いから。お前は二度と人様から金をとって料理を作るな」。中年男性は無言のままでした。多分あいつもバイトかなんかで、やれって言われたことをやってるだけなのでしょう。一刻も早く飲み直さないと、この眉間にゴリゴリに寄った皺が戻らなくなるってことで店を出ました。このとき、マズいメシを食ったときだけ本気で怒れる自分の性分を知りました。いや、怒るくらいマズいメシ屋が存在していることのほうがおかしいだろ普通! 当然ですが、あのあとすぐ店ごとなくなってました。そりゃそうだ。
今と違って20世紀末は異業種の人間が多角経営でとりあえず飲食店やっときゃ客来んべ!くらいのヌルッとしたモチベーションでやってる店も少なくなかったのです。で、そういう人たちに限って旨さ二の次&余計なオリジナリティを優先させたしんどいメニューを開発しておりました。
もう潰れてるんで名前出しちゃっていいと思いますが、全日本女子プロレス(以下、全女)が経営する飲食店も、「いや、普通に考えたらそんな料理で勝負すんのダメなのわかるでしょ」という謎のアイデアがとんでもないことになっており、俺含む全女ファンを苦しめていました。
90年代の全女は、女子プロレス対抗戦ブームにより過去最高の収益を叩き出し、銀行が毎日のように金貸すからなんか事業展開しろと言われ、不動産投資のほか、専門外の飲食チェーン等を手広くやっていました。が、90年代半ばにはバブル崩壊によりえげつない金額の借金を抱え込んでしまいます。唯一まともな収益が見込めるのは飲食業だと思ったのでしょう。それまでやっていたカラオケBOX『しじしゅうから』を24時間経営のカルビ丼チェーンに切り替え、それなりに上手いこと行っていたように見えました。ですが、全女を経営する松永兄弟、特に会長の松永高司さんは人を驚かせたいというサービス精神と豪快な山っ気にあふれる方でしたから、好調なカルビ丼の店をある日誰もが食べたことのないあっと驚くアイデア料理の店に変えてしまいます。それが、『羅漢果ラーメン』です!
羅漢果は漢方薬としても用いられる中国の果実。それをまるごと1個、ラーメンの上に乗せてしまった見た目のインパクトがハンパない一品。俺も全女ファンの端くれとして、一度は食べておかないといけないと、当時新宿にあった店舗におじゃまいたしました。ラーメンに羅漢果。意外性以外の何者でもない未知のマリアージュ。地方興行では美味しいと評判の焼きそばを自ら作って販売もしている松永会長(今井良晴リングアナ曰く「そりゃ美味しいですよ、焼きそば1回作るのに味の素2袋入れてましたから」)が満を持して提供する1杯とは……? ほどなくして羅漢果ラーメンが運ばれてきました。へー、羅漢果ってこんな見た目なんだ。ラーメンに合うのかな?ということで羅漢果をパクリ。なんじゃこりゃ甘えええええええええええええ!!!!!!!!! ラーメンは東京風の何の変哲もない醤油ラーメンでなんてことない味なんですが、通常甘味料として用いられる羅漢果の甘みとラーメンの味がまったく合ってない!! それどころか一緒に食べる意味が全然ない!! 会長これ、見た目のインパクトが欲しかっただけでしょ!? 一緒に食べることによって余計なマズみが発生しちゃってます! なんだこれ!!!
家賃の高い新宿でどのくらいの期間羅漢果ラーメンが存在していたかは記憶にありませんが、一度食べただけでもハードコアなマズさに全員ノックアウトされたことは想像に難くない。まぁすぐに潰れました。全女のプロレスに心酔した者として、羅漢果ラーメンの無理のあるマズさを知れたのは貴重な体験でしたけども。飲食店をやっちゃいけない人というのはいるものだとつくづく思った次第。あのあと全女社屋に併設された飲食店『SUN族』(調理を担当するのはちゃんと料理を勉強した人ではなく、その日暇な社員や巡業に連れて行ってもらえなかった若手選手)でカルビ丼も食べましたが、肉部分1に対し脂身9のスーパー脂身丼が出てきて即死したこともあります。全女ファンとしてはそれもいい思い出……いや、単にマズかった。飲食店はちゃんと料理ができる人だけがやっていてほしいものです。