TAKEMURA(SNAIL RAMP)『43歳のバンドマンチャンプ』【12月12日の引退試合に向けて】

連載・コラム

[2015/12/1 12:15]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのメンバーでありながら、キックボクシングの日本チャンピオンに上り詰めたTAKEMURAの自伝的連載!


2015年12月12日、
13年間のキック生活のラストマッチ
さて前回はタイトルマッチの試合が終了し、チャンピオンとしての認定式が始まるところまで書いた。今回、本来ならその続きを書くべきだが、実は12月12日に後楽園ホールで自分の引退試合がある。いいタイミングなので、今回はこの引退試合に触れておきたいと思う。

俺は2002年12月14日にデビューし、引退試合でちょうど20戦目。13年間、現役生活を送ったにしては試合数が少ないが、SNAIL RAMPをやりながらだと思うように試合を組めなかったり、何より怪我での手術、入院、リハビリを3回、それ以外の骨折を4回やっているので、その度に治療、治癒、落ちたパフォーマンスを再度戻してからの復帰、と時間を取らなければいけなかった。

引退試合の相手が決定するまでも紆余曲折あったが、ランキング上位の常連「マサ・オオヤ」選手に決定。「引退試合の相手、希望があれば言って」とプロモーターに言われたので、彼の名前を出したのだが「おっさん同士がやってどうすんのよ」と最初は一蹴。彼もアラフォー選手ゆえ「おっさん同士」なのだが、彼を引退相手に指名したのもそこなのだ。

加齢とともにパフォーマンスが落ちるのは世の常で、周囲のキックボクサーは30歳を超えると「限界を感じて」引退していくのが7~8年前までの常識だった。だが俺は31歳のデビューという「すでに落ちた状態」での競技スタートだったためか、「よくわからんが、こんなもんじゃねーの?」と30代後半までは加齢のハンディキャップを特に感じることなく、現役選手として練習、試合をこなしていった。

しかし、だ。

恐れていたことは突然訪れる。

試合に向けた練習中、初めて倒れる
8月の暑い夏の日、ジム内は気温34度、湿度80%近くになる。いつものように自分をムチ打ち、キツい練習で追い込んでいた。ミット打ちで最大心肺にもっていってからのサンドバッグ打ち。ラウンドを重ねるごとに足がもつれ、思考能力はボヤけていく。サンドバッグを打つと同時に発していた気合も、いつの間にか絶叫に変わっている。苦しくて辛いが、「それが練習」と思っていた。

リング上で対峙するのは、自分を倒すためにプライベートや仕事を犠牲にしながら、毎日の苦しい練習を越えてきた対戦相手。それと、知人や友人含む1,000~2,000人の前で殴り合い蹴り合うのだ。お互いに「絶対に負けられない」と誓って闘うのだから、勝負はいつだって ギリギリでの結末になる。

体力の限界、精神の限界で勝負が決まるのだ。だから練習でもギリギリまで追い込むし、それがプロの義務だとも思っていた。「もうキツい、無理だ……」となっても「限界まで練習したって、死ぬことなんてないわ」と自分にうそぶき、そこからがんばるのが鍛錬だと思ってた。

しかしこの日は様子が違った。サンドバッグを打つどころか体中の力が抜け、精一杯気を張っていないと立っていられなかった。時々視界が狭くなったり、周囲の音もどこか遠くでボンヤリと鳴っている。

「これはマズいかな」

ラウンド中だったが練習をやめ、シャワーや更衣室がある2階へ上ろうとしたが、階段が登れない。しかし「無様な姿を見せたくない」という変な意地が働き、手すりにしがみつくようにして階段を登る。後ろから「大丈夫ですか?」という声が聞こえたような気もするが、声を出すのもキツかったので答えなかった。

長い時間をかけてようやく2階に着いたとき、視界は完全にボヤけ、グングンと狭くなる。

そして、俺は倒れた。

気づいたのはシャワー室。練習着を着たまま水を全身にかけられていた。まわりには心配そうに見ているジムメイトたちと会長がいた。聞くところによると、2階に上がり2~3歩進んだところで倒れたらしい。

ただ倒れる直前、そばにいたジムメイトに「もし俺が意識を失ったら、すぐ救急車を呼んで」と伝え、倒れてからも「シャワーで水をかけて」と呟いたらしい。これが熱中症ってやつなんだろう。それまではどんなに追い込んでキツい練習をしても倒れるなんてことはなかったのに、40歳の夏に初めて倒れてしまったのだ。加齢によるパフォーマンスの低下を決定的に思い知らされた瞬間だった。

40歳を迎えたキックボクサーのデメリット、キツさは自分がよく知っている。だからこそ、その40歳を迎えているマサ・オオヤ君にはがんばってもらいたいと思っているし、どこかでベルトのチャンスも掴んでもらいたいと思っている。その思いのうえで、引退試合の相手にはマサ・オオヤを指名させてもらった。

ただし引退試合だからといって、手を抜き、イージーな試合をするつもりはまるでない。いつだって「死ぬかもしれない」という気持ちでリングに上がってきたし、死にたくないから死に物狂いでハードな練習をしてきた。今回もそう。全力で練習し、全力で闘う。それが時には観客の感動を呼び、時には失望の淵に突き落とす。本音を言えば、カッコよく勝ってカッコよく引退したい。

しかしそう上手くはいかないのが人生だろう。むしろ上手くいかなかったから、ここまでキックボクシングを続けてこられたのかも知れない。引退試合の日、それは一体どんな一日になるんだろう。12月12日、後楽園ホール、竹村は最後のリングに上がります。

<次回更新は12月15日(火)予定!>

【著者紹介】

TAKEMURA(竹村哲)
1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なう。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中だ。

[耳マン編集部]