TAKEMURA(SNAIL RAMP)『43歳のバンドマンチャンプ』【引退試合を振り返って(part.1)】

連載・コラム

[2015/12/29 10:00]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのメンバーでありながら、キックボクシングの日本チャンピオンに上り詰めたTAKEMURAの自伝的連載!


これを書いているのは引退試合を行った翌週のなかば。あの日から1週間も経っていない。どうにかこうにか現役生活を終えられたという安堵感の反面、引退の実感が薄く、なんだか宙ぶらりんな感もある。

実際、土曜日に引退試合を行ったにも関わらず、その2日後の月曜日から毎日練習を普通に行うという現役時と同じ生活サイクルを送っているのも、その理由かもしれない。

俺は2015年12月12日、後楽園ホールにおいて現役キックボクサーとしての引退試合を行い、13年間のキャリアを終えた。今回はこの試合を振り返っていこうと思う。

身体的にはすぐにでも引退をしたかったのが本音

引退試合後

引退をきちんと意識したのは2013年末(当時42歳)。当時ウエルター級1位にランクインしていたものの、それまでに2度のタイトル挑戦失敗をし、この先はどんな道筋を辿ったらいいのか、まったく見えていなかった。

しかし、翌年2014年4月の興行で、当時のチャンピオンとノンタイトルではあるが試合を組んでやるというマッチメイカーからの連絡があった。そして「その試合に勝てれば、半年後の10月にタイトルマッチで再戦だ」と。

チャンスが来た。しかしそれは同時に「負けたらこの先はない」と宣告されたも同然だった。もうこの先タイトルに絡むことは不可能だし、加齢による著しいパフォーマンスの低下はすでに顕著だった。

「負けたら引退」、そのときにはっきりと決意したのを覚えている。崖っぷちに立って臨んだノンタイトル戦だったが、結果も際どかった。痛恨のドロー。「勝てば」という条件だったので、判定の瞬間には目の前が真っ暗になった。

しかし、肋骨を折られながらもドローに持ち込んだ展開が評価されたのか、首の皮1枚でタイトルマッチにつながり、ようやくベルトをものにすることができた。

身体的にはすでに限界だったためにすぐにでも引退をしたかったのが本音だが、ベルトを獲ってすぐに辞めるというのは見ている側からすると非常に冷めるもの。団体に恩返しをしたい気持ちもある。なので1戦だけやろう、それを引退試合としようと決めていた。

しかしマッチメイカーからは「2戦やってくれないか。頼む」と繰り返し懇願され、結局「それもやむなし。これも運命」と受け入れることになる。そして当初、引退試合は団体側と協議の上で10月10日に行う予定であった。なので周囲にはその日程を半年も前から伝えていたのだが、これも興行の都合で12月12日に移動。

対戦相手のマサ・オオヤとは
2010年に引き分けていた
ハードな練習の合間に日程の告知を再度お客さんたちに行わなければならなくなったのは、手間以外の何物でもなかった。「プロキックボクサー」などとカッコ良く言ってみても、実はインディーバンドとそう変わらないし、それはチャンピオンとて同じ。団体はそのチケット販売の大部分を選手に頼っていながら、その選手をないがしろにする姿勢はホントどうかと思う。生意気なようだが、この先運営として興行に関わっていくことになった身としては、正していきたい部分のひとつだ。

話しが逸れた。

ゴタゴタしながらも引退試合は2015年12月12日に決定。しかし問題はその対戦相手。俺の腹は決まっていた。当時ウエルター級1位のマサ・オオヤ、最後に大谷君と闘って引退しようとずいぶん前から決めていた。

彼とは2010年2月27日に一度対戦していた。しかし俺は前年12月に左膝の前十字靭帯を断裂、試合が決まっていたので手術することも出きず、まともに動けないままにリングに上がり、結果はドロー。万全の物をぶつけられなかった事実は、大谷君に対してもお客さんに対しても非常に失礼で、自分の中でしこりとなっていた。

そしてその大谷君もすでに41歳。40歳を超えてなお闘い続け、練習し続けるのがいかに困難か、それは俺の身にしみている。かつ今までベルトに挑戦する手がかりを得ながらも、タイトルマッチの1歩手前で敗れる不運に見舞われてきた大谷君。

もちろんお情けでベルトを譲るほど俺も甘くはないが、「大谷君に王座を奪られるのなら、納得もいく」とは考えていた。そしてその後、紆余曲折あったが最終的にマサ・オオヤとの対戦が決定。あとはいかに練習し、コンディションを整えていくかだった。(続く)

<次回更新は2016年1月5日(火)予定!>

【著者紹介】

TAKEMURA(竹村哲)
1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中だ。

[耳マン編集部]