人間椅子ニューアルバム『怪談 そして死とエロス』発売直前!和嶋慎治インタビュー

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[2016/2/1 12:00]

 2月3日に19枚目となるオリジナルアルバム『怪談 そして死とエロス』をリリースする人間椅子。1989年のデビューから27年の活動歴を誇りながら今なお独自のオリジナリティを追求し、近年さらなる人気ぶりをみせつけている。今回はバンドのフロントマン・和嶋慎治にインタビューし、ニューアルバムのことや現在の心境について語ってもらった。

和嶋慎治

「常に冒険していきたい。それがやっぱり“表現”じゃないかな、と思うので」

———最近の人間椅子は2015年の『オズフェス・ジャパン』で2度目の出演を果たしたり、アニメやドラマへの楽曲提供などさらなる活躍をみせていることで若いファンが増えているのではないかと感じるのですが、それについてはどう感じていますか?

 若い人が聴いてくれたりライブに来てくれるのは、嬉しいし光栄です。自分たちには曲を作るときにいわゆる“ハードロックの共通言語”みたいなものがあるんですけど、そこだけにこだわらないように作ろうと思っているんですよ。最近はより強く思っているんですけど、結局その“共通言語”だけで作ってしまうと、その村にいる人にしか聴いてもらえないというか。ましてや古いロックのスタイルっていうのはおじさんやおばさんしか聴かなくなってしまってるかもしれないわけですよ。そこでそのままファンと一緒に同じ村で歳を取っていくだけ、というのはロックじゃないと思いまして。自分としては、ハードロックのスタイルは取りつつも、やっぱり若い人にも聴いてもらいたいと思いながら曲を作っているわけです。それが、若い人にも伝わっているんだなあ、と嬉しく思っています。

———若いファンの方では、人間椅子がハードロックというジャンルの音楽を聴くきっかけになっている方もいるのではないでしょうか。

 本来ロックって、若々しいエネルギーというかパッションというか、それを表現するものだと思うんですね。だからロックバンドっていうのは20代でドカンといって、そのまま失速していくっていうのがパターンなんですけど……自分は、パッションがあるときの気持ちのままやっていこうと思ってやっていますね。だから、気持ち的には20代のままなんですよ。歳を取ってくると現状を、肯定してくるんですよ。段々、若い頃の“何かおかしいんじゃないか”と思う気持ちとか“前を切り開いていこう”という気持ちが失われてくる。そうじゃなくて、ロックとかアートとかっていうものはやっぱり何か納得がいかないものがあって、その理想を表現するというか、“こうしたほうがいいだろう”っていうことを言うものだと思っていて。それを以前よりも、心から言えるようになったんですよ。それが上手く表現できているんで、若い人にも共感してもらえているのかなあとも思ったりしますね。今回のアルバムタイトルも、あえて気持ち悪い“怪談”と付けましたけど、それもそうなんですよね。つまり冒険ですね、チャレンジというか常に冒険していきたい。それがやっぱり“表現”じゃないかな、と思うので。

「根底に愛があるものが好き」

———“怪談”はもともとお好きなのですか?

 怪談は好きですね。稲川淳二さんのライブとかもよく行ってましたし、彼の怪談は、怖いだけじゃなくてなんか温かい。それで人の優しさとか、人の悲しさとかそういうのをしゃべるのよ。あの、いわゆるただの怖い怪談や嫌な気持ちになる怪談ってあるじゃないですか、都市伝説的なやつ。それはあんまり好きじゃないなって思って。やっぱりちょっと根底に愛があるのが好きなんですよね。怖いんだけどそこに優しさというものがあるもの……怪談ってもともとそういうものだったと思うんですよね。あと日本的な情緒があるものがやりたいなと思って、それでやっぱり怪談っていうタイトルかなと思って。

———怪談や怖い話といったジャンルのものでは、特にどういった作品がお好きですか?

 例えば小泉八雲ですとか、岡本綺堂ですとか。山岸涼子も大体読んだな。水木しげるもいいですね。あの人は根底にやっぱり何か戦争反対があったりだとか、人間への愛があるからね。ちょっと妖怪ものとは違うけどね、俺、水木しげるの『昭和史』とか戦争ものが好き。なぜあんなに水木しげるが大量の作品を書けたかっていう、その答えが戦争ものにはあるね。仲間がみんな亡くなって、 “自分の役割は何だろう”ってあの人は考えたと思うんだ。それで生きることの大切さを書いてるんだよね。だから好きです。あと水木しげるの売れなかった時代の作品とかも大好きですね。

———そういった文学作品や漫画など、音楽以外のものからインスピレーションを受けることは多いですか?

 アイディアは、ほかのアーティストの曲を聴いて生まれるっていうより、日常の些細なことから生まれてきますね。例えば『泥の雨』って曲は、僕の乗っているバイクに、晴れている日にものすごい泥がついてたんですよ。泥粒がいっぱいついてて、“せっかく洗ったのに、何だよ!”とか思って。なんか最近そういうときあるじゃないですか、天気が良いのに黄砂だったり砂が降ってきたり。で、その砂にはもしかしたら色んなよからぬものが入ってるかもしれないわけでしょ。“怖い時代だなぁ”と思って。それで、その現代の怖さみたいなものを歌にしたいと思って書いた曲なんですよ。バイクにかかった砂の、がっかりした気持ちを。そういった普段の思うところから、特に歌詞は浮かびますね。

「怖いとかマニアックなことをキャッチーにやるっていいなあって」

———和嶋さんの歌詞は楽曲として歌われるときはもちろん、歌詞カードに並んだ字面も美しいと感じますが、そのあたりは意識されていますか?

 それはだいぶ意識していますね。紙だけでも一応読めるというか“何かを言わんとしてるな”っていうのはわかるような詞にはしたいなと思っていて。曲も大事ですけど歌詞も同じくらい重要だと思ってるんですよ。言葉って実はすごく大事で。例えばひどい言葉しゃべるでしょ。そうするとひどくなっていくわけですよ、その人に返ってくるというか。50歳にもなると言霊と言いますか、そういうものはあるなってわかるわけです。その人がしゃべった言葉の感じになってしまうんですよ。だから言葉を大事にしたいと思っていて。ひどい言葉と怖い言葉は違うんだよね。だから怖いことを書いたとしてもひどくならないようにとか、品があるようにしないと、と考えていますね。あと、最近は聴いたときに詞の意味がわかるようにしたいとは思っていますね。言葉の選択肢がいくつかあるとしたら、聴いてわかりやすいほうを選ぶようにしています。

———前の話にも戻りますが、そういった歌詞での言葉選びや曲作りの面も含めて、今の人間椅子は“キャッチー”にしていくというモードなのでしょうか。

 そうですね、この辺の表現が難しいけどね。ただ売れたいかって言われたら違うんですけど、そういうのって“ロックじゃねえ”って言われたりするでしょ? でも俺はそれは違うと思うんだよね。だってローリング・ストーンズとかバカ売れしてるわけですよ。実はそれがロックなんですよ。ポピュラーって言うのかな、みんなが“おぉ!”って思うのがロックなんだよね。だから、そうならなきゃって思ったんだよね。マニアックなことをやるのがロックかって言ったら別にそうじゃないんですよ。で、この間『オズフェス』に出たときに観ましたよ、オジー・オズボーン! すごいキャッチーなんだよやっぱり。あんなに気持ち悪いことやってるんだけどキャッチーだから、みんな“おぉ!”ってなるわけなんだよね。オジーを観て“あぁ、そこだわ”って思って、ちょっと意識しました。そう、再確認したの。ただマニアックだけやってもだめだなと。怖いとかマニアックなことをキャッチーにやるっていいなあって思ったね、うん。やっぱり僕らみたいのが紅白に出れるとかはありえないんで、そこはならなくてもいい。でも、もう少したくさんの方に聴いてもらえるといいなあと。そういう意味では、今回の作品は思ったところにはいけたな、というアルバムになりました。

【人間椅子、アルバムリリース!】

 人間椅子の19枚目のオリジナルアルバム『怪談 そして死とエロス』が2016年2月3日に発売される。全12曲を収録する同作は、いつもどおりメンバー全員が各自作曲をするなか、作曲したメンバーが自身で歌唱するというスタイルをとっており、三者三様のメンバーの個性が集合し完成した1枚となっている。

人間椅子『怪談 そして死とエロス』初回限定盤ジャケット

人間椅子『怪談 そして死とエロス』通常盤ジャケット

 なお、アルバムのリリースにともない全国ツアーも決定。全国15カ所を巡り、最終公演は3月19日に赤坂BLITZで行われる予定だ。また、全国のレコード店でのインストアライブも行う予定。2016年も人間椅子から目が離せなくなりそうだ。詳しくはオフィシャルサイトをチェックしよう。

人間椅子。左から鈴木研一(ボーカル&ベース)、和嶋慎治(ボーカル&ギター)、ナカジマノブ(ボーカル&ドラム)

耳マン編集部