余命宣告から奇跡の復活……あのギタリストの自伝が勇気出ると話題

連載・コラム

[2017/2/16 17:00]

ミッシェルなど多くのバンドに影響を与えるウィルコ・ジョンソン

1970年代の英ライブシーンで絶大な人気を集め、日本でもミッシェル・ガン・エレファントなどに強く影響を与えたギタリスト、ウィルコ・ジョンソンの自伝『不滅療法』が話題だ。ウィルコと言えば、2013年にすい臓ガンで余命宣告を受けるも、多くの幸運が重なって奇跡的に復活を遂げたことで注目を集めたが、同書ではその際のエピソードや心情がリアルに記されている。

不滅療法~ウィルコ・ジョンソン自伝

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「重要なのは、今ある時間を精一杯生きることだ」

最愛の妻アイリーンを大腸ガンで亡くして以来、「すべての景色が灰色になってしまった」と語るウィルコは、余命宣告を受けた直後でさえも「俺は自由だった。未来からも過去からも、そして俺がいるこの瞬間以外のすべてのものからも解き放たれた気がした」とある種の悟りの境地に達する。

一方で、「……逃れようのない恐怖に苛まれる、孤独な長い夜。しかしそれさえも、受話器を取って誰かと会話し、そこで笑えれば対処できた。重要なのは、今ある時間を精一杯生きることだ。死は不可避なものだとあっさり認めれば、下手に抗おうとして時間を浪費することもない」と、刻々と迫る死におびえる自分も否定せず、事実だけを受け入れようとする日々が続いていく。

余命宣告を受けてからのウィルコは、大好きな日本を訪れて南青山レッドシューズや京都磔磔でライブを行い、夏にはフジロックに出演、イギリスでフェアウェル・ツアーを敢行し、さらにロジャー・ダルトリー(ザ・フー)と組んでアルバム『Going Back Home』(のちにゴールド・ディスクを獲得)を完成させるなど、最後の力を振り絞ってかなり精力的に活動を送っていた。

『不滅療法~ウィルコ・ジョンソン自伝』より Photo:Hiroki Nishioka

ウィルコの運命を変えたのは……!?

しかし、余命とされた時期を過ぎても彼に死は訪れない。それを疑問に思ったチャーリー・チャンという医師は、オックスフォード大学時代の旧友エマニュエル・ヒューゲイの診察を受けることを薦めるのだが、ここからウィルコの運命が大きく動き始めるのだ。

「手術は俺を根治させる可能性もあれば、麻酔によって二度と起き上がることのない忘却の彼方へ俺を連れ去る可能性もあるだろう。いずれにしても、俺は苦しまなくて済む。希望という奇妙な戦慄が俺の中を走った。そうだ、俺は手術をしてほしかったんだ、生死をかけた究極の選択だが、任せられる男がここにいる。瀕死だった俺の世界に彗星の如く現れ、俺の命を救う可能性を語るヒューゲイ医師が俺の目に神々しく映り始めた」

『不滅療法~ウィルコ・ジョンソン自伝』より Photo:Hiroki Nishioka

有名ミュージシャンの秘話など読み応えたっぷり

その後の復活までの道のりはぜひ『不滅療法』を読んでいただきたいが、同書は生死のあり方を考えさせられると同時に、生きる勇気を与えてくれる。ウィルコは自身の大きな手術痕を「俺のへそを起点として腹部全体に豪快に描かれたメルセデス・ベンツのマークがホチキスで縫合されている。まさにリアルなフランケンシュタインだ」と笑い飛ばすが、その姿勢はまさに“不滅”という言葉がよく似合う。ドクター・フィールグッドのセカンド・アルバム『不正療法』から取ったとされる同書のタイトルは言い得て妙だが、全368ページの中にはもちろん病気の話だけでなく、学生時代のインド/ネパールの旅行記、最愛の妻アイリーンとの思い出のほか、ドクター・フィールグッド脱退の真相やイアン・デューリー・バンドでの暴露話、レミー・キルミスター(モーターヘッド)やジョン・ライドン(セックス・ピストルズ)、ジョー・ストラマー(クラッシュ)やウェイン・クレイマー(MC5)など多くの有名ミュージシャンとの知られざるエピソードも飛び出すなど、ロック・スターらしい一面もしっかりと記されている。

また、シェイクスピアなどの中世の文学を愛し、国語教師も務めていたウィルコらしく、ミュージシャンの自伝とは思えない “読ませる”内容になっていることも付け加えておきたい。

なお、9月26日には彼が率いるバンドの30周年を記念し、かの有名な英ロイヤル・アルバート・ホールでライブを行なうことがアナウンスされている。7月には70歳を迎えるウィルコ・ジョンソンは、まだまだ夢を見させてくれそうだ。

[耳マン編集部]