業界禁断のクエスチョン……J-POPが洋楽の音にならない理由【ロックのウラ教科書 Part.5】

連載・コラム

[2018/6/8 11:45]

プレスリー、ビートルズ、ストーンズ、ジミヘン、デヴィッド・ボウイ……歴史に刻まれた名盤の数々をレコーディングという側面で切り、そのウラに隠された噂の真相を探る新連載。

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湿度?電源?機材? どうして洋楽サウンドにならないの?

「なんでJ-POPは洋楽のような音にならないのか」という話題は、飽きるほど繰り返されてきた議論だと思います。日本の湿度が高いから、電源が違うから、はたまた置いてあるレコーディング機材が違うから。いろいろな説を耳にします。もちろん、それら一つ一つに根拠があり、当然音への影響はあるんですが、一番音への影響が大きいのは、「そもそも洋楽の音にしようと思っていないから」だったりしそうな予感がしています(笑)。あるとき、某レコード会社から「中村さんは洋楽のような音作りをするのが得意だそうなので、マニアにも突き刺さるような洋楽チックなミックスをしてほしくて」と連絡がありました。これは自由に音が作れる僕向きの良い仕事!と、喜び勇んでミックスを仕上げたのですが、結果、社内で大問題になってしまいました。その理由が「これじゃ本当に洋楽の音じゃないか!」と言うもの。なんとなくそんな予感はしていましたが、ミックスはやり直し。結局はそれをもう少しJ-POP的に修正してリリースする流れになりました。

ディープ・パープル、ハービー・ハンコック……外タレが日本でレコーディングしたら洋楽になった

考えてみると、湿度や電源など条件の違いがあるにしても、日本人のアーティストでも海外録音のものも大量にあります。しかも、景気が良かったバブル期に、海外で作っていることが多かったはずです。にも関わらず、その頃の邦楽は実にJ-POP的なサウンドです。1980年頃よりも、バブルが崩壊した1980年代後半から1990年代にかけてが音楽業界のピークでした。何100万枚と売っていたアーティストがいたのはその時期ですよね。その頃、アメリカではグランジやオルタナのような1960年代リバイバルに湧いていましたが、日本では軽めで歪みの少ないキラキラしたサウンドが流行していました。そして、海外レコーディングをして向こうのプロデューサーやエンジニアと仕事をした作品でさえ、言われなければ気付かないものが大半です。逆に、ハービー・ハンコックの1980年頃の作品を聴いていて、クレジットを見たら日本のソニーで録っていてびっくりしたことがあります。日本のスタジオで録っているのに、完全に洋楽の音だったからです。

これは録ってる場所より、頭の中で鳴っている音の違いのほうが影響が大きいんだなと驚きを感じました。考えてみれば、ディープ・パープルの『ライブ・イン・ジャパン』を聴いて、日本っぽい音だと思う人のほうが少ないですよね。レコーダーまで日本製のものを使ってますが、日本らしいサウンドだとは誰も思わないはずです。

場所による違いがそこまでないのに、なぜこんなにも音が違うんでしょうか? ひとつには話している言葉の違いがあると思いますが、一番大きな原因は再生環境と住宅事情が違うからだと思います。広いスペースで爆音で鳴らして気持ち良いミックスと、小さいスペースで小型スピーカーを小さく鳴らしても普通に聴こえるミックスでは、まるっきり方向性が違ってくるということです。

イラスト:福島モンタ

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著・中村公輔

レコーディングがわかると、ロックがもっと見えてくる! バスドラムに穴を開けるようになったのはビートルズの無茶振りのせい!? スティーリー・ダンのドラムは生演奏ではなく本当は打ち込みだった!? 歪んだギターが誕生したのは壊れたアンプを新聞紙で応急処置したから!? 録音機材の進化と、破天荒なエンジニアが生み出したブレイクスルーを詳細に解説。『ザ・ビートルズ』ザ・ビートルズ、『ベガーズ・バンケット』ローリング・ストーンズ、『ペット・サウンズ』ビーチ・ボーイズ、『メタル・ジャスティス』メタリカ、『エイジャ』スティーリー・ダン、『ナイト・フライ』ドラルド・フェイゲン、『パレード』プリンス、『L.A.ウーマン』ドアーズ、『ラヴレス』マイ・ブラッディ・バレンタインなどなど、絶対の名盤が多数登場! ロックをより深く聴くための、リスナー向け録音マニュアル。5月25日に発売。全288ページ、1600円+税。ロックのウラを知りたいあたなのための1冊です!

◎なかむらこうすけ
1974年生まれ。1999年にNeinaのメンバーとしてドイツMile Plateauxよりデビュー。その後、自身のソロプロジェクトKangarooPaw のアルバム制作途中にずぶずぶと宅録にハマリ、気づいたらエンジニアに。近年に手がけたアーティストは、入江陽、宇宙ネコ子、Taiko Super Kicks、TAMTAM、ツチヤニボンド、ルルルルズなど。プロデューサー、作曲家、音楽ライターとしても活躍中。

耳マン編集部