これは究極の選択……ライブとレコードいい音なのはどっち?【ロックのウラ教科書 Part.4】

連載・コラム

[2018/6/1 12:00]

プレスリー、ビートルズ、ストーンズ、ジミヘン、デヴィッド・ボウイ……歴史に刻まれた名盤の数々をレコーディングという側面で切り、そのウラに隠された噂の真相を探る新連載。

<耳マンのそのほかの記事>

1950年代から議論されていたテーマ

レコーディングされた音とライブで聴く生の音、どちらがいいのでしょうか。前回も書きましたが、1950年頃にもジャズはライブが良いのか音源が良いのかという議論があったそうです。

ライブのほうが全然音が良いと感じるという人もいるでしょう。音だけではなく、目の前で、リアルタイムで演奏するのを目撃する緊迫感などもあると思いますが、それだけではなくライブに通いなれていると、生で鳴っている音の方が基準になってくると思います。これだけ技術が発展しているのに、なんでライブの感じをそのまんま録音にパッケージングできないのか?という質問をたびたび受けるんですが、それは実は録音技術ではなくて人間の耳の側に問題があるのです。

象は低音がよく聴こえるように耳がチューニングされている!?

動物の耳はそれぞれ、種が生き残りやすくなるように進化していて、例えば象だと遠くから仲間が危険を知らせる足音を察知するために、低音がよく聴こえるようにチューニングされています。人間も同じようにコミュニケーションを取るために使う、言葉の周波数が、その枠の外の周波数に比べて極端に聴こえやすくなっています。それに加えて、小さい声でも聞き取れるように、小さい音量のときには言葉の周波数が優先的に聴こえるような仕組みになっています。

もしも現実の音をそのままキャプチャーできる理想的なマイクと、そのまま再生できるスピーカーがあったとしても、再生音量が違うと同じように聴こえないので、ライブのままのサウンドを楽しみたかったら、ライブ会場と同じ音量で鳴らすしかないのです(笑)。

イラスト:福島モンタ

この話が収録された『名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書』5月25日発売!

著・中村公輔

レコーディングがわかると、ロックがもっと見えてくる! バスドラムに穴を開けるようになったのはビートルズの無茶振りのせい!? スティーリー・ダンのドラムは生演奏ではなく本当は打ち込みだった!? 歪んだギターが誕生したのは壊れたアンプを新聞紙で応急処置したから!? 録音機材の進化と、破天荒なエンジニアが生み出したブレイクスルーを詳細に解説。『ザ・ビートルズ』ザ・ビートルズ、『ベガーズ・バンケット』ローリング・ストーンズ、『ペット・サウンズ』ビーチ・ボーイズ、『メタル・ジャスティス』メタリカ、『エイジャ』スティーリー・ダン、『ナイト・フライ』ドラルド・フェイゲン、『パレード』プリンス、『L.A.ウーマン』ドアーズ、『ラヴレス』マイ・ブラッディ・バレンタインなどなど、絶対の名盤が多数登場! ロックをより深く聴くための、リスナー向け録音マニュアル。5月25日に発売。全288ページ、1600円+税。ロックのウラを知りたいあたなのための1冊です!

◎なかむらこうすけ
1974年生まれ。1999年にNeinaのメンバーとしてドイツMile Plateauxよりデビュー。その後、自身のソロプロジェクトKangarooPaw のアルバム制作途中にずぶずぶと宅録にハマリ、気づいたらエンジニアに。近年に手がけたアーティストは、入江陽、宇宙ネコ子、Taiko Super Kicks、TAMTAM、ツチヤニボンド、ルルルルズなど。プロデューサー、作曲家、音楽ライターとしても活躍中。

耳マン編集部