ビートルズとジミヘンの名盤で聴き比べるドラムレコーディング術【ロックのウラ教科書 Part.6】

連載・コラム

[2018/6/15 17:00]

プレスリー、ビートルズ、ストーンズ、ジミヘン、デヴィッド・ボウイ……歴史に刻まれた名盤の数々をレコーディングという側面で切り、そのウラに隠された噂の真相を探る新連載。

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遠くからドラムを狙ったアンビエンスマイクの音を混ぜる

1960年代中期頃にオンマイクでドラムにパンチを出したビートルズですが、さらに進化していきます。アンビエンスマイクの積極的な使用です。ドラムを5メートル以上離したところから狙ったサウンドを、近くのマイクの音にブレンドして音作りをするのですが、これは簡単に言うとリバーブ的な効果が得られるマイクポジションです。1960年代中期頃のドラムの音を組み立てたあとに、少し遠くにあるマイクのフェーダーを上げていくと、残響音が増えていき、ややジャズ的な空気感のある音色になっていきます。

同時期にオリンピック・スタジオで録音された2枚の歴史的ロック名盤

この比較は1967年頃のビートルズとジミ・ヘンドリックスを比べるとわかりやすいかもしれないですね。ビートルズ の『マジカル・ミステリー・ツアー』収録の『ベイビー・ユーアー・ア・リッチマン』のドラムは、まるで空気の音がせず、ゼロ距離で録音しているようなタイトな音像ですが、同時期に録られたジミ・ヘンドリックス『アクシス:ボールド・アズ・ラヴ』収録の『空より高く』では音にはパンチがありながらも、ジャズっぽい生々しさを感じます。ジミ・ヘンドリックスの録音は、オリンピック・スタジオのエディ・クレイマーが担当していますが、どうやらビートルズはドラムに複数マイクを立てているとの噂を聞いて、自分でも試してみた結果このような音になっているそうです。近いマイクが立っているので芯がありますが、ビートルズよりも圧倒的に遠目のマイクのブレンド比率が高いために、ジャズとロックの中間のような音になっているのですね。この2曲の比較がなぜわかりやすいかというと、両方とも同時期にオリンピック・スタジオで録音された楽曲だからです。機材もスタジオもほぼ同一の条件なので、空気の音を混ぜる混ぜないでの音の変化がわかりやすいんじゃないでしょうか。

イラスト:福島モンタ

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◎なかむらこうすけ
1974年生まれ。1999年にNeinaのメンバーとしてドイツMile Plateauxよりデビュー。その後、自身のソロプロジェクトKangarooPaw のアルバム制作途中にずぶずぶと宅録にハマリ、気づいたらエンジニアに。近年に手がけたアーティストは、入江陽、宇宙ネコ子、Taiko Super Kicks、TAMTAM、ツチヤニボンド、ルルルルズなど。プロデューサー、作曲家、音楽ライターとしても活躍中。

耳マン編集部