安室奈美恵、西野カナ、宇多田ヒカルetc……平成を象徴する歌姫たちの引退や活動休止に何を思う【及川眠子×アロム奈美江 対談】

特集・インタビュー

[2019/3/1 12:00]

安室奈美恵が2018年をもって引退したことは日本中に大きな衝撃を与えたが、それに続くように西野カナも無期限の活動休止を発表。遡れば宇多田ヒカルも2011年から2016年までアーティスト活動を休止していた。その一方、松任谷由実や中島みゆき、椎名林檎など長きにわたって第一線で活躍し続けている女性アーティストもいる。彼女たちには一体どんな違いがあったのか……そんな興味深いテーマを設け、多くの女性アーティストの作詞も手がけている作詞家・及川眠子と、女装パフォーマーでありライターとしても活躍するアロム奈美江の対談を敢行! さまざまな目線から歌姫(「歌姫ってなんなん」論争もあるが……)たちを斬りまくる!


女の子は才能があればあるほど寿命が短いのよ(及川)

西野カナさんも無理が来たのかな?って(アロム)

アロム:2018年に安室(奈美恵)ちゃんが引退して、最近では西野カナさんも活動を休止したり。男性でも嵐の発動休止の発表とか、ちょっと前だけどSMAPの解散もあったし、平成を象徴するアイドルや歌手の引退が続いてるなと思うんですけど、それに関して眠子さんは思うところありますか?

及川:女の子は才能があればあるほど寿命が短いのよ。それは作詞家も同じ。何でかっていうと女の旬を使うから。でもなんでユーミン(松任谷由実)とか中島みゆきとか椎名林檎は長く活動できてるのかってなると、その才能をサポートする人間がいるから。松任谷(正隆)さんだったり、瀬尾(一三)さんだったり、亀田(誠治)くんだったり、彼女たちをサポートできる人間がいて、彼女たちをちゃんと箱に収めてあげてる。そういうパートナー的なプロデューサーがいるかいないかで女の子って全然変わると思うんだよね。

アロム:竹内まりやさんにも(山下)達郎さんがいたり。

及川:そうそう。

アロム:特に西野カナさん、まぁ安室ちゃんもそうですけど、出始めは「女子高生のカリスマ」とか言われて、女子高生の代弁者みたいなところでブレイクしたところもあって。でも年齢を重ねていってうまく次のステップへシフトしていけないパターンの歌手って多いのかなって思うんです。加藤ミリヤさんもうまくシフトできてないイメージで。私、ミリヤさんはすごい好きなんですけど、最近はどうしても迷走してる印象がある。西野カナさんも同じような壁にぶつかって無理が来たのかな?って想像してるんですよ。

及川:枯渇しちゃった部分があるんじゃないの。それってどの時代もそうで、例えば私が聴いてた時代っていうのはユーミンと同じくらいに出てきた佐井好子とか森田童子とか中山ラビとか、みんなものすごい才能だと思ったの。でも、やっぱり活動を休止したり引退したりしちゃったもんね。みんな持ってるものを全部使っちゃうんだろうね。

アロム:宇多田ヒカルさんも一時期は「人間活動に専念します」みたいなことありましたもんね。

及川:そうそう。彼女もそうだよね。あの娘のエネルギーとか、持ってるものってすごいんだけど、それをきちんと形にしてあげられる人がいないととっ散らかるだけよ。

アロム:眠子さんの本(『ネコの手も貸したい』)にも宇多田ヒカルさんの『Automatic』はすごく衝撃的だったって書いてありますよね。

及川:スタッフたちも受け止めきれないんだろうね。あそこまでエネルギーが強いっていうか才能があると、まわりもどうしていいかわからないんだと思う。鬼束ちひろとか、Coccoとか、ああいう“裸足系”の人たちってすごく才能あるけど、とっ散らかっちゃうんだよね(笑)。だってあの娘たちのエネルギーのほうが強いんだもん。

アロム:私も鬼束さんのことはすごく好きで、新宿二丁目で彼女の曲ばっかり流す『鬼束ちひろナイト』っていうイベントをご本人や所属事務所側公認でやらせていただいてて。一時期は見た目も言動も音楽性も荒れていてましたけど、最近は憑き物が取れたかのように精神がだいぶ安定しているみたい。それもやっぱりまわりで支えている人たちが変わったことが影響しているみたいなんですよね。

及川:やっぱりまわりの人間なのよ。私、大森靖子が大好きなんだけど、あの子はかなり計算してるはずだし、すっごいクレバー。セルフプロデュースがしっかりしてるのよね。そういうセルフプロデュース能力がないとやっぱり暴走するのよ、放っておくと。で、手に負えなくなる。

アロム:最近の若いアーティストで気になる人はいますか?

及川:やっぱりあいみょんかな。あの子はいいね。自分の内臓を晒してる感じがある。だからそのぶん長続きしないかもわからないけど。

アロム:ちなみに西野カナさんは眠子さんから見るとどういう歌詞の作り手でしたか?

及川:日記。だからあんまり興味なかった……。

アロム:マツコ(・デラックス)さんも「好きとか会いたいって気持ちを『好き』とか『会いたい』って言葉を使わずに伝えるのが歌手じゃないの?」みたいなことをテレビで言ってましたよね。でも、ケータイ世代の若い子たちは遠回しな言い回しよりも直球なメッセージを求めているのかなとも思ったり。

及川:やっぱり時代は変化するからね。青山テルマが出てきたときに、彼女の歌い方とか声ってイヤホンやヘッドホンで聴く子たちに向けられてるなって思ったの。それまでは音量がバーンと鳴ってて、そのなかで「おぉ!」ってなる声を持ってる人に驚きがあったじゃない? でもあの子の声ってイヤホンで聴いたときにぐっと入ってくる。新しい時代の声だなって思ったよね。

アロム:歌詞についてはどうでしたか? 青山テルマさんの歌詞。

及川:歌詞はあんまり興味なかった。「“そばにいるねー”って言ってるのか、なるほど」みたいな。

アロム:(笑)。

及川:でもね、若い子たちが支持する世界観っていうのはあるよね。どこかちょっと、何ていうのかな………手の届く不幸感っていうかさ。平松愛理とか古内東子とかもそう。

アロム:古内東子さんはゲイのなかでも人気ありましたよ。ちょっとジメジメした感じの世界観を歌っていたから。

及川:そう。ジメっとした、手の届く不幸感だよね。うんと不幸じゃないの。うんと不幸はみゆきに行くの、みんな!

アロム:わかります〜(笑)。ちなみにゲイのあいだでは世間一般のノンケ男性に媚びるような可愛げがある歌を歌う女性アーティストはあまり人気がないんです。

及川:丸の内系ね。

アロム:だから『トリセツ』などの幸せな歌を歌いだした西野カナさんって、昔の大塚愛さんみたいな世界観と似てきたなって思っていて。

及川:でも最近、大塚さんは支持されるようになんたんじゃない?

アロム:そうそう最近やっと。離婚があったおかげで(笑)。また一皮剥けた感じになりそう。

及川:そうね。

安室ちゃんはやっぱり一生憧れの存在(アロム)

彼女はいつまで経っても“なみえちゃん”のイメージ(及川)

アロム: 同じケータイ世代の歌姫なのに、2丁目のゲイはさっきも触れたミリヤさんが好きな人が多いんです。それってやっぱりミリヤさんの代表曲には、救いようのない不幸感があふれていたから。でも、CDの売り上げなど一般的に受け入れられたのは西野カナさんでしたね。

及川:そうね。だから「西野カナってどこに行くんだろう」っていうのはあったよね。

アロム:若い女子たちのアイコンなだけに、このままババアにはなれないですもんね。

及川:だからうまくどっかでワンバウンドしないと。森高(千里)と似てるかも。

アロム:不幸な女唄が好きな私としては、大黒摩季さんも初期は失恋系が多くてどハマりしてました。いつも片思いとか男に振られるとか全然報われないんだけど強気で意地っ張りな女性像を歌っていて本当に好き。「ほんとはめちゃくちゃ傷ついているけど、私、一人でも平気!」って言っちゃう感じに「がんばれ~!」「私もがんばる!」って気持ちになれる。

及川:ほぉ~。なるほどね。

アロム:安室ちゃんについては、私が書いた本(『永遠ていう安室奈美恵なんて知らなかったよね。新宿2丁目も愛した歌姫』)でもたっぷり安室愛をつづっていますけど、芯が通ってる感じっていうか、徹底してる姿勢がすごく好きなんです。隙が全然ないし、一生手が届かない憧れの存在なんですよね。眠子さんはそんな安室ちゃんの歌詞も書いてますもんね。

及川:『愛してマスカット』とかね。あのときまだ14歳だったから、彼女が40歳を過ぎても“なみえちゃん”のイメージなの。ちっちゃくておかっぱでさ、(小声で)とにかくサルみたいでさ。

アロム:『愛してマスカット』とそのカップリングの『わがままを許して』を書いてらっしゃいますけど、どっちも等身大の安室ちゃんからすると大人っぽい女性の歌詞ですよね。それって意図的に大人っぽく売ろうとしていたんですか?

及川:あのときはどうだったかなぁ……あれってガムのCMソングだったよね。だから……うん、ガムだね(笑)!

アロム:ガムですか(笑)。歌詞の世界はけっこう切なくて大人の恋愛を歌っているなあという印象でした。

及川:小森田実さんが作曲したんだけど、彼の曲は明るいから逆に切なくもっていったっていうのがあったかも……でも忘れちゃったな。

アロム:けっこう前ですもんね。

及川:うん、すっごい前!

アロム:ほかに安室ちゃんのことで覚えてるエピソードはありませんか?

及川:あれはSUPER MONKEY'S 4(安室奈美恵とMAXの源流と言えるグループ)の曲だったんだけど、スタジオに行ったらあの子たちがずーっと『クレヨンしんちゃん』の話をしてるからついていけなくて。スタジオを出てずーっと外でタバコ吸ってた記憶がある(笑)。

アロム:中学生だもん、アニメの話だってするわよっ(笑)!

及川:「クレヨンしんちゃんは無理!」って思ってた(笑)。

アロム:そのときは安室ちゃんがすごい人になるっていう予感は?

及川:ないね。

アロム:「元気なサル顔の子だな~」くらいの(笑)?

及川:そうそう、そういう感じ。でそのあとね、ちょっと経ってからバッタリ会ったんだよね。「あぁ、なんか大きくなったね!」って言ったら、「高い靴履いてるんですよ」って言われて、なるほどみたいな(笑)。

アロム:ニーハイブーツ……。

及川:でもやっぱり自分が歌詞を書いた子がうまくいってくれるとか、幸せになってくれるっていうのはすごく嬉しいよね。

新井浩文すっごい好きなんだ、私(及川)

とってもタイムリーなお話で……(アロム)

アロム:眠子さんの本にも自分が作詞したアーティストが活躍してくれるのは嬉しいって書いてありましたよね。この本って生き方みたいなところでも応援してくれる感じがあって読んでいて元気出ました。「いっぱい旅行しなさい」とか「恋をしなさい」とか、ああいうメッセージはいろんなことに通じる部分だと思って。

及川:無駄な経験てないからね。

アロム:いっぱいインプットしていかないとアウトプットできないなって。

及川:そう。ドロドロの恋愛もネタよ。

アロム:そうなんですよねぇ〜。

及川:もう、いかにネタにして「回収回収!」みたいな。最近「眠子さんの好きになる人って、ノラなのに妙に毛並みがよくて、人懐っこくてすぐお腹をみせて甘えるのに、何度教えてもお手もできない大型犬」って言われて(笑)。人懐っこいからすぐワ~って甘えてくるの。「かわいいな」って思うんだけど、お手を覚えない。

アロム:見る目がないってことね(笑)!

及川:私、本当に見た目から入るのよ(笑)。

アロム:でもやっぱり見た目は大事! 人柄とかはそのあとだから。

及川:でもその代わり経済力とか頭のよさとか、そういうの全然気にしないの。

アロム:眠子さんは欲しいものがあったら自分で買えますしね。

及川:見た目的には背が高くて、妙にゴツゴツしてて、目つきが悪くて、ダサい男が好き。でもそういう男って闇があったり、あんまりよくないんだなって改めて新井浩文の件でわかった。新井浩文すっごい好きなんだ私(笑)。

アロム:とってもタイムリーなお話で(笑)。そういえば、最近は私の本にも登場していただいているドラァグクイーンのエスムラルダさんも参加されているユニット“八方不美人”のプロデュースをされていますね。

及川:私と中崎(英也)さんのプロデュースの2丁目系ユニットで、サウンドに関しては全部中崎さんが担当、私は歌詞はもちろんだけど見せ方だったり、プロモーションだったりをやってる感じ。2丁目の人たちってちゃんと歌を演じられるのよね。それが魅力だと思う。

アロム:表題曲の『愛なんてジャンク!』って報われない系の恋愛の話だったりするから、そういう世界観が2丁目の人たちには合うってことをわかって作ったのかなと思って。

及川:幸せな歌を作る気はなかったの。あの人たちに幸せな歌を歌わせることほどおもしろくないものはないと思ったのよ。圧倒的な偽物であるからこそ悲しい歌にする。ダンサブルな曲だからあんまり最初は詞が入ってこないと思うけど、よーく聴いたら悲しい曲なのよね。悲しいから笑いに転化させられるっていう。

アロム:PVで本当にゴミ捨て場に捨てられてますもんね。

及川:リアルに2丁目のゴミ捨て場だからね。

アロム:週末はほんとゴミが山積みなんですもんね……。八方不美人の活躍にも期待しています! 今日は本当にありがとうございました。

及川:こちらこそありがとう。

プロフィール

及川眠子(おいかわねこ)

作詞家。1960年生まれ、和歌山県出身。Wink『愛が止まらない』『淋しい熱帯魚』、やしきたかじん『東京』、『新世紀エヴァンゲリオン』主題歌『残酷な天使のテーゼ』『魂のルフラン』などヒット曲を多数手がける。書著に『ネコの手も貸したい 及川眠子流作詞術』(リットーミュージック)、『破婚: 18歳年下のトルコ人亭主と過ごした13年間』(新潮社)、『夢の印税生活者』(講談社)、『誰かが私をきらいでも』(ベストセラーズ)などがある。ミュージカルの訳詞や舞台の構成、CMソング、アーティストプロデュース、エッセイやコラムなど執筆や講演活動もおこなっている。

アロム奈美江(あろむなみえ)

ゲイをテーマにした電子書籍ライター、ゲイ雑誌『Badi』編集者を経て。2009年にドラァグクイーンデビュー。30歳のときにゲイからトランスジェンダーの領域へ転向し、本名も愛する安室奈美恵と同じ“なみえ(字は奈美江)”に改名した。全国各地のイベントに出演する傍ら、イベントオーガナイザーとしても活躍。『大黒摩季ナイト』『鬼束ちひろナイト』『中島美嘉ナイト』『加藤ミリヤナイト』などの女性アーティスト縛りのイベントはいずれも本人公認で開催している。2018年12月には『永遠ていう安室奈美恵なんて知らなかったよね。 新宿2丁目も愛した歌姫』(リットーミュージック)を上梓。

ネコの手も貸したい 及川眠子流作詞術

1,620(本体1,500円+税)

品種書籍
仕様A5判 / 224ページ
発売日2018.07.20

「残酷な天使のテーゼ」などの数々のヒット作を手掛けた
及川眠子が書き下ろす、最初で最後の作詞教則本。

Amazonから購入する

耳マン編集部