ゲイ、エイズ、子育て……異色ヒップホップユニット西新宿パンティーズが語る“愛と家族”
頭にパンティーをかぶってラップをする大注目のヒップホップユニット・西新宿パンティーズ(以下、西パン)。常識や性別の垣根を越えた無二のスタイルで活動する彼らが、自分たちの人生と向き合ったちょっと真面目な(!?)新曲『STANDARD』を発表。今回は同曲のMVにも登場している女装パフォーマー&ライターのアロム奈美江を聞き手に迎え、彼らにインタビューを敢行した。彼らのSTANDARDとは一体!?
“愛”について、下ネタで表現できないかな?って——くんに君
アロム奈美江(以下、アロム):西パンといえばパンティーをかぶりながら基本的に下ネタの歌を歌うという下品なチームなんですけど(笑)、そもそもなんでパンティーかぶんないといけないの? こだわりがあるんですか?
MCくんに君(以下、くんに君):それはやっぱり、ギャングスタというか、ストリート感を出すために……。ラッパーが覆面とか目出し帽をかぶってラップしてる姿ってかっこいいじゃないですか。で、僕たちもそんな感じでパンティーかぶりだして。
あでぃぽい:そういうミーハーな理由だったんですか(笑)!? 僕も知らなかった!
くんに君:でもかぶり方にもこだわりがあって、今日のスタイリングはあでぃぽいがエムエフ・ドゥーム的なかぶり方。僕はラメルジー。
アロム:(スマホでエムエフ・ドゥームとラメルジーの写真を見て)そういうことね。へぇ〜。
くんに君:宇宙を感じるじゃないですか? それを表現したいなっていうのでラメルジースタイル。“くんに君”なんで“舐メルジー”という感じですね。
アロム:(無視して)じゃあ、バタ子さんは?
Snoopバタ子(以下、バタ子):まぁ、そのままですよね。スヌープ・ドッグで。全然スヌープ感ないんですけどね(笑)!
くんに君:パンティーのかぶり方はいろいろありますから。例えば独眼竜でかぶったスリック・リックスタイルっていうのとか、ヒップホップ的なパンティーのかぶり方っていうのを日頃からめちゃめちゃ研究してます!
バタ子:パンティーかぶりは遊びじゃねぇんだぞ!って。
アロム:よく言ってるやつね。
くんに君:ほかにもLL・クール・Jのカンゴールハットみたいな感じでパンティーかぶったりとか。僕がやったら“LL・くんに・J”なんですけどね(笑)。
アロム:(無視して)新曲の『STANDARD』はメロウな曲でメッセージ性の高い歌詞もあったりして、これまでの西パンとはちょっと違った楽曲に仕上がっていて新鮮だったんですけど、曲を作った経緯を聞いていいですか?
くんに君:いやぁ〜、(メンバーの顔を見ながら)ちょっと言っていい? 正直な話をするとですね、我々のなかで「売れたいな」という思いが……。
アロム:万人受けを狙ったのね!
あでぃぽい:この曲を作る前兆というか……くんにさんが「最近さぁ、売れたいんだよね。『ミュージックステーション』とか出たいんだよね」って言い出して(笑)。
くんに君:それで、女性ボーカルを入れて、あとはヒップホップ名物の“感謝”も入れて、それがあれば売れるんじゃないかなと思ったんですけど、まぁいつもと変わんなかったですよね(笑)。っていうのと、これまで僕たちは下ネタでおもしろいラップをしてみるとか、下ネタでシリアスなことを言ってみるとか、下ネタを通して表現することに挑戦してきたわけですよ。それで、今回は我々なりのアートへの挑戦として、一番下ネタが似合わない“愛”について、下ネタで表現できないかな?って思ったんですよね。
僕の場合は彼氏と同棲してる家が“家族の場所”——あでぃぽい
アロム:ラップ部分は3パートに分かれてて、メンバーそれぞれが置かれている生活環境だったり人生観とかをリリックに書かれていますが、MVでも各々のドラマが描写されていて伝わってきますね。
あでぃぽい:この曲には愛と、もうひとつ家族っていうのがテーマにあって。僕の場合はいま彼氏と一緒に同棲してる家が象徴的な“家族の場所”だと思ったので、まずそこでMVを撮りたいなぁと。映像でいうと、共同作業っていう形で洗濯物を干したり、ふたりで家事をしてお茶を飲んだりしている“日常の風景”を撮りました。
アロム:彼氏さんがMVに出演してるってことは、活動を応援してくれてるってことですか? パンティーかぶってるゲイの彼氏ってどうかと思うんだけど。
あでぃぽい:彼氏は僕が西パンをやっているのは知ってたし応援もしてくれてるんですけど、MV出演を交渉するのはめちゃくちゃ気が重かったんですよ。出てくれるかなぁって思ってたら、実際はけっこう目立ちたがり屋だった(笑)。
アロム:あはははは(笑)!
あでぃぽい:けっこうグイグイきて、「ちゃんと映してくれ」みたいな(笑)。できあがった映像を観て「なんで俺がメインじゃないんだ」「俺のカット少なくないか」みたいなことを言い出して、「ごめんなさい。でも俺のパートなんで」って(笑)。
アロム:なんか、ダイバーシティって感じですね。じゃあ次はくんにさん。くんにさんはご結婚や出産……出産はくんにさんがしてるわけじゃないけど、そういう体験を重ねてきて、人生観が変わったのかしらっていう感じがしました。急にキレイ売り!と思って。
くんに君:いやぁもう、めちゃくちゃ変わりましたよ! 初めてエターナルラブを感じましたね。例えば彼女とか嫁とはいつか別れる日がきたとしても、子どもとは何があろうがずっと親子なんだなぁっていうのを、自分が子どもをもって実感しました。あと、自分の親に対しても感謝がすごく出てきて。僕もこうやっておむつを変えてもらったりミルクを飲ませてもらったりして、本当に愛をもって育てられたんだろうなぁっていうのを重ねて考えると、親に感謝したいなと。子どもをもつ人はみんな感じるような、そういう気持ちを歌ったら売れるんじゃないかなとも思ったんだけど(笑)。
アロム:お子さんもMVに出てきますしね。冒頭の「あか、あお、きいろ、オレンジ」って言ってるの可愛い。
あでぃぽい:いまは家で子どもに西パンを聴かせてるんでしょ?
くんに君:聴かせてる! ちゃんとリリックも覚えて「夜中にオ○ニー」とかマネして(笑)。
あでぃぽい:それどっかのタイミングで止めないと、保育園とかで問題になりますよ(笑)!
アロム:で、くんにさんは今回MVでお子さんとの共演シーンだけはパンティーかぶってないんですよね。
くんに君:息子が顔を出してるのに、自分だけ顔を出さないってありえないでしょ! 息子が大人になってMVを観たときに「俺だけ顔出して、親父は出してねぇのかよ!」って(笑)。
アロム:くんにさんのシーン、あざとかったです。子どもを使っとけばみたいな、演歌の『孫』みたいなね。高齢者層も狙ったのかしら。
西パンを通してカミングアウトしていきたい——バタ子
アロム:それで最後にバタ子さんのパートはね、杉田(水脈)議員ディスもリリックに入れたりと社会派なメッセージも込められてましたね。
Snoopバタ子:そうですね。
アロム:「生産性で人をはかるな」ってところ、かっこよかったですよ。でもMVでは、バタ子さんは特にご家族の姿がなく……(笑)。
バタ子:ぶっちゃけて言うと、本当はMVを実家で撮ろうとしてたんですよ。お姉ちゃんの家族やお父さんと一緒に。ただ、姪っ子が撮影の当日にインフルエンザにかかってしまって。それがなければ実家で撮るOKは出てたんですけど。
アロム:曲では「兄、姉、弟、妹がいる」って歌ってるけど、MVには誰も出てこないから、反対されてるのかしらって思ってました(笑)。
バタ子:僕は西パンを通してカミングアウトをしていきたいなっていうのがあって。ホモだったりエイズのことだったり。
アロム:リリックに出てくる病気のことっていうのはどこまでが本当なんですか?
バタ子:エイズは本当です、アハハハ(笑)。
アロム:「チ○コにシコリ」は?
バタ子:あれはねぇ……あっ! それは「チ○コにシコリ」じゃなくて、「チ○コ2シコり」(笑)!
アロム:2回シコるって意味!? そっちのシコりねぇ! 病気の話ばっかりなのかと思ってた(笑)。
バタ子:(笑)。本当はね、MVに親父とかも一緒に映ってなんとなくカミングアウトっていうことを考えてたんですけど。
アロム:家族は(ゲイだということを)知ってるんですか?
バタ子:兄と姉だけ知ってます。
あでぃぽい:家でMVを撮ってたら、そのときに話すつもりだった?
バタ子:話さないけど、なんとなく察してもらうみたいな。まぁお父さんは多分勘づいてるとは思うんだよねぇ。
アロム:じゃあ今回はカミングアウトを逃しちゃったってこと?
バタ子:カミングアウトをしなくても、曲では、なんていうか「(こういう人も)いつもいるよ」みたいなことを伝えたかった。世の中にはホモもいるし、エイズの患者もいるし。別にいいんじゃん?みたいなことを。
あでぃぽい:カミングアウトっていうよりは、素の自分で表現して、そこから伝わるものがあればみたいな?
バタ子:……って思ったんですけど、(MV撮影は)ひとりでしたっ(笑)!
アロム:今回ひとりだけMVで担当パート中にパンティーかぶってないですけど。
くんに君:それ、かっこつけたいとか言い出して! 僕もそこは意味がよくわかんなかったです。どうしちゃったんだと(笑)!
アロム:売れたくなっちゃったのかしら? せめてひとりだけでもかっこつけて(笑)。
くんに君:まぁでも全員失敗したという(笑)。
世の中いろんな人いるなぁっていうのをちゃんと表現できたら——くんに君
アロム:MVにヤマンバギャルに出てもらったのは意味があるんですか?
あでぃぽい:多様性です。
バタ子:多様性よねぇ。
アロム:ヤマンバギャル以外には、私も出させてもらったり、ドラァグクイーンの穴野をしる子ちゃんとか、Melodiasさんっていう大御所の方も出ていて、フューチャリングのほぐしぃ・ぶらぅんとさんのパートをリップシンクしてるんですけど。クイーンを使ったのは何か意図があるんですか?
あでぃぽい:ほぐしぃ・ぶらぅんとさんが、ちょっと顔を出せなくて。艶っぽくてゴージャスな歌だったんで、クイーンさんに出てもらったら絶対合うよなってなったんですよね。
アロム:MVのロケ地は新宿2丁目なんですけど、西パンは2丁目でMVを撮るのは初めてじゃないと思うんですよ。かといってメンバーにはノンケさんもいるし、2丁目発信のユニットっていうわけではないと思うんだけど、あえてロケ地に使ったのは、2丁目に対する思いみたいなものがあったんですか? ホームと思ってるとか?
あでぃぽい:「西新宿」とは言ってるんですけど、西新宿ではあまりMVを撮ったことはないんですよね。
くんに君:メンバーとは西新宿で出会ったんですけど、みんなの共通として2丁目のフリーダムな感じが好きなんですよね。新宿のなかでも1番おもしろいところじゃないですか。僕はノンケだけど、学生の頃に男子寮に住んでたからいろんなことを見てきたし、2丁目にもよく行くし、そういうのもあって同性愛には抵抗を感じないんですよね。2丁目で遊んでいると、本当に世の中にはいろんな人いるなぁって思いますから、なんかそういうのをちゃんと表現できたらなって思いますね。
アロム:やっとこの曲の配信も始まって、当初は5月にレコードもリリースする予定って聞いてたんですけど、リリースが延び延びになってるのはなんでなんですか?
くんに君:それはやっぱり、怠慢ですよねぇ……。
アロム:こんなに売れたいのに!
あでぃぽい:誰も動かない(笑)。
バタ子:やることいっぱいあるよねぇ、レコードね。ジャケットも決めなきゃいけないし……。
くんに君:ジャケットの話ね、あとで報告したいことあって!
アロム:いま業務連絡やめてもらっていい? これ録音してるから!
あでぃぽい:あとね、先立つものが……ないんですよね。
アロム:どっかレコード会社に入れば?
くんに君:いや、無理でしょ。レコード会社が選ぶ側ですから。内容も合わないでしょうし。某FM局のラジオでかかる予定なんですけどラジオ局に歌詞がダメって言われたんですよ。で、クリーンバージョンを急遽作ってるんですけど。
アロム:下ネタがダメなのね。
くんに君:マ○コとか言っちゃだめなんだと思いますよ、ラジオとかって。
アロム:まぁヒドい! ヒドいのはどっちだって(笑)。
くんに君:ラジオって車のなかでも聞いたりするし、子どもの耳にも入っちゃうじゃないですか。例えば2歳には聴かせられても8歳とかには聴かせられないですから(笑)。西パンの曲が流れたらクレームすごいでしょ!
アロム:そうねぇ、学校でいじめられちゃうかもしれないし(笑)。音楽以外でも例えばアニメ『クレヨンしんちゃん』がたくさんの親からクレームがきて問題になったこともあるけど、なんだかんだでロングランだし。やり続ければどうにか……なるんじゃないですか? じゃあレコードの発売は、未定っちゃ未定ね。
くんに君:一応7月に出したいんですけどねぇ。でも、5月26日に『STANDARD』のリリパをやるので、いろんな方に来てほしいです。先着10名に超お下劣ヒップホップが入ってるコンピCDを差し上げる予定なので、早めに来てください!
アロム:私も参加するので!
イベント情報 M/E/G/A-西新宿パンティーズ『STANDARD』リリースSP-
5月26日(日)
OPEN:17:00-24:00
ENTRANCE FEE:1,000yen
渋谷オルガンバー
Release Live:西新宿パンティーズ feat. アロム奈美江
Special Guest:BentheAce、DJ TASAKA、Mars89
西新宿パンティーズ、アロム奈美江も出演! オネエスタイルダンジョン 2nd Season!
7月7日(日)
OPEN:18:00-23:30
ENTRANCE FEE:3,000yen/1drink付 Twiter割2,500yen/1drink付
大阪 EXPLOSION