この時代になぜ売れた!?  サザンの“データブック”が売れている理由

連載・コラム

[2019/9/6 12:00]

6月25日に発売された『サザンオールスターズ公式データブック1978-2019』が異例の売上を記録している。一般にデータブックというと、人口や経済などの数字をまとめた要覧であったり、プロ野球選手やサッカー選手などの年鑑をイメージする人が多いと思う。音楽アーティストのデータをまとめた本は、近年ではそれほど多く出回っていない。

わざわざ検索しなくてもいい心地よさ

国民的人気を誇るサザンオールスターズの本だから売れていると言われればそれまでだが、なぜ今データブックなのか? そこには、検索しなくていい心地よさがあるのではないだろうか。サザンは40年のキャリアを誇り、日本のポップ史に刻み込まれた名曲、時代を超えた名アルバム、伝説として語り継がれる名コンサートがそれこそ無数にある。ほとんどの日本人の中にサザンのメロディがひとつはあり、大切な思い出とともにふとした瞬間に蘇ると言っても過言ではないだろう。

あの曲をもう一度聴きたいと思い、曲名やアルバム名を検索する。しかし、手にしたい答えにスムーズに辿り着けないという経験をしたことは少なからずあるはずだ。あの曲はどのアルバムに収録されているのか、どの映像作品に入っているのか、発売された年は? 参加しているミュージシャンは? 検索キーワードをうまく設定できていないと同じようなコピペ文章の周辺情報ばかり出てきてしまい、肝心なキーワードが見つからないということがある。苦労して見つけたページも、一度消してしまうとなかなか戻れなかったりもする。検索は面倒なことも多いのだ。その点、データブックは検索しなくていい。大好きなサザンの情報だけがぎっしりと詰まっている。パラパラとページをめくれば知りたい情報にすぐに辿りつける。そんな点も、多くの人がこのデータブックを購入した理由なのではないかと思う。

サザンの40年の歴史を手元に置いておける安心感

なお、『サザンオールスターズ公式データブック1978-2019』の巻末には楽曲インデックスが付いており、曲名から収録アルバム/シングル/映像作品を探すこともできる。こちらはサザンだけでなく、桑田佳祐、原由子、松田 弘、関口和之、野沢秀行のソロ作品、さらにカバーした曲まで網羅している。アルバム、シングル、映像の全作品が載っているだけではなく、ほかでは読めない歴代レコーディングエンジニアのインタビュー、読み応えたっぷりのヒストリー、デビュー当時からのツアー&コンサートのリストなど、ここにしかない情報が満載だ。また、長いキャリアを俯瞰することで見えてくることもいろいろとある。例えば、原由子の産休により、桑田佳祐はKUWATA BAND〜ソロでの活動に重心が移り、デビュー10周年で再びサザンが集結したときにできたのが『みんなのうた』だったなど、当時は作品ごとに驚いたり刺激を受けたりしたものが、実は大きなうねりのなかで必然的に生まれていたことに、その歴史を眺めることで気づいたりもするのだ。

シングルの形態に、音楽ソフトが売れまくっていた時代の背景を感じることもできる。5枚連続のシングルリリースとなった“ファイブロックショー”、両A面シングル、トリプルA面シングルなど、音楽サブスクリプション全盛の現在には、かなり斬新に映るのではないだろうか。

とにもかくにも、40年にもおよぶサザンの歴史を手元に置いておけるというのはとても嬉しいことで、言葉にできないぐらいの安心感がある。心のなかにサザンのメロディが流れているすべての人に、このデータブックを手にしてみてほしい。(文:『サザンオールスターズ公式データブック1978-2019』編集担当)

耳マン編集部