【SKY-HIインタビュー】「楽しい」が生まれる瞬間

特集・インタビュー

[2021/11/3 12:00]

ラッパー/ソングライターのSKY-HI(日高光啓)によるニューアルバム『八面六臂』が10月27日にリリースされた。SKY-HIといえばスキルフルなラップや高い音楽性をもつアーティストとして知られてきたが、人気急上昇中のボーイズグループBE:FIRSTを輩出したオーディション『THE FIRST』を開催し、同オーディションが情報番組『スッキリ』で放送されたことで新たなファン層を獲得。幅広い層から熱烈な支持を集める存在となっている。今回はそんな彼にニューアルバムのこと、さらには『THE FIRST』の秘話についてたっぷりと語ってもらった。

ただただ「楽しいな!」っていう気持ちになれた作品

――今作『八面六臂』は『THE FIRST』と並行して制作していたアルバムなのでしょうか?

7月に『THE FIRST』の最終回の収録が終わったんですけど、それから制作に入った感じでした。制作に入った頃は『THE FIRST』の最終審査が終わったタイミングだったので、当然、心中は穏やかじゃないですよね(笑)。8月13日にBE:FIRSTのメンバーを放送で発表できたんですけど、発表までのあいだはバレるんじゃないかとか、何かが漏れるんじゃないかってめちゃくちゃ怖かったので。無事に8月13日を迎えて「よっしゃ!」とは思ったんですけど、そのあとはすぐBE:FIRSTのプレデビュー。プレデビューしたら次はメジャーデビュー……もうめちゃくちゃ忙しかったです。

――そんななか制作していたんですね……。

既発の曲が6曲くらいはあったので、オムニバスのつもりで曲を並べていって。それで9月にマスタリングをして、本当にギリギリのスケジュールで完成しました。

――『THE FIRST』の注目度の高さもあってこれまで以上にたくさんの人に届く作品かと思うのですが、改めてどんな作品になったと感じていますか?

チェックのときに全体を通して聴いてみたら、ものすごく考えてコンセプチュアルにしようと計算して作ったアルバムよりもはるかにコンセプチュアルな響きになっていると感じて。序盤の曲で歌っている閉塞感とか鬱屈とした気持ち、抑圧とかそういったものから徐々に解放されていって……最後はただただ「楽しいな!」「音楽って最高だな!」っていう気持ちになれる作品っていうか。

――これまでにない驚きと感動があった?

そうですね。この作品って、もはや日記なのかなって。自分の感情や見てきたものが何の計算もなしで音楽としてアウトプットされていて、それが並んでいる。『THE FIRST』で参加者たちと出会えたことっていうのは本当に綺麗で美しいことで、一生のなかでも一番の1年間だったんですよね。そんな綺麗な1年が「ああ、残っていたんだこんな形で」と思って。曲が進むにつれていろんな気持ちがどんどん回収されていって、最後の『One More Day』(『THE FIRST』参加者・レイコとのコラボ曲)ですべてを回収していくさまは、ものすごくカタルシスを感じましたし、本当に救われたような気がして。めちゃくちゃ泣いちゃいましたね。

――『THE FIRST』での感動が蘇ってきます……。今作にはs**t kingzさん、ちゃんみなさんといった『THE FIRST』でもおなじみのアーティストたちとのコラボ曲も収録されています。彼らの存在は『THE FIRST』にどんな影響を与えましたか?

シッキン(s**t kingz)に関しては一級のコレオグラファーですし、『THE FIRST』ではダンスのトレーナーとして最高の仕事をしてくれました。でも、そういう実務としての影響よりも、この時代を一緒に生きてくれてたことが俺に与えてくれている影響のほうが、間接的『THE FIRST』に大きく影響しているような気がします。自分に与えてくれた影響は本当に大きかったですね。

――ちゃんみなさんも同じような感じですか?

ゲスト審査員で参加してくれたちゃんみなも本当にそうですね。コロナで人間関係が否応無しに整理されてしまったじゃないですか。だから、ちゃんみなであったり、拓也(THE ORAL CIGARETTESのボーカル・山中拓也のこと。収録曲『Dive To World』で共演)であったり、こういうなかでも連絡を取ってきた人との繋がりの深さっていうのはめちゃくちゃ濃くなったし深くなったと思います。

――そういう人たちがいなかったらSKY-HIさんも自分を保つのが難しかったかもしれない?

コロナで仕事もたくさん飛びましたし、BMSG(自身が代表取締役CEOを務めるマネジメント兼レーベル。2020年9月設立)の設立発表のときもしんどかったし、『THE FIRST』を始めるときもそう。だいたいみんな好き勝手に言ってくるんですよね。理解されないとかそういうのには慣れていますけど、「慣れてる」と「傷つかない」は当然同じではないじゃないですか。だから、アルバムにも入ってる『Mr. Psycho』とか『Oh s**t!!』で歌っているような、攻撃的な気持ちとか鬱屈した気持ちはずっと感じ続けてて。そういうなかで確かに彼らの存在は大きかったです。

オーディション中はエゴサ禁止

――そういった鬱屈した気持ちからどんどん楽しそうになっていくSKY-HIさんのリアルな姿が、『THE FIRST』では本当に印象的でした。

『THE FIRST』はただのドキュメンタリーですよね。ただカメラ回してそれを編集して。台本もないし構成表もない。ほかの番組ってやっぱりある程度、こういう構成にしようというところがないと無理じゃないですか。それは別に良いとか悪いじゃないというか、そういう番組を撮ってるんだからそういう作りになるのは当たり前だし、悪いことだと思わないんですけど。でも自分がやりたいことはそれじゃなかった。そのままを撮ったら絶対それが一番胸を打つものになると思っていたんですけど、もう想像以上に大変で。

――リアルが故に大変だったという。

中盤に合宿審査があったんですけど、合宿審査が放送開始までにほぼほぼ終わってたことはよかったですね。みんなの意識に邪念がなかったっていうか。やっぱりオーディションと放送が同時だと、どう映ってるかを意識しちゃいますよね。オーディションの後半は放送と並行になりましたけど、自分たちが出てる放送を実際に観たらやっぱり「わー!」ってなっていましたし。

――放送が始まってからはどんなことに気をつけようとしてきましたか?

放送が始まってからはみんなのコントロールも大変でしたね。「エゴサ禁止」って伝えてきましたけど、そりゃあやっぱりみんな見ちゃいますよね。合宿が終われば目が届かない時間も増えますし、そのときはまだ所属アーティストでもないので、そのあたりのケアは難しかったです。合宿審査中に放送が始まってなくてよかったって本当に思います。

――やはりエゴサはよくない?

みんな「そういうのを見ても俺、傷つかない」みたいなことを言うんですよ。でも、傷ついていることに気づかないだけで、ジャブのように蓄積されていくんです。ほんのりと誰かが書いた一文が時限爆弾みたいに残ってて、何かのときにふとその言葉がよぎって影響したりしてしまう。でもそんなことしてる場合じゃないじゃないですか、本当にデビューするとしたら。あと数ヵ月でデビューっていう状態で、そんなところに心のリソースを割いている余裕は絶対ないはずなので。そういう話をよくしてましたね。

――メンバーに個別でそういった話もしていたのでしょうか?

そうですね。みんながワイワイやってるときに、隅っこでこっそりiPhone見てる参加者がいたりとか。で、声をかけると「エゴサ……してないです」とか言って。でもしばらくしたら相談に来て、その内容が絶対にエゴサして何か見たんだろうなって内容で(笑)。

――本当にベタ付きで参加者と一緒にいたんですね。

そうじゃないとそもそもの信頼関係が築けないような気がしたし、そうあるべきだと思ってましたから。

『THE FIRST』で過去の自分を救済できた

――参加者にとってのSKY-HIさんのような、頼れる存在はご自身にもいるんですか?

色んな人に助けてもらっていますが、そこまで頻繁に、密に相談をできる人、というと難しいです。だから、彼らが目に見えて成長したときや、目に見えて何かを乗り越えたとき、それを喜んでいるみたいな瞬間に一緒に立ち会えたことは、過去の自分を救済できたこととイコールで。本当に全部が自分ごとだったし、自分もすごい救われて。今までの自分の作品ではどこかしらにやっぱり恨み節まではいかないけど、そういうトラウマの傷のにおいがすごくしてたと思うんです。自分が自分のファンとして自分の作品を聴いたときに、それは好きな部分でもありましたけど、『八面六臂』の言葉やフローを聴いていると、最後のほうではそれがなくなった状態の曲が増えてきて。本当に今、純粋に楽しいんだなと思うと、すげえ救われた気持ちになっています。

――めちゃくちゃ響きます……。オーディションの開催も初めてだったと思いますが、参加者とコミュニケーションをとるにあたって誰かを参考にしたりというのもないですか?

それもなくて。そこに関しては自分が現役アーティストっていう部分も大きいですよね。アーティストがされて嫌なことっていうのは現役だからわかるっていうのは当然あると思うし。理解されなかったり嫌な思いをしたことはもうね、蛇口ひねったら太平洋がうまるくらいあるので(笑)。

――自分がされて嫌だったことをしないようにしてきた。

そうですね。だからあんまり難しいことじゃなかったですね。

「SKY-HIがいるから大丈夫」っていうみんなの逃げ場であり続けたい

――『THE FIRST』には14歳の参加者もいましたが、その年齢でプロとして仕事をしようとすることに対してはどう思いますか?

インターネットがある時代なので、情報は得ようと思えばいくらでも得られるし、ゴールが誰でも設定できる時代なので、14歳でも仕事をするのに早くはないと思います。戦国時代だったら15歳でも元服ですもんね。ただ、誰しもにもそれが言えるかっていうとまた別の話っていうか。本人が仕事するということや音楽に腹をくくれるかっていう話なのかなと思うんです。14歳でその準備ができる人っていうのはやっぱり相当特殊な人ですよね。リュウヘイはそうであると判断したので今回デビューしてくれるわけですけど。

――年齢はそれほど関係ないという。

メンタルケア的なところも若いから注意しなきゃいけないということじゃなくて、全年齢が注意すべきことだし、年齢がネックになることは逆に少ないような気もしますね。どちらかっていうと、もっと年齢が上の人たちの方がメンタル面のケアは必要なのかもしれないですね。

――最近は特にそういった部分で苦しんでいるアーティストが多い気がします。

そうですね。だからBE:FIRSTにもそういう話をしていますけど、まだまだ全然足りてないと思います。今の彼らの状況って、当たり前ですけど「異常」なので。彼らの日常が急に非日常に取って代わられちゃっている。それって日常が奪われている状態でもあるので、今の状況がどういう状況なのかっていうところはちゃんと言語化して、できるだけケアするべきだと思ってます。

――アーティストとのコミュニケーションの大切さというところでしょうか。

合宿のときと一緒で、コミュニケーションのなかで自分を信じ続けてもらうことしかないですからね。「SKY-HIがいるから大丈夫」っていうみんなの逃げ場であり続けたいっていうか。

――SKY-HIさんの負担も相当大きいですね……。

アーティストとしても社長としてもプロデューサーとしても信頼してもらう必要があるので、全然、気が抜けませんね(笑)。不安と悩みとプレッシャーで死にそうな時も少なくないです。で、俺が倒れそうだっていう(笑)。

――そんなことを……。本当に楽しそうなSKY-HIさんの姿に改めて心を打たれました。楽しめる大人になるために必要なこととは何なのか、最後に教えてください!

うーん、楽しいっていうことはたぶん、楽しい対象に対して心から真摯に向き合っていないと得られない感情だと思います。大事にしたいものを大事にするというか。その結果、与えてもらえるギフトのような気がしています。

――まさに『THE FIRST』でSKY-HIさんが見せていた姿ですね……!

そうかもしれないですね。参加者にはめちゃくちゃ感謝してますし、もう、めちゃくちゃ感謝してるとしか言いようがないですから。

『八面六臂』発売中

01. To The First (Prod. Ryosuke “Dr.R” Sakai)
02. Simplify Yourlife (Prod. SKY-HI)
03. Mr. Psycho (Prod. SUNNY BOY)
04. Oh s**t!! feat. SKY-HI / s**t kingz (Prod. SKY-HI)
05. Tomorrow is another day feat. Michael Kaneko / THE SUPER FLYERS & SKY-HI (Prod. Shingo Suzuki)
06. me time -remix- feat. Aile The Shota (Prod. hokuto)
07. Dive To World feat. Takuya Yamanaka (THE ORAL CIGARETTES) (Prod. KM)
08. Holy Moly Holy Night / ちゃんみな & SKY-HI (Prod. Ryosuke “Dr.R” Sakai)
09. 14th Syndrome feat. RUI, TAIKI, edhiii boi (Prod. ☆Taku Takahashi)
10. Good 4 You feat. DABOYWAY (Prod. SOURCEKEY)
11. 仕合わせ feat. Kan Sano (Prod. SOURCEKEY)
12. One More Day feat. REIKO (Prod. Matt Cab)

※MV&ライブ映像を収録したDVD、Blu-ray付きもラインナップ!

耳マン編集部