元SDN48からライターへ異色の転身……大木亜希子が考える『アイドル、やめました。』のその先~元アイドルインタビュー第13回~

連載・コラム

[2019/7/3 12:00]

毎日のように流れてくる、知らないアイドルの卒業発表ツイート。アイドルを辞めた女の子たちは今どこで何をしているんだろう?

Twitterを表示したスマホを握りしめて、「ヤバい!」と一瞬固まった。それは、元48グループのメンバーたちにインタビューした『アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア』という書籍が発売されるという告知だった。本連載と完全にかぶっている。偶然とはいえ困った……。

しかも著者の大木亜希子とは、元SDN48という異色の経歴を持つライターらしく、この企画にふさわしい書き手にもほどがある!

とりあえず、まずは本を読んでみるほかない。正直なところ“敵情視察”に近い形での出会いではあったが、思わず一気に読んでしまった。そこに書かれていたのは、元アイドルというよりも、働く人間すべてに通じる悩みだったから。

芸能界以外でのがんばり方がわからなかった

――大木さんは2010年、秋元康さんがプロデュースするSDN48に加入しました。大堀恵さんや芹那さんが所属していた、AKB48のお姉さんグループですね。アイドルになる前からドラマ出演などをされていましたが、もともとは女優志望だったんですか?

15歳で父親が亡くなって、私なりに少しでも家計を助けたいという思いから、中学3年生のときに大手事務所に入りました。そこからしばらく女優活動を続けていたのですが、思うようにチャンスをつかむことができない日々が続いて……。だから19歳の終わりにSDN48のオーディションに合格してメンバーになったときも、女優としてチャンスをつかむためにアイドルになったというよりは、芸能界以外の世界を知らないからこそほかに選択肢がなくて活動を続けるままの状態でした。若い頃から芸能界にいた女性って、そこ以外でのがんばり方がわからなくなっちゃいがちだと思います。まさに私もそうでした。

――アイドルという世界の知識はあったんでしょうか?

ゼロの状態でしたね。アイドルって、歌割りの多さとかフォーメーションの立ち位置とかで、くっきり順位をつけられる商売なのに、上に行くための正攻法の地図がどこにあるのかわからない。正直自分のほうがかわいいと感じるメンバーに先を越されることもあって、「なんで私は選ばれないんだろう」と葛藤していました。メンバー数人でグラビア撮影したとき、そのうちひとりが「私の人生、これからどうなるんだろう?」ってつぶやいたのが、本当にそのとおりだなって……。

――でも元アイドルからライターというのは、珍しい転身ですよね。2012年にSDNが活動を終了して、個人でアイドル業を数年続けたあと、ウェブメディアの会社に入社。会社員生活を送った時期もあったようですね。

地下アイドル時代はお客さん3人とかで一気に環境が変わり、時間に余裕ができてしまったので、清掃員の単発バイトもしました。ファンの方と街で遭遇しかけたこともありましたよ。いつも私のことを熱心に応援してくださる方が、喫茶店でかわいらしいデートをしているのを私が目撃するみたいな(笑)。でも「さすがにこのまま中途半端な状態を続けていてはいけない。何かしなければ」と思って、会社員になったんですけど、当時はビジネス用語が全然わからなかったんですよね。CTRとかコンバージョンとか「何?」って(笑)。

――この連載で以前インタビューした元アイドリング!!!の遠藤舞さんも「社会人として知らないことが多すぎて困った。いまだに新幹線のチケットを買ったことがない」と話していました。

私も会社員になるまで新幹線と飛行機の乗り方はわかりませんでした……! わからないことが多すぎてコンプレックスの塊でしたが、幸い上司に理解があったので、恵まれた環境だったとは思います。

元48ではなく、“元カフェっ娘”の話も収録した理由

――『アイドル、やめました。』のなかで、この本を書いた理由を「人生の答え合わせがしたかった」と書かれています。淡々とした文体ではありますが、取材のなかで、自分も元アイドルとして感情を揺れ動かされた瞬間はあったのでしょうか?

SDNの先輩で今は振付師の三ツ井裕美さんは、アイドル時代から同じグループに所属していたので親交がありました。当時から、後輩の私にもすごく優しく接してくれたことを覚えています。彼女は現役メンバーでありながら、メンバーたちのダンスの先生でもあるという特殊な立場の方で……。私、ぶっちゃけダンスは落ちこぼれで、SDN時代はワカメみたいなダンスを踊っていたんですよ(笑)。でも裕美さんがいつも親切にダンスを教えてくれたことを覚えています。今回の取材でも同じ元SDNということで、インタビューではかなり腹を割って話してくれました。裕美さんは歌番組の収録で、自分は出演メンバーに入れなかったので、あくまで振付師として同行したことがあったんです。そのとき、スタッフさんに「先生ここのダンスを~」と振りについて相談されて、むなしくなりながらも振付師として対応したそうで、相当のご苦労があったんだと感じました。

――そういった三ツ井さんの悩みに、大木さんも当時は気づいていなかった?

当時はみんな自分のことで頭がいっぱいだったんですよね。そんななかで、裕美さんはグループ全体のことを見ていた。メンバー個人ではなく、グループ全体をよくするための功労者だったと思います。アイドルとしてセンターになれなくても、三ツ井裕美というメンバーは確かに存在していた。そんなかけがえのなさを、この本では伝えられたらいいなと思っています。

――個人的には、最後に収録されている小栗絵里加さんも印象的でした。この方だけ48グループの卒業生ではなく、AKB48劇場に併設されているカフェのスタッフ“カフェっ娘”止まりの方なんですよね。

小栗さんはこの本の企画を立ち上げたときから取材させていただこうと決めていたんですよ。元48へのインタビュー集というコンセプトがズレる恐れがあるとは理解していたんですが、小栗さんは芸能界で夢を叶えることはできなかったけれど、引退後に女性バーテンダーとして日本一に輝き、自分のお店ももっている。元アイドル云々というより「夢を諦めたその先にも人生がある」というのが、この本のテーマなので、小栗さんは外せませんでした。

アイドル時代の葛藤が“成仏”した

インタビューしている相手は元アイドルではありますが、「ひとつの組織で活躍するけど、その組織は永久就職できるような環境ではないので、いつか巣立っていかなければならない仕組みになっている」というのは、多くの社会人が共感する話ではないでしょうか。キャリアに悩んでいる人はたくさんいます。この本は、「人生において大きな選択をした人たち」の話が詰まったビジネス書としても読んでもらいたいですね。取材を通して本当に感じたのは、彼女たちには“夢をつかみ取る強さ”があるということ。生きていくうえで必要なものを兼ね備えた人たちだと感じました。

――私も元アイドルの方々にインタビューする『アイドル、辞めました』という連載を担当しているんですが、Twitter告発などを見るなかで「元アイドルの子たちにとって、アイドル時代はどんな思い出になっているんだろうか?」と考えたのが連載を始めるきっかけでした。お互い似た企画ではありますが、向いている視点が違うんでしょうね。

そう、過去と未来ですよね。……何か仕事の悩みってあります(笑)?

――ええっ! ……自分は一応好きなことを仕事にできている立場ではありますが、「私の人生、これからどうなるんだろう?」という不安はやはりあります。同年代の友人たちも多かれ少なかれ仕事に関しては悩んでいます。

そうですよね。私は今後、元アイドルというより“働き方”について伝えていけるインタビュアーになりたいと思っているんです。この本を書いて実感したんですが、現代では、女性の働き方が本当に多様になっています。その一方で、「30歳までに結婚しなきゃ」など十字架のようになっている“~ねばならない”の風潮もある。やりたいことを実現するために道を選んだ女性たちにインタビューして、「生きていけばどうとでもなるし、結婚も誰と住んでいても自由だし、いくら稼ぎたいかだって自分で決められるんだ」ということを伝えていきたいです。

――大木さんは後書きで、一連の取材を終えた感想として「成仏」という言葉を使っていますね。

アイドルブームのなかで、出る舞台自体はあったものの、選抜にもほとんど選ばれず、「自分はこれからどうなっていくんだろう?」と怒りのような感情を覚えていました。でも他人から「それは自分で選んだ道だろう」と言われたら、うっ……と何も言えなくなってしまって、誰にも言えないモヤモヤや矛盾がありました。そういう不条理に対する思いを、8人にインタビューするなかで答え合わせしていった気持ちになれました。

――これは野暮な質問かもしれませんが、見つけた答えというのが、後書きにある「すべてなにものにも代えがたい人生の大切な1ページなのである」という思いでしょうか?

そうですね、成仏です(笑)。でも8人にインタビューしたら、8通りの答えがありました。「いかようにも生きていける」というのがひとつの結論ですね。

――最後に、もしも「アイドルなんだけど、そろそろ辞めようと思っている」という女の子に相談を受けたとしたら、どう答えますか?

私自身がライターとしての夢を叶えている最中なので、その相談に答えるのは難しいですが……。まずは「アイドルを卒業したその先に何がしたいですか?」って聞くと思います。現実的に考えると、アイドルとしてがんばっているときってダンスレッスンやイベントなど日々の業務で忙殺されているケースも多いですし、“その先の未来”を見つけるのは、なかなか難しいと思います。それでも「自分の本当に好きなこと」を必死で見つけてほしいですね。インタビューした元アイドルの方のなかには、在籍中に新たな道を見つけた方も多いです。“好き”を仕事にしてほしいですね。自分の好きなことを一度突き詰めて考えてみてほしいです。

大木亜希子

2005年に女優デビュー。2010年にSDN48メンバーとして活動開始するも、同グループが2012年3月にメンバー全員卒業という形で活動終了。その後、ライター業をスタートさせ、WEBメディアの運営などを行う会社に入社。現在はフリーライターとして活動しており、今年5月に初の著書『アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア』を出版。


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[取材・文 / アイドルライター原田イチボ@HEW]