女子プロレスラー伊藤麻希、クビになった古巣・LinQへの思い明かす~元アイドルインタビュー第12回~

連載・コラム

[2019/4/29 07:00]

毎日のように流れてくる、知らないアイドルの卒業発表ツイート。アイドルを辞めた女の子たちは今どこで何をしているんだろう?

女子プロレスラーの“伊藤ちゃん”こと伊藤麻希は、福岡県を拠点としたアイドルグループ・LinQの元メンバー。「握手会をやっても1人か2人しか来なかった」と本人もネタにするほどアイドル時代は不人気だったが、プロレスラーとしては、泥臭いファイトスタイルが支持されて、彼女を「カリスマ」と呼ぶ声も少なくない。

5月3日に行われる東京女子プロレス・後楽園ホール大会では、女子プロレス界のリビングレジェンドであるアジャ・コングとシングルマッチで対決することが決定。伊藤ちゃんはいかにしてカリスマになったのか? アイドル時代を振り返ってもらった。

「私は夢の世界の住人でいたいんですよ」

――好きな男の子が「柏木由紀と結婚したい」と話していたことをきっかけに、2011年にLinQに加入するも、アイドル活動が上手くいかず、一時はうつ病と診断されるほど苦しんだそうですね。しかし、エンタメ色の強さで知られるDDTプロレスリングの試合にゲスト参戦したことをきっかけにプロレスに興味を持ち、2016年に正式デビュー。いまやすっかり人気レスラーです。プロレスの道に進んでいなければ、今ごろ何をやっていたと思いますか?

実家がお堅めなので、就職は絶対していると思うんですよ。だから、CAになっていたと思います。……ちょっと、なんで笑ってるんですか!?

――いや、CAになるのって大変そうだなと思って……。

ふふ、日本から出たいんですよね。飛行機が好きなんで(笑)。最近プロレスの試合でニューヨークに行ったんですけど、私、めちゃくちゃ人気でした。コスチュームもアニメキャラみたいな雰囲気だし、サブカル的な感じでハマったのかな? ここだけの話、1人で物販10万円売り上げたんですよ。ポートレートも即完で。だから海外進出の夢が芽生えました。あれだけ人気だとね、そりゃ海外も狙いたくなりますよね。

――ニューヨーク遠征中もSNSで「観光しています!」みたいなことは言わなかったですよね。プライベートを見せないのはポリシーですか?

そうです! 遠征中は少し浮かれちゃって、朝食の写真を1回だけ載せちゃったんですけどね……。基本的に食べ物の写真は絶対アップしないようにしています。だって、食べる行為って“人間”じゃないですか。食べ物を載せたとたんに人間味があふれちゃいません? 私は夢の世界の住人でいたいんですよ。

伊藤がうっかり載せてしまった朝食。もっと他にいい写真があったのでは……?

――「トレーニングした」という報告もしませんよね。

するわけないじゃないですかー! 当たり前だから言いませんよー! 練習したことを報告するのって、ダサくて仕方ないと思うんですよ。「練習していないけど、できています」って見え方のほうが私は好きなんで。

――SNSでこういうことを言えばウケるっていうのは頭ではわかっても、己の美学を優先してしまうんですね。

人がどう思っても自分の道しか行けませんね。自分の道だけしか行かないです、私は。

――疲れませんか?

“伊藤麻希”と私はもう別人なんで。伊藤麻希がどうこう言われたり、何かを背負わされようと、私自身は何とも思いません。アイドル時代からその感覚ではありましたけど、プロレスを始めてからさらに深まりました。

「LinQクビになった」ブログは、 「バズったというより、バズらせた」

――ストレス解消法とかありますか?

最近は人と飲むことが多くなりました! 舞台に出演するようになってから友達が増えて、人と話す楽しさを知りました。年々人間らしくなっています。今めちゃくちゃ明るくなって、いろんな人に「丸くなった」と言われるんですよ。

――昔、それこそLinQに加入する前の伊藤さんって、どんな感じだったんですか?

頭はよかったんですけど、おかしな人ではありました。朝起きて、靴下が1足見つからなかったりしたら、なんかすごく……怒っちゃうというか……暴れちゃうというか……(苦笑)。当時に比べたら大成長ですよ! 今でも朝起きてバタバタしているときに思い通りにならないことがあったら、大声を出しちゃったりしますけどね。でも今はひとり暮らしだから! 私、LinQで挨拶とか人間の基本を学んだんですよ。コンビニに行けるようになったのもLinQでデビューしてからですし。

――なんでコンビニに行けなかったんですか?

お金を払うって行為が怖かったんですよ。でもLinQに入ったらレッスンの合間の昼休憩とかで、どうしてもコンビニに行かないといけなくて、がんばって克服していきました。私にとってLinQは、人間として普通のことをできるようになっていくための青空学級のようなものだったのかもしれない。

――グループの解体・再開発プロジェクトにともない、2017年6月にLinQとしての活動が終了したときに更新したブログがネット上で「かっこいい」と話題になりましたね。

バズったというより、バズらせました。この状況を利用しなきゃって。

――LinQに対しては、今どんな思いを抱いていますか?

「まだLinQにいたら、扱いよかったかな?」と、たまに考えたりはします。でもこうなる運命だったから、悔しくはありませんね。(小声で)あとLinQより私のほうが話題になっていると思う……ちょっとだけ……へへ……。勝った負けたではないですけれど、ずっと意識する存在ではあると思います。私はこれからもLinQには負けないから、LinQはかかってこいよって感じ! とりあえず福岡に帰ったとき、LinQスタッフに明るく挨拶されるようにはなりました。「おー、伊藤ちゃん! がんばってるねー!」みたいな。前は、「ああ、伊藤。おはよう」くらいだったのに。うれしい(笑)!

人気者ゆえの苦しみを初めて味わった『DDT総選挙』

(c) DDTプロレスリング

――昨年の人気投票イベント『DDTドラマティック総選挙2018』(※)では、3度の中間発表で常にトップを獲得。人気の高さを示しましたが、投票期間中は、追われる立場としてアンチコメントにも悩まされました。

(※編注:DDTプロレスリングの所属選手を対象とした人気投票。系列団体である東京女子プロレスからは唯一伊藤が出馬した)

人気者ゆえの苦しみを初めて味わいました。いや、AKBって大変なんだなと思いました……! 当時は批判に左右されてしまって、ずっとまわりの顔色をうかがってリングに立っていたと思います。私がずっと「1位がいい」って言い続けることができたら、絶対1位になれたと思うんですよ。でも「今の私で1位を背負えるのかな?」と考え出して、途中で日和っちゃった。今でも後悔しています。

――それでも最終結果は第3位と大健闘でした。こまめにグッズを出したり、CHEERZ(チアーズ)でファンコミュニティを立ち上げたり、ファンを喜ばせようという意識が伝わるからこそ、ファンもついてくるんでしょうね。

アイドル時代は、「ファンのために」とか全然なかったんですけどね。当時は橋本環奈ちゃんになりたかったんですよ。グループとは違う枠でいきなりバン!と売れる、みたいな。だから、ステージに立っていても、「私は今ここで誰からも見られていなくても、バラエティとかに出て急に売れたらそれでいい」と思っていました。根本的にアイドルをやる気がなくて、踏み台としてしか見ていなかった。そういう考えって、絶対客席に伝わるじゃないですか。本当に性格が悪かった。人気なかったのは、因果応報だと思いますよ。

――プロレスラーになって、これだけ人気になって、どんな気持ちですか?

自分は人気じゃなくていいと思いつつも、やっぱり人気になりたい気持ちは根本にはあったんですよ。だから、ファンがいるってことがすごく気持ちいい。ファンについてきてもらうために、自分は気高くおらんとなと思います。

――後楽園ホール大会では、アジャ・コング選手とのシングルマッチが決定しています。レジェンドとの対戦で、無茶ぶりとも言えるカードではありますが……。

でも私も無茶ぶり好きなんですよ~! 「なんだよ、これ」って口では言ってても、心のなかでは、「ありがとうございます!」って(笑)。私の頭の固さがアジャ・コングにどれだけ通用するのか試したいですね。あとゴーテンサンからコスチュームを変えますし、うまくいけば入場曲も変わります。今までのものを少し捨てて、ゴーテンサンから新しいものをやっていく計画を立てています。

――伊藤さんは、アイドルから転身して成功した例ですよね。

でも今振り返ってみると、「アイドルやってよかったな」と思いますよ。アイドル時代に培った表現力は、リングの上でも生かされていますし。アイドル時代にめちゃくちゃ悔しい思いをしていなかったら、今ここまで貪欲じゃなかったと思います。良くも悪くも、アイドルやって人生変わりました!

伊藤麻希

1995年7月22日生まれ、福岡県出身。2011年にLinQ加入。2017年6月にLinQとしての活動を終了させた後は、東京女子プロレスでプロレスラーとして活動中。熱のこもったマイクパフォーマンスで、「新時代のカリスマ」と呼ばれる。また、エンターテインメント集団・トキヲイキルのメンバーとして、舞台出演など幅広く活躍している。
5月3日に行われる東京・後楽園ホール大会にて、アジャ・コングとシングルマッチで対戦する。

東京・後楽園ホール大会詳細


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[取材・文 / アイドルライター原田イチボ@HEW]