元アイドリング!!!の遠藤舞、“アイドルと教養問題”&事務所に内緒のバイト生活で学んだことを語る~元アイドルインタビュー第11回~
毎日のように流れてくる、知らないアイドルの卒業発表ツイート。アイドルを辞めた女の子たちは今どこで何をしているんだろう?
アイドリング!!!(2015年に活動停止)の元リーダーである“まいぷる”こと遠藤舞は2019年2月、Twitterで「アイドルとか開始時年齢が低年齢化していってる事により勉強する時間がなくなり(一部言い訳でちゃんと両立してる子もいる)本当に物知らない教養がない問題なんとかしてあげたい」と問題提起した。一連のツイートはさまざまなネットニュースにも取り上げられ、賛否両論を巻き起こした。
アイドルとか開始時年齢が低年齢化していってる事により勉強する時間がなくなり(一部言い訳でちゃんと両立してる子もいる)本当に物知らない教養がない問題なんとかしてあげたい。若いうちはバカだねー可愛いねーで済むけど私らくらいの年齢になるとタダの世間知らずおばさんになるから。恐ろしい。
— 遠藤 舞 ボイストレーナー (@endo_mai2)2019年2月23日
遠藤はアイドリング!!!を卒業後、ソロ歌手として活動し、2017年末をもって芸能界を引退。現在はボイストレーナーとして活動している。そんな彼女に、自身の経験を踏まえて感じた“今、現役アイドルたちに伝えたいこと”を聞いた。
「関節技の練習をするので体操着で来てください」
――遠藤さんは高校卒業後にスカウトされて、アイドリング!!!の第1期生になりました。アイドリング!!!といえば、かなりバラエティ色の濃いグループですよね。
アイドリング!!!のメンバーになることが決まって、3回目くらいの集まりだったかな? それまでは自己紹介動画を撮影したり、「誰にも負けない特技は?」みたいなアンケートに答えたり、普通のことをしていたんですけど、急に「関節技の練習をするので体操着で来てください」って言われたんですよ。そのとき、「おやおや?」となりました(笑)。私って、どちらかというと“陽”ではなく“陰”寄りの人間ですし、運動神経だって悪いんです。小学校のときって、クラスごとに大縄跳びの回数で競争したりしたじゃないですか。私はいつも流れを止めてしまって、「あいつ……!」っていう空気にしちゃうタイプだったんで、義務教育が終わって大縄とおさらばしたときは本当に嬉しかったんですよ。なのに、大人になってから大縄もドッジボールもしこたまやるとは(笑)。
――もともと芸能界に一切興味がなかったという遠藤さんが、そんな特殊なグループでリーダーまで勤め上げたのに驚きます。
よく続いたと自分でも思いますよ(笑)。でも逆にもともとアイドル志望だったら、「このグループは違う」と思ってすぐ辞めていたかもしれない。あと、純粋に楽しかったんですよね。「ウケたら褒められる。ウケなかったら叱られる」っていうシンプルなルールのなかで、いろいろやり方を考えるのはおもしろかったです。アイドル活動のなかで見つけた“お笑いのセオリー”のようなものは、普段のコミュニケーションにも役立っているんじゃないかな。
リリースイベントやライブの裏で、昼夜バイト生活
――芸能活動を一生続けるつもりはなかったそうですが、それでも約11年間続いたモチベーションは何だったのでしょうか?
ひとりだったら、すぐ辞めていたと思います。まわりの方にすごくお世話になったので、中途半端に投げ出すような形で終わるのは失礼だと思っていました。ただ、こういうと逆にかっこ悪いと思うんですけど、芸能界で売れるビジョンが自分のなかで全然なかったんですよ。武道館に立ちたいかって聞かれたら、絶対に立ちたくない性格なので。だから、早いうちから私は未来を整理しなきゃいけないなぁとは感じていました。引退もかなり早い時期から話し合って、「じゃあ、発表はいつにしよう。その間にこれをやって……」と1年間の計画を立てました。
――引退後を見据えて、芸能活動中から準備していたことはありますか? 貯金とか……。
貯金! 貯金の話、ありますよ! 引っ越ししたら貯金が底をつきそうになっちゃって、事務所に内緒でアルバイトを始めました。それが引退の年(2017年)の2月くらい。CDのリリースイベントとかライブとかしながら、昼も夜もバイトする超絶ハードスケジュールで300万円貯めたんですよ。
――なんのバイトをしていたんですか?
いくつか掛け持ちしていたんですけど、恵比寿の高級レストランでレセプション(受付)をしていました。ほとんど店の外には出ない仕事なんですけど、たまたま同僚に「友達を連れてきたから案内してほしい」って頼まれた日、最後にその子たちを送り出したら、ちょうと店の外にいた事務所の社長と鉢合わせて、制服を着ているから言い逃れもできなくて……。その後、マネージャーと話し合いになりました(笑)。
――間が悪い!
ふふ(笑)。でも私、本当にバイトしてよかったと思っているんですよ。だって芸能活動のときのお客さんって、基本的には私のことが好きじゃないですか。でもアルバイト先のお客さんは別に私のこと好きでも嫌いでもありません。それに一流店だったから言葉遣いから身のこなしまで全部チェックされて、とても勉強になりました。あと、「人生でチャレンジはすべきだけど、本当に向いていないことはしなくていい」ということも学びました。そのきっかけが皿運びなんですよ! (お皿を持つ動作をしながら)この指とこの指でこう挟んで、あとは手首において安定させて……みたいな、お皿を一度に3枚運ぶための持ち方っていうのがあるんですけど、私はいくらやってもできなかった。それで、私の人生に皿運びは関係ないなと思いました。「まだ10代なら、なんでも挑戦したほうがいいかもしれないけど、ある程度の年齢になったら取捨選択したほうがいい」と皿運びをしている最中に気づきました(笑)。社会勉強という意味でも、もし事務所的にOKならアイドルの子たちはバイトしたほうがいいと思いますよ。事務所と話し合った上で、「関係者の知り合いのお店なら……」とか融通をきかせてくれる部分はあるかもしれませんし。
アイドル当時は“自分が知らないことを知らない”状態だった
――遠藤さんはバズったツイートのなかで、「私も引退して世に放り出されて社会的ルールとかみんな普通に知ってるのに私ら知らない事が沢山あって困った」とも発言していました。具体的にどんなことに困りましたか?
名刺の交換の仕方からビジネスメールの打ち方、請求書の出し方とか、本当にいろいろですね。世間のみなさんが当たり前にやってきたことを何もやらずにきてしまった感じなので。お恥ずかしながら私、東京出身で旅行もしないから、新幹線や飛行機のチケットを自分で買ったことがないんですよ……。アイドル時代に死ぬほど地方とか海外とか行っていたのに……。アイドルの子たちは、スタッフさんに「私にチケット買わせてください」って一度頼んでみるといいと思います。驚かれるかもしれないけど、「人生経験としてやってみたい」と伝えたら、「なるほどね。じゃあ隣で見ててあげるから買ってみな」となるでしょうし。
――現役アイドルは自ら動いて経験を積むようにしたほうがいいと。
でも、当時は“自分が知らないことを知らない”状態なのが難しいんですよ……! だって学生の間は、「世の中には請求書の書式というものが存在する」なんて想像もしないじゃないですか。私のツイートに対して、「アイドル活動をしながら自分で気をつけていればいいだけ」みたいな批判もありましたけど、「じゃああなたは10代のときに『もうちょっと数学を勉強しておくべきだ』なんて自分で努力できましたか?」って話ですよ。私は高校卒業してからアイドルになったので、まだマシだったと思います。でも、もっと若いうちからアイドルになった子だと、まわりがよっぽど気をつけてあげないと結構怖いですよね。
「学ぼうと思った人たちが学べる場を作りたい」
――現役アイドルたちが社会常識を身につけるために、どんなことが必要だと考えていますか?
「社会常識を学べる場を私自身が作ったらいいのかな」と、ちょうど昨日考えていました。タイムリー(笑)。芸能活動をしている高校生以上くらいの子を集めてコミュニティを作って、私が講師みたいな人を連れてくるんです。例えば起業に興味を持っている子がいるなら、「じゃあ起業した人を呼びました」とか。需要があるなら、やってみたいですね。
――現在ボイストレーナーとして活動するなかで、現役アイドルたちと接する上で意識していることはありますか?
ボイストレーナーって、事務所側の人間でもなく、アイドル側の人間でもなく、中立の立場なんですよ。アイドルの子たちにとって、保健室の先生みたいな存在でありたいと考えています。私より優れたボイストレーナーは星の数ほどいますけど、自分自身もアイドルとしてステージに立った経験を持っているのが私の強みです。この前、アイドリング!!!の元メンバーと歴代のスタッフさんたちでプチ同窓会みたいなことをしたんですよ。そこで、「メンバー全員、少なくとも1回は病んでいたよね」っていう話題になりました(笑)。アイドリング!!!に限らず、アイドルって不特定多数の人と会って、SNSでアンチの声をぶつけられることもあって……って、思春期のただでさえデリケートな時期に過剰な刺激を受けてしまっているんです。さっき話したコミュニティを実際作ったら、カウンセラーを招いてもいいかもしれませんね。私も何かできないかと思って、カウンセリングの勉強をしています。自分自身が今困っているからこそ、いろんな問題の怖さが身にしみているんですよ。社会常識がないままアイドルを卒業する子は今後さらに増えていくでしょう。でも「自分は世間知らずかも」と感じたときに学べる場所がない。学ぼうと思った人たちが学べる場を作りたい……って、まだアイデアの段階ですけどね!
遠藤舞
1988年7月31日生まれ、東京都出身。高校卒業後、美容系の専門学校に進むことが決まっていたが、渋谷でスカウトされる。家族のプッシュもあり、アイドリング!!!オーディションに参加して合格。2006年10月より第1期生として活動を始める。2014年2月に卒業した後はソロ歌手に転向して、リットーミュージックの編集者たちとバンド“えんどうさんと(株)リットーのひと”を結成するなどして話題を集める。2017年末をもって芸能界を引退。現在はボイストレーナーとして活動している。
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