メンバーとの“繋がり疑惑”かけられ晒された! マイナーバンドめぐるバンギャの濃い人間関係~バンギャ数珠つなぎ第2回~

連載・コラム

[2016/11/16 11:45]

「取材はOKですが、私の通っているバンドの名前は出さないようにしてもらえますか?」

この返答を聞いたとき、正直なところ「ちょっと冷たいファンだな」と感じました。前回の鈴木さん(仮名)が紹介してくれた大学3年生のバンギャ・長谷川さん(仮名)は、動員15人前後のマイナーV系バンドを応援しているとのこと。それならファンが名前を出してアピールしてあげてもいいんじゃないの?

ですが、“バンド名NG”の理由を聞いて申し訳ない気持ちに。長谷川さん、勝手なことを考えて申し訳なかった! そりゃネットで目立たないようにするのも当然だよ! 実は彼女、バンギャ向けの匿名掲示板で“晒された”経験があったんです……。

メンバーとの“繋がり疑惑”をかけられた

――どのくらいのペースでライブに通っているんですか?

「通っているバンドが月に5本くらいで、たまに違うバンドも行って、大体月7本くらい。週2ペースですね」

――本命バンドは全通なんですか!?

「そうですね、気づいたら全部行っていました(笑)。でも活動が小規模だから遠征はないんで、そういう意味では楽ですね」

――そういう小規模に活動しているV系バンドって、“地下アイドル”みたいな呼び方があるんですか?

「マイナーに“ド”を付けて、“ドマイナーバンド”です。規模が小さくなるほどドの数が増えるんです。私の好きなバンドは“ドドマイナー”くらいですかね」

――その規模なら、客席も見ていて「あの人、今日いないな」とかわかるでしょう。

「わかります、わかります。バンギャ界は匿名掲示板の文化が根付いているんですけど、ファンが少ないバンドだと少し目立つだけでも名前が挙げられたりするんですよ。変な話、最前によくいるだけで叩かれたりするんです」

――長谷川さんも名前が出たことがあるんですか?

「えっ。……うーん……あります!(笑) メンバーが女の人と写真を撮られたときに、なぜか相手が私じゃないかって疑われたんです。メンバーと個人的に交流している人のことを“繋がり”と呼ぶんですが、私がそれなんじゃないかと……。まぁ完全に勘違いだし気にしても仕方ないんで、その後も普通にライブ行きましたけど。でもこういうことでバンドを離れちゃう人もいるし怖いですよね」

――恐ろしい話だ……。でもお客さんが数十人くらいなら、書き込んだ側も誰かわかりません?

「大体わかりますよ。うしろから見ていないと絶対わからないことを書き込んでいたりしますし。会場では表向き仲良く接していても、裏では叩き合っているっていうこともあるし、悲しい話ですけど、なんでもかんでも信用しちゃいけませんね」

ライブ全通は最低条件でしかない!

これまでに通ったライブのチケット

――アイドル現場だと、一番すごいファンのことを“TO(トップオタ)”と呼ぶんですが、バンギャ界にもそういう存在はいるんですか?

「ファンを取りまとめる一番強い人は“仕切り”と呼ばれます。マイナーバンドでは仕切りの権力がとくに強くて、客席の最前列を管理しているんです。まずライブハウスに入ると、その日出演する各バンドの仕切りさんがバッといるので、目当てのバンドの仕切りのところに行って、例えばセンターに入りたいなら、『センター入れますか?』って聞くんです。空いてたら入れるし、もっと整理番号の早い人に先に取られていたら『そこはダメだよ』って。そんな面倒なことをするかわりに、仕切りの人は自分の望んだ場所に入ることができるんです。ボーカルが好きならボーカルの前が取れるとか」

――それだけ通っているなら、長谷川さんも仕切りになれるんじゃないんですか?

「全然ですよ! ライブに全部通っているのは最低ラインでしかないんです。毎回“早番(早い整理番号のこと)”を取って最前を取りまとめるのが仕切り。他バンドの仕切りや常連と協力し合って良いチケットを取って、そのかわりに好きな位置をもらえるのが“常連”。自力で早番を取って最前交渉をするのが“通い”。私みたいな、空いている場所で観れたらいいやくらいのは、せいぜい“通っている人”くらいの存在で、呼び名すらありません(笑)」

――それだけ通って名もない存在なのか……。神々の闘いですね。人生で一番ライブに行っている時期となると今?

「そうですね。地方出身なので、ライブに行くようになったのが大学生からと遅いんです。私くらいの年ってバンギャ上がっちゃう人も多いんですよ。高校生からライブに行っている子だと、ハタチ過ぎると落ち着いちゃったり。でも私は逆にどんどんこじらせてきちゃって、『売れ残って可哀想』っていう理由だけで1枚500円のチェキを1回のライブで16枚くらい買っちゃったり……。まぁチェキは箱買いする人も多いから、自分はまだ大丈夫だと思うんですけど……」

解散しても今の「好き」って気持ちは本当

チェキの数々

――ライブ1回で7,000円から8,000円使うそうですが、ライブが月7本ペースということは月に5万ほどV系に費やしていることになりますよね。一人暮らしの大学生にはキツくないですか?

「女としてどうかと思うんですけど、化粧品とか服を安いもので済ませて、美容・服飾費を切り詰めています。ライブのために生活しているんで、2週間以上空くと、まだかまだかとなってきちゃう」

――自分はドルオタなんですが、マイナーなグループだと、どう考えてもメンバーが10年、20年と芸能活動を続けていく未来は見えないなと。だから時々ふと、自分が今チェキとかにお金をかけたり、イベントのために予定を調整しているのはなんだろうと冷静になってしまいます。

「一生続くものではないと私もたまーに思うんですよ。パラパラ漫画みたいに似たようなチェキを何百枚も集めてどうすんだ!と(笑)。でもなんだかんだ今V系のおかげで幸せに生きているし、たとえ解散してしまったとしても、今の好きっていう気持ちは本当なので、後悔することはないと思います。中学生のときに友達からV系を勧められて、それまで本当に趣味がなかったんです。人生でこれだけハマれたものってV系以外ないんですよ」

――しばらくはバンギャを続けそうですね。

「でも大学を卒業したら、バンギャを辞めようと思っているんです」

――えっ。

「もちろん何歳になってもバンギャを貫く方々もいますけれど、平均年齢が比較的低い趣味ではあるんですよね。それにいつまでもライブにたくさん行き続けるのは難しいし、いい節目だから大学卒業のタイミングでバンギャを上がれたらいいなと。先のことを考えると寂しくなっちゃうんですけど(笑)。バンギャを上がったら、服とかメイクとか自分にちゃんとお金をかけてあげたいです」

――バンギャになってよかったことは?

「趣味のない私に趣味ができた、音楽を聞くときに各パートを意識して楽しめるようになったこと。あとはまぁ……あれですね。今行っているバンドの好きなメンバーに出会えたことが一番です(笑)。感謝しかないですよね」

「社会人になるからって辞めなくてもいいじゃん!」と思ったのだけれど、彼女には彼女なりの覚悟があるのだろうと何も言えませんでした。長谷川さんの青春は今クライマックスを迎えようとしているんだなぁ。ちなみに長谷川さんは取材後、「今日もライブなんです」と去っていったのでした。あと1年半ほどのバンギャ生活、楽しんでね!

[取材・文 / アイドルライター原田イチボ@HEW]