ドルヲタ vs バンギャル世紀の飲み会を敢行! 推し、本命、認知、ガチ恋……闇に包まれた両ファン心理に迫る!?

特集・インタビュー

[2016/6/17 17:00]

女性アイドルとヴィジュアル系ロックバンド。音楽形態も背景もまったく異なるシーンだが、熱狂的なファンを抱えていることは同じ。アイドルヲタクとバンギャル──。そう呼ばれる彼、彼女らは重苦しい、いや、純真無垢な愛の深さゆえに勝手に迷走し、ときに暴走をもしてしまう。その行動・心理は世間一般から見れば理解し難いところもあるだろう。そんな不可解で奇妙な実態の深淵を覗いてみたい。

というわけで、相反するように見えて実は共通するところも多いアイドルヲタクとバンギャルのみなさんにお酒を酌み交わしながらいろいろ語っていただければと、集まっていただきました。その道一筋を貫いてきたような生粋のファン歴を持つ人ではなく、近年両シーンに急増した、「ロックファンだったはずなのに、いつのまにかアイドルヲタク」と「1度上がった(※)はずなのに、結局出戻ってきたバンギャル」、そして「バンギャルとドルヲタの両刀使い」といった紆余曲折の音楽ファン歴を持つ濃い人たちです。
(※)ファンを辞めるという意味


<参加メンバーはこの人たち!>

▼アイドルヲタ(元ロックファン)
名前:やきそばぱんたろう(アラフォー・男性)
職業:自営業+半分会社員

<主要現場>
乃木坂46

<推しメン>
齋藤飛鳥(乃木坂46)

<自己紹介>
「SUPER☆GiRLS〜iDOL Street、中期の東京女子流、初代から中元すず香卒業までのさくら学院、などなど。元々ティーン雑誌を読み漁り、グラビアを熱心に見ていたので、素地はあったと思う」


名前:怪人(30代前半・女性)
職業:事務職

<主要現場>
lyrical school、ハロー!プロジェクト全般

<推しメン>
有安杏果(ももいろクローバーZ)、清水裕美(lyrical school)、船木結(カントリー・ガールズ)

<自己紹介>
「NARASAKI(CORTAR OF THE DEEPERS)が曲を作ってギターを弾いているという情報を得て、ももいろクローバー『ピンキージョーンズ』(2010年)を購入したところ、有安杏果さんに陥落してももクロのヲタクになり、いろいろ辿っていったところハロヲタになり、そしてDD(※)になりました」
(※)誰でも大好きの略


▼バンギャル
名前:ザジ(30代・女性)
職業:会社員

<主要ライブ>
【V系】えんそく、UCHUSENTAI:NOIZ、My BACTERIA HEAT IsLAND
【V系以外】CANTA、特撮(大槻ケンヂ)

<本命メン>
クラオカユウスケ(えんそく)、ANGEL-TAKA(UCHUSENTAI:NOIZ)、点々(My BACTERIA HEAT IsLAND)、ルーク篁(CANTA、聖飢魔II)、大槻ケンヂ(筋肉少女帯、特撮)

<自己紹介>
「何度か上がりかけながら数年後に出戻っているので、バンギャルは業のようなものだと思っています。一番影響を受けたミュージシャンは大槻ケンヂさん。もともと文筆業のファンで、そこから特撮にハマって現在に至ります。近年は対バンイベントで新しく好きなバンドと出会うことが多く、軽率に本命が増えていきます」


▼バンギャル兼アイドルヲタク
名前:たまみ(30代前半・女性)
職業:会社員

<主要ライブ>
えんそく

<本命メン>
ぶう(えんそく)

<自己紹介>
「1990年代後半のヴィジュアル系ブームで自動的にバンギャルに。でも入り口は、TM Revolution&IcemanのDAサウンド(※)。アイドルは、『BUBKA』でPerfumeなど当時の地下アイドルにハマり、某ネット掲示板でハロプロ文化にハマり、本格的にドルヲタへ」
(※)音楽プロデューサー浅倉大介が生み出したサウンド


ちなみに筆者自身も両シーンに足突っ込んでるどうしようもないタイプでして。話がマニアックになり過ぎる恐れがあるため、一般目線として、耳マン編集部のOh!!ビーフさんにも参加していただきました。Oh!!ビーフさんは仕事以外ではヴィジュアル系もアイドルもまったく通っていない、ごくごく普通の音楽ファンです。

「アイドルヲタク vs バンギャル」世紀の宴がはじまるよっ!!

ヲタヲタしく、家飲み形式でスタート!

ーーみなさんの紹介からはじめたく思っていますが、ぱんたろうさんはもともと夏フェスに行きまくっていた、典型的な洋楽ファンですよね。

ぱんたろう:入り口はPerfumeですね、『リニアモーターガール』(2005年)あたり。メジャーだったけど、まだ手売りしてましたね。

ーーテクノやエレクトロ好きが「Perfumeヤバイ」と騒ぎ始めた頃ですね。

ぱんたろう:そこから、私立恵比寿中学行って、SUPER☆GiRLS行って、八坂(沙織)さんが卒業してから、その下のiDOL Street、Cheeky Parade、わーすた……、一通りなめて。さくら学院にも行ってたし、あとは、キッズダンスとか。

たまみ:ロリコンエリートだっ!

ぱんたろう:そして、乃木坂46の2周年イベントに連れて行かれたんです、誰もメンバーがわからない状態で。そこで、今は大分有名になりましたけど、齋藤飛鳥っていう子がすごく可愛くてですね……。

ぱんたろう氏の推しメン齋藤飛鳥表紙の高校生向け情報誌『HR』

耳マン:あ、今度センターに抜擢されたという話題の子だ。

ぱんたろう:僕が推し始めた頃は、彼女はまだ中学3年生だったんですけど、まわりからは「ロリコン、ロリコン」言われて(笑)。

ーーハロー!プロジェクトに慣れてしまっている身からすると、中3でそう言われてしまうのは乃木坂ならでは、という感じもします……。

ぱんたろう:乃木坂でいわゆる“御三家(白石麻衣、松村沙友理、橋本奈々未)”と呼ばれてる人たちは、みんな20歳以上だから。

たまみ:20歳過ぎのアイドルは安心感ありますよね。

ーーハロプロ研修生好きな怪人さんは、そのあたりどうですか?

怪人:怪人の推しは25歳(清水裕美/lyrical school)と14歳(船木結/カントリー・ガールズ)なので大丈夫です。

耳マン:14歳は大丈夫なんですか。

たまみ:ハロプロでは普通ですよね。まーちゃん(佐藤優樹)だって、モーニング娘。加入当初は小学生でしたから。当時、まーどぅー(佐藤優樹&工藤遥)でランドセル背負ってくるくる回るというライブの演出があって、高まりました。

お気に入りのリリスク(lyrical school)Tシャツを持つ怪人氏(左)とまーちゃんのマイクロファイバータオルを持つ、たまみ(右)女史

ーー怪人さんも元はフジロックを生き甲斐にしていたロックファンですが、アイドルはももクロがきっかけですよね。

怪人:NARASAKI(COALTAR OF THE DEEPERS)が好きで、『ピンキージョーンズ』(2010年)のギターがヤバイっていう話を小耳に挟みまして。それで買ったのが、たまたまDVD付きの初回盤だったんですよ。MVを見たら、「有安、有安(※)」になってしまい(中略)、現在に至ります。
(※)ももクロの有安杏果

ーーバンギャルでアイドルヲタクという両側面を持つたまみさん。

たまみ:中学生のとき、『Break Out』(※テレビ朝日系列の音楽番組)の全盛期で、周りにインディーズのヴィジュアル系バンドが好きという友達も多く、自動的にバンギャルになりました。とくに引っかかったのは、CASCADEとPIERROTです。そこから進んでいって、cali≠gariにどハマりして。ちょうどインターネットを始めた時期というのもあったので……、(遠い目で)すいませんでした……。

耳マン:なんすか、いきなり(笑)。

たまみ:あ、いや、なんか当時のことがいろいろ走馬灯のように……。

(一同爆笑)

たまみ:で、同じくらいのときに、モーニング娘。が盛り上がっていまして。インディーズバンドとは違う、どメジャーなものって、面白いのではないのかと思ったんですね。そこから雑誌『BUBKA』でのヲタクの生態特集や掟ポルシェさんとかのコラムを読んで、Perfumeなどを知り、バンギャル活動と並行して当時の地下アイドルの動向を追うようになりました。そのうちに、PerfumeがGOATBED(※cali≠gari 石井秀仁のバンド)と対バンしちゃったり。元々エレクトロミュージックが好きだったので、あとはデートピアですね、Saori@destinyとか。えんそくは急にハマって、現在に至る。

挨拶中、唐突にはじまるCD交換&配布会。推しグループ、本命バンドの布教活動に抜かりがないのは、ヲタもバンギャルも同じだ

「(推しのCDは)自分の名刺みたいなものです!」by 怪人

ーーそして、バンギャルのザジさん。

ザジ:中学生くらいのときからヴィジュアル系は好きなんですけど、途中ブランクがあったり、何度か上がりかけてますね。ずーっと好きなのは大槻ケンヂ。筋肉少女帯よりは特撮なんですけど。2006年の筋少再結成からいろいろイベントに行きはじめ、対バンで好きなバンドが増えていって、いつのまにかまたバンギャルに戻ってしまいました。聖飢魔IIも当時は聴いてなかったんですけど、CANTAから入ったんですよ。

“同性に優しい問題”はよく取り沙汰される

耳マン:ザジさんは、アイドルには興味ないんですか?

ザジ:可愛い女の子は好きだし、興味はあるけど、ハマったら泥沼だなと。自分が女なので、接触イベントとか行ったりすると、きっと良くしてくださるじゃないですか。

たまみ:良くする、良くする。

怪人:女ヲタが少ない現場ほど、優しくしてくれる。

耳マン:やっぱりそういうものなんですか?

怪人:接触イベなどで、“同性に優しい問題”はよく取り沙汰されますね。「女ヲタだからおいしい思いをしやがって!」と僻まれがち。

耳マン:ちなみにヴィジュアル系バンドも男性ファンに優しかったりするんですか?

ザジ:しますよ、ライブ中もハンパなく構われるし。

怪人:でも、男性ヲタによくしてもらったこともありますね。Berryz工房&℃-uteのコンサートに行ったときに、目の前の席がちょっと厄介なヲタで。ずーーーっと推しジャン(※)をしていたりでステージが全然見えない状態だったことがあったんです。そんな中、死にそうな顔で光る棒を振っていたら、近くの男性の方が「よかったら席変わりますか?」って言ってくださって。ハロプロはそういう紳士ヲタエピソード多いですよ。会場入るの遅れてあたふたしてたら、「女限(※女性限定エリア)こっちですよ」と案内してくれたり。
(※)「推しジャンプ」のこと。コンサートなどで推しているメンバーが話したり歌っているときに飛び跳ねる行為

子どもがセーラームーンやプリキュアが好きなのと一緒、大人になってもその感覚

ーー女性で「女性アイドルが好き」というと、一般の人から「同性愛者なの?」なんてこと言われたりしますよね。

たまみ&怪人:ああー、それなーーーーっ!!

たまみ:100万回くらい言われた。

怪人:怪人は異性愛者ですが、そこはテンプレ回答を用意していて。「子どもがセーラームーンやプリキュアが好きなのと一緒、大人になってもその感覚でいる」と答えてます。

ーーバンドマンとアイドルの両方が好きなたまみさんは、そこに感情の違いはあったりします?

たまみ:アイドルは大好きなんですけど、バンドマンに比べると、どこかハマりきれない部分も正直ありますね。いちばん高まる、荒ぶれるのはバンドマンです。感情のすべてを預けられる。

ぱんたろう:それって、やっぱり異性だからじゃないの?

たまみ:どうなんですかね……。まぁ、私はぶうさんにガチ恋なんで(はぁと)。

耳マン:もし、ぶうさんが結婚しちゃったらどうするんですか?

たまみ:結婚……できないと思うんですよね……(願望)。

(一同爆笑)

耳マン:うぉぉ! こ、これがガチ恋っすねぇぇ!

ザジ:バンドマンは2.5次元の世界だと思っているので、ステージ以外の姿は想像できないんです。アニメキャラのような存在。そういう意味ではすごくフラットな気持ちなので、普通に「結婚したいっ!」って言いますね。婚姻届けにサインしてほしい、というリアルなものじゃなくて、「この人のことが一生好きでいられるっ!添い遂げられるっ!」というキラキラしたピュアな10代の乙女心のような気持ちなんですよ。…ただ、その結婚したい人が同時に5人くらいいる、みたいな。

一同:ああ〜。

耳マン:なんか、みなさん納得してますけど。なんとなくわかるような……、いや、やっぱりよくわからない(笑)。男性がアイドルにガチ恋というのはよく聞く話ですけど?

ぱんたろう:齋藤飛鳥は殿上人なんで。たまに握手会で、ただ「ありがとうございます」と述べることが許される存在。あまり近すぎると、リアルすぎて生々しく感じちゃうんですよ。距離感がわからなくなるのは良くない。僕はアイドルはもちろん、ステージも楽曲もしかるべき存在だと思うんですね。そういう線引きはしてるんで、そこが壊れてしまうとイヤだなぁ。だから自分は地下アイドルよりも、何千、何万人から選ばれたような人が好きですね。

ーー昔ながらのアイドル像ですね。最近は「認知されたい」ヲタも多いからなぁ。バンギャル界隈はどうですか?

たまみ:覚えられたくない意識と、覚えられたい意識がせめぎあって、マジ死ぬかと思いました。

ザジ:覚えていることをわざわざ伝えてくださる方と、あえて言わない方がいますね。手紙やイベントなどでファンの名前や存在を覚えようとしてくださるのは優しさだなぁ、と思います。

ーー自分の推しメンに「こないだ来てないじゃん」なんて言われて心を折られる、というのも“認知あるある”エピソードですが、推しに完全に認知されてる怪人さんは、逆にメリットを感じたりしてますか?

怪人:覚えられてるかいないのか、という探り探りの会話がなくなるので気が楽です。接触でなくともライブ中にステージ上から出席確認はされている、と信じている……。私、大体いつも最前で泣いてるんで。

耳マン:なんで泣くんですか!?

怪人:感情のすべてをさらけ出せるのが、アイドルの前しかないので。

耳マン:そういうのって、アイドルヲタク特有の感性なのかなぁ。

ザジ:私もめっちゃ泣きますよ。毎回ライブ見て泣いてる。

耳マン:深いな……。

[冬将軍]