「アイドル辞めた今が一番楽しい」……卒業の理由はプロデューサーとの確執だった~元アイドルインタビュー第1回~

連載・コラム

[2016/4/28 17:15]

毎日のように流れてくる、知らないアイドルの卒業発表ツイート。数えきれないほどのアイドルグループが活動しているようだけれども、相変わらずテレビで見かけるのはAKB48を始めとした限られたグループばかり。ほとんどのアイドルたちは、芸能界の隅っこでささやかな光を放ち、やがて100人にも満たないファンの前を去って“普通の女の子”の日常へ帰っていく。

そんなアイドルを辞めた女の子たちは今どこで何をしているんだろう?
これから話を聞く相手も、そんな女の子のひとりだ。落ち着いた茶色のセミロングヘアに小柄な体型、そしておっとりとしたしゃべり方は、いかにも“お嬢様”といった雰囲気。でも年齢を聞いて驚いた。

「今年27歳になります」

なんと。筆者より年上だ! ホノカさん(仮名)は接客業で働いていて、休日は趣味でDJを楽しんでいる。彼女は大学時代、アイドルだった。

『プロデューサーの暴言で“病んだ”』

ホノカさん

もともとアイドルに興味があるわけじゃなかった。ホノカさんは当時大学に通いながら、演劇の世界に憧れて、週1回レッスンを受けていた。アイドルオーディションに応募したのも「ここから演技の仕事につながるかもしれない」という期待があったからだ。軽い気持ちでの応募だったけれども、見事合格。所属することになったのは、ちょっとした有名人も参加するということで、注目を集めるグループだった。結成すぐ大きな会場でのライブも決まり、自然と期待は高まったが、残念ながらグループは短命に終わった。

「体力的には本当にきつかったです。レッスンは週4で、それと別に演技のレッスンも続けていました。土日はほとんどイベント出演で、空いた時間はミーティング。休みはありませんでした。だから辛いことがあっても、友達に相談する時間もなくて。短い活動期間でしたけど、最後は“限界”という気持ちでした」

体力面でも辛かったけれど、本当に彼女を“病ませた”のは、プロデューサーとの関係だった。

「スケジュールを直前になってから教えられたり、やるって言っていたことをやらなかったり、メンバーが振り回されちゃって……。あと暴言みたいなのも多かったんですよね。辞めるきっかけになったのが、結局ウソだったんですけど、『お前たちがダメだからメンバーを総入れ替えする』って言われたこと。運営も試行錯誤だったのかもしれないけど、『自分は何をさせられているんだろう?』って虚しくなっちゃったんです」

迷いに迷い、結局は脱退を決めた。家族もハッキリとは言わなかったものの、ホッとした様子だったという。

「周りのみんなが就活している中で、私だけこんなことしていていいのかなっていう不安もあったんです。だから親も辞めて安心していたと思いますよ。辞めた時点で芸能活動も諦めました。短い間だったけど濃い時間を過ごせたから、すんなり諦められたのかもしれないです」

『地下に待ち受けていた謎の業界人たち!?』
芸能活動という夢を捨てたホノカさんだったが、グループ解散後もまた別のユニットでアイドル活動を続けることになる。

「『1回だけライブやらない?』ってまた声をかけられたんです。1回だけならと思って、またステージに立ってみたら、やっぱり楽しくて……。そのときもう就職していたんですけど、休みの日に無理のない範囲ならアイドルやっていきたいなと思ったんです」

演劇は大学卒業と同時にすっぱり辞めていた。アイドルはなんで続けようと思ったんだろう?

「演技よりライブのほうが、私には楽しいって気づいたんです。演劇って舞台から一方的に発信する形に近いじゃないですか。でもライブは、お客さんもコールとかサイリウムで、ステージにリアルタイムで反応を返してくれる。女優にずっと憧れていたけど、実際はもっとお客さんと近いのが性に合っていたんです」

自分はガツガツ上を目指さず、目の前のお客さんと楽しんでいくので充分。だからこそ、メジャー志向だった最初のグループよりも、始めから地下と割りきっていた次のグループのほうが気楽に活動することができた。ただ、次のグループでも暗雲が立ち込める。

「手伝いたがる人がでてきちゃったんですよね。私たちは楽しくやれたらいいって気持ちだったのに、業界人っぽい人たちが『もっと目標を持って』『こうしたら売れる』とかいろいろ口を出してくるようになってきたんです」

ホノカさんは悩んだ末に、ついに“アイドル”という肩書を捨てることにした。

「私がやりたいことって、『私が何かして、それに目の前の人が喜んで、また反応を返してくれる』っていうだけなんです。そういう風に小さく小さく考えていくと、別にアイドルっていう形にこだわらなくていいのかなと。地下アイドルよりさらに小さい規模の活動でも充分幸せなんじゃないかなと思ったんです」

ホノカさんは「だから今がいちばん楽しい」と明るく語る。

『ラブライブ!に思わずツッコミ』
アイドル活動を通して、自分には“自分と目の前のお客さん”で完結する活動で充分なことを知ったホノカさん。だからこそテレビで活躍するようなアイドルは素直にリスペクトしている。

「もう1回アイドルになれるって言われたとしても、う~ん……。悩みますよね……。大きいグループはもういいです。ある程度の規模のグループで長く続けている子は本当にすごいですよ。負けず嫌いじゃないと続けられませんよね。私もアイドルやって、メンタルは強くなったかな。仕事でお客さんに嫌なことを言われても、あんまり気にならない。アイドルの経験が接客業に生きています(笑)。嫌なこともたくさんあったけど、総合的に見ると本当に楽しい経験でした」

アイドル業界を経験したものの、ホノカさんは相変わらず現実のアイドルにはそれほど興味がない。でもDJとしてはアニメソングをよくかけていて、とくに『ラブライブ!』や『アイドルマスター』などのアイドルアニメがお気に入りだ。

「見ていて、こんなわけないでしょってツッコんじゃうんですけどね(笑)。こんな簡単に売れるわけないじゃんとか、メンバーみんな性格よすぎとか。アニメだと、誰かひとりが売れても残りのメンバーは『私たちもがんばろう!』って前向きなんですよね。でも実際は売れてる子に嫉妬するし、イジメまではいかないけど、上手く接することはできなくなると思う。あとは歌とかダンスとかこの規模のグループでここまで凝れるわけないとか、もっとケンカするとか……」

そこまでツッコミを入れているのに、なんでアイドルアニメに夢中になってしまっているのか……。

「本当になんでなんでしょうね?」

ホノカさんは照れ笑いを浮かべた。


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[取材・文 / アイドルライター原田イチボ@HEW]