「ボーカルとしての俺、死ぬ~SNAIL RAMPの作り方・35」タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』

連載・コラム

[2020/5/18 12:00]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマンであり、キックボクシングで日本チャンピオンにまで上り詰めたタケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!


「セカンドアルバムはメジャーから!」と意気込んできた俺は、メジャーから提示された契約内容によって自分たちの力不足を知り、その価値は自分たちで高めないといけないことを痛感した。

そこからセカンドアルバム『Mr.GOOD MORNING!』作りがスタートしたのだが、収録できる曲のストックはただの1曲もなかった。そこから慌てて作り出すスケジュール先行型の制作、初めての経験だったのだがこれがキツかった。

それまでは自分のなかに自然に蓄積されたメロディや楽曲のアイデア、それがそのときの感情によって曲となって噴き出すのを形にすればよかったが、蓄積されたものがあるのかないのかもわからぬままに「書かなくてはいけない曲」を書く。商業ベースでも耐えうる音楽活動をやろうとするなら当然のことだが、1〜2曲は何とかなってもこれが10曲程度のボリュームになってくるとスタートの段階で「え……」と呆然としてしまう。

「5日間やるから、東京から福岡まで歩いてな」のような「できるかできないかすら不明」なことにチャレンジするのは、なかなかにどんよりするものだ。

今思えば、この程度のことで「どんよりする」気持ちの弱さで、よく「メジャーで出す!」とかほざいたモンだと自分を恥入る。結局、夢見てたんだろうな。いちリスナーに過ぎない自分がみることができる「メジャーで成功した人の上辺だけのイメージ」を鵜呑みにし、そこに辿り着くまでの苦労や努力を想像すらしていなかった。

でも、これは今だからわかることだし、当時はただ「やべー、書かなきゃ書かなきゃ」と慌てるだけだった。とにかく書かねばならぬ。でも曲のアイデアなんて出てこない。そこでまずは環境を変えてみようと思った。

ギターを持って葛西臨海公園の人気のない水辺に行き、そこで曲を練った。あれが何月だったのかよく覚えていないが、俺のそばではレジャーシートに寝転び、上半身裸で日光浴する若い男性がいた。それくらい暑い日だったので、正直なところその日差しの強さに曲作りどこではなかった。

ほかにも、ひとりでスタジオに入ってみたりもしたが、その進みは大したモノではなく結局は自宅でやるのと変わらないことを知るだけだった。しかしどうにかこうにかバンドで10曲を作り、何とかレコーディング日程に間に合わせた。

レコーディングは西早稲田にあるAVACO STUDIOで行った。無名のインディーバンドが使えるような安いスタジオではなかったが、SNAIL RAMPのマネジメントをしていたジャグラーがお付き合いしていたようで、スタジオスケジュールに穴のあった6日間だか7日間を格安で押さえたようだった。

メインのレコーディングスペースはオーケストラが入れる広さがあるどデカいスタジオ。そこに俺たち3人が放り込まれ「何かスペースが余ってて、さみしいなぁ」と思いながらのレコーディングだった。1週間そこらで10曲の録りをボーカルやコーラスまで終えなければならないのはなかなかにハードで、特にピッチ(音程)の安定しない俺のボーカル録りは、自分的にもむちゃくちゃ大変だった。

それでも何とか録り終え、あとは『A WOMAN WITH A STORY』という曲に外部ゲストであるバイオリン、チェロなどのカルテットを録ればOKという段階に。聞くところによるとカルテットのひとりはNHK交響楽団だという。「超一流の人じゃん……!」とワクワクしながらそのレコーディングを見守る俺たち。

彼らはうちらのレコーディングした曲に合わせながら何回かプレイ。ただ「何か違うな……」という表情が気にかかる。やがてレコーディングブースから、うちらのいるコンソールルームに戻ってくると「あの……、テンポが……」と。

どうやらうちらの演奏しているテンポが一定でなく、走ったりモタッたり(早くなったり遅くなったり)しているので、そこにうまく合わせられないとのことだった。

「あ……」と下を向く俺たち。まあバンドなのでメンバー間でリズムキープできていれば演奏としては何の問題もないのだが、こういうように第三者が入ると話は違ってくる。しかもモロにクラシック畑の人だと、余計にテンポの揺れが気になるのかもしれない。

ただ、このときはまだよかった。リズムキープの責任の多くはドラムにあるので、「石丸ぅ……」と思っておけばいい。他人のせいにしておけばいいのだが、そのN響の人はトドメのひと言を放った。

「あと(念の為に聞きますが)、これ仮歌ですよね?」
※この場合の仮歌は「曲の雰囲気を表すために、とりあえず歌った不完全な歌」の意

ぐぎぎぎぎぎ。イヤになるほど歌い直して完成させたこのテイクが仮歌……。俺のボーカルとしての自尊心はこの日死んだ。というか薄々気づいていた。「俺はボーカルに向いてない」という懸念が事実となった日だった。

がしかし「ここまで言われちゃう俺のボーカル最高だな」と笑えてもきた。そしてリズムとボーカルの甘さに苦戦したゲストミュージシャンの方たちも最終的にはなんとか辻褄を合わせてくれ、セカンドアルバム『Mr.GOOD MORNING』は無事録り終えられた。

これがリリースされたのが1998年8月8日だった気がする(自信なし)。

タケムラアキラ

竹村哲●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。