「有名税とごまかすな・木村花さんの死」~タケムラ アキラ(SNAIL RAMP)『炎上くらいしてみたい』

連載・コラム

[2020/5/28 12:00]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマンであり、キックボクシングで日本チャンピオンにまで上り詰めたタケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!


すでに報道がありご存知の方も多いと思いますが、プロレスラーの木村花さんがお亡くなりになりました。

プロレスラーとして活動しながら、人気リアリティーショー『テラスハウス』にも出演。その番組での彼女の立ち位置や制作側の編集、演出を経た画面上の印象からか、本人のSNSには彼女を心よく思わない人々、いわゆるアンチがこぞって心ない言葉を投げつけていた。

現段階で死因は明確にされてはいない。されてはいないがSNSなどネットでのアンチコメントによって追い詰められ、それがその死に強く結びついたと推測するに疑いはないであろう。

アンチの多くは匿名アカウント、リアルの自分はバレないとタカをくくり自分の憂さを晴らすかのように罵詈雑言を浴びせ続ける。SNSでの匿名アカウントの是非については、以前から賛否があった。匿名アカウントだからおもしろおかしく発信できる場合もあるが、匿名だからこそする無責任な発言もまた多い。特に誰かを攻撃するようなネット上での発信に対し、アカウント全員本名制への変更は抑止効果があるだろう。とても難しいバランスではあるのだが、今後の流れはどう動いていくのか。

それよりも、俺が一番大きな問題だと捉えているのは「有名税」だ。非常に有名な言葉ではあるが、当然に公的にそんな税負担はない。

これは「世に広く知られる立場の人であるなら、それによる不利益は我慢して被りなさい」というかつて聞いたこともないような悪税であり、人権を無視していると言ってもまったく差し支えない。

「有名税」とは、その被害に遭った人たちがこういう言葉を使ってでも、その不条理を無理やりに咀嚼しなければいけないときに使う言葉であって、加害者側が「有名税でしょ」と開き直るのは盗人猛々しいという言葉では済まないし、仮にあなたが傍観者であったとしても「有名だから仕方ないよね」と思った瞬間に、「有名税」を取り立てる側に回っているのだ。

実のところ、ネットがいくら全アカウント本名制になったとしても、それを使う人の意識が変わらなければその質はそこまで変わらない可能性はある。実際、木村花さんの死を喜ぶような動画をあげたクソYouTuberにしても、実際の本名かどうか定かでないとしても自身の顔出しの動画をあげているのだ。

10年〜20年前あたりであればこういった攻撃的な言動がやり取りされるのは、いわゆる「2ちゃんねる」だった。当時の有名人たちも自分の評判は知りたかったので、そこを覗きに行く芸能人たちも実際によくいた。ただそこで目にするのは、自分を褒め称える言葉よりこき下ろす言葉。しかもボロクソに言われる場合も多いので、「見ても凹むだけだから、見ないようにしている」という人たちも多かった。

それでも、まだあの時代はよかった。自分がわざわざそこに行かなければ、不必要な痛みを感じることはなかったから。だがSNSを始めとするさまざまなシステムは、自分の生活テリトリーに名もわからぬ誰かが悪意をもって入ってくることを許してしまった。

家に帰ると、毎日ドアに自分の悪口が書かれた紙がギッシリと貼られているようなモノ。これはキツい。

自分も経験があるのだが、10や20の褒め言葉があったとしても、たったひとつの悪意ある言葉のほうがなぜかズッシリと自分のなかに重く残ってしまう。それが50や100といった量になってくると、それはもう、想像しただけで気が狂いそうになる。

お願いだから「有名税」という、それが当然であるかのような概念は今日から捨て去ってほしい。そんな都合のいい言葉を隠れ蓑にして、自分がネットで起こしている脅迫や傷害事件、殺人事件をごまかさないでほしい。

タケムラアキラ

竹村哲●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。