『推しメンが結婚しそう日記』第1回:婚約? 冗談はやめてください
元モーニング娘。の石川梨華に10年以上“ガチ恋”を続けているドルヲタのふちりんによる完全ノンフィクション連載。梨華ちゃんに健気に恋をする彼が、結婚が近いと報じられている彼女への想いを繊細に紡ぐ。[ガチ恋……アイドルにガチ(本気)で恋をすること]
2月21日火曜日
「婚約? 冗談はやめてください」
2月21日の昼頃、Twitterを開くと、フォロワーさんから「大丈夫ですか?」というリプライが来ていました。元旦の『元モー娘。石川梨華、結婚へ』という報道に続いて、梨華ちゃんにまた何かあったのかな。これ以上、傷つきたくない。何も知りたくない……。という気持ちになりました。
「ご報告」というタイトルで何かが発表されているかもしれない、と思い、あわてて梨華ちゃんのブログを見に行きました。しかしそこには愛犬のひめちゃんの可愛らしい動画が貼ってあるだけで、特に何も起こっておらず、安心しました。
もう1度Twitterを見ると、おととい投稿した「梨華ちゃんが婚約した夢を見ました」というツイートが今日になって急にリツイートされているのに気付きました。まさかあれが正夢になったんだろうか。婚約? 冗談はやめてください。まだ元旦の『元モー娘。石川梨華、結婚へ』という報道の傷も癒えていないのに……。
特に何も起こってないと信じたいけど、非常に嫌な予感がしたので、念のため精神安定剤を1粒飲みました。
僕のブログ『ふっち君の日記。』のアクセス数を見てみると、昨日は6PVしかなかったのに、今日はすでに123PVもありました。梨華ちゃんの身に何かが起こったのは間違いないと思われました。怪我や病気でもしたんだろうか。とても心配になり、日本のどこかにいるだろう梨華ちゃんに「ホイミ!」と唱えました。僕は30歳を超えた童貞なので、魔法が使えるのです。
僕のフォロワーさんはみんな優しいから、誰も詳しいことは言いません。しかし、Twitterの通知欄の雰囲気から、梨華ちゃんが婚約か何かをしたことがひしひしと伝わってきました。精神安定剤をもう1粒飲みました。僕は思いました、このままオーバードーズして、何も知らないまま死にたい。何も知らないまま死ぬこと、それが僕の幸福だと。
もしかして婚約なのではないか?とパソコンの前で狼狽していたら、母親が扉を開けてぬっと現れ、「テレビの調子が悪いから直して」と言ってきました。今テレビをつけたら、ワイドショーで梨華ちゃんに関する何かが報道され、母親に「梨華さんが○○したよ!」と告げられるだろう。そんなのは嫌だ。そう思い、母親のことを無視しました。
恐怖と不安、悲しみのために手足が小刻みに震えるなか、パソコンを操作していたら、母親が再びぬっと現れ、「やっぱりテレビが映らないの。直してくれない?」と言いました。僕はそれどころじゃないし、テレビなんて大嫌いなので、「嫌だよ」と強めに答えました。僕は親不孝者だ、と思ってつらい気持ちになりました。
午後11時過ぎ、再び梨華ちゃんのブログを見てみましたが、愛犬日記が書かれたままで止まっていました。「ご報告」のようなものは見当たりません。実は何もなかったんじゃないだろうか?と思いました。みんなやだなあ、人騒がせなんだから。それともすべて夢だったのかもしれない。最近こういう夢、よく見るから。
しかし僕は、夢などではないことはわかっていた。いったい何が起きたのか分からず不安で、どんな報道があったのか確かめたい気持ちがありました。でもそれを確かめたら、ショックを受けて衝動的に死んでしまうかもしれない、という不安がありました。身動きがとれません。世界は恐ろしいところだと思った。優しい世界に避難しようと考え、村上春樹の『女のいない男たち』を本棚から取り出しました。
同書に収録されている『独立器官』という短編小説を読むのはこれで4回目でした。梨華ちゃんのことで窮地に追い込まれたときは、いつもこれを読んでいます。主人公の渡会医師が、ある女性に唐突にガチ恋し、フラれ、何も食べられなくなって衰弱死する話です。僕はこの物語を通して疑似的に死ぬのです。僕はパソコンの電源を落とし、心のなかに不安と闇を抱えながら『独立器官』を一気に読み、疑似的に死にました。
事実を知るのが恐ろしくて仕方なくて、芸能情報を遮断していたため、寝る前になっても、僕は梨華ちゃんに何が起こったか把握していませんでした。このまま誰にも会いたくないし、テレビも新聞もインターネットも見たくない。何の情報も把握しないまま、永久に眠り続けたい。夢のなかで、梨華ちゃんと手を繋いでディズニーランドに行きたい。そう思いましたが、夢のなかに梨華ちゃんは出てきませんでした。