ガチ恋の苦しみがなくなっても、人生にはほかにいくらでも苦しみが存在するんだな【推しメンが結婚しちゃった日記】

元モーニング娘。の石川梨華に10年以上“ガチ恋”を続けているドルヲタのふちりんによる完全ノンフィクション連載。梨華ちゃんに健気に恋をする彼が、2017年3月13日に結婚した彼女への想いを、結婚が近いという報道があった2017年元旦から振り返り繊細に紡ぐ。【ガチ恋……アイドルにガチ（本気）で恋をすること】

5月17日〜18日

ガチ恋の苦しみがなくなっても、人生にはほかにいくらでも苦しみが存在するんだな

5月17日　金曜日

　最近親しくさせて頂いている女性（Sちゃん）から「今夜デートしない？」というラインが来て、大宮アイドールに行くことになりました。多汗症の僕は、早めに行って汗を落ち着けようと思って、約束の時間の10分くらい前に大宮アイドールに行きました。すると、出迎えた“りなりー”（今野梨奈ちゃん）に「お友達が来てるよ！」と言われました。りなりーが指さすほうを見ると、可愛らしい女性がひとり、ちょこんとテーブル席に座っています。僕はじわじわと出てきている汗をさりげなく拭いながらそのテーブルに近づいていき、ぎこちなく座りました。泌尿器科の医師に「今週はお酒を我慢しようか」と言われていたため、ジンジャエールを注文しました。するとSちゃんは「あれ？　お酒飲まないの？」と尋ねます。僕は「医者に止められているんだ」と答えました。さらに「どこが悪いの？」と訊かれたとき、これは精液に血が混じっていることを告白するまたとないチャンスだ！と思ったけれど、やはり告白して引かれるのが恐ろしく、「まあ、ちょっとね」とお茶を濁しました。彼女と親しく付き合っていく以上、このことはいつかは告白しなければならないのに、いったい何をやっているんだろう、と自分に呆れながらジンジャエールをごくごく飲みました。

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　Sちゃんとぎこちなく雑談をしていると、りなりーがやってきて、「こんな可愛らしい女性とデートだなんて、ふちりん、やるわねえ」と言います。そしたら突然、Sちゃんが「私、ふとしさんと結婚するんです」と言い、りなりーは店内に響きわたる大声で「ええええー！」と叫びました。僕は慌てふためき、両手を振りながら「いや、まだ、まだしないから！」みたいなことを言いました。変な汗がにじんできて、それをさりげなく手で拭い、おかわりのコーラを喉に流し込みました。

　それからしばらくすると白川ももちゃんがやってきて、僕らの関係について尋ねました。僕が返答に困っていたら、Sちゃんが「友達です。結婚を前提とした友達です」と言うので混乱しました。結婚を前提とした友達って何？　そんなの初めて聞いたよ！　ももちゃんは興味津々な様子で「何それー。ふちりん、付き合っちゃえばいいのに」と言います。僕は意を決してSちゃんに向き直り、「好きだよ」と告げました。しかし「そんなんじゃ全然足りない！」と糾弾され、え？　足りない？　かなり心を込めて言ったつもりなんだけどな……と思いました。さらにSちゃんは言います。「まだ梨華ちゃんのことが好きなんでしょう。梨華ちゃんはもう結婚しちゃったんだよ！」と。ここできっぱりと「いや、もう梨華ちゃんのことは諦めたよ。君のことが1番好きだ。結婚しよう」とでも言えればよかったんだけど、ガチ恋の心がまだ残っていたせいか、苦笑いをしながら「いやいや」と両手をひらひら振ることしかできませんでした。

5月18日　土曜日

　ここのところおもにお金がないという理由で大宮アルディージャの応援に行っていなかったけれど、久しぶりに行ってきました。ガチ恋仲間の中島さんと飲みに行く予定がキャンセルになり、お金が浮いたからです。長らく身に着けていなかったオレンジ色のユニフォームに袖を通し、携帯電話で写真を撮りました。そして自宅からNACK5スタジアム大宮まで30分くらい歩き、汗だくになりながら当日券売り場でチケットを購入しました。グラウンドの角のほうの席に座り、タオルマフラーで汗を拭います。夏のような太陽の光が照りつけてかなり暑いのに、周りの人たちは汗をかかず涼しげな顔をしているので、自分が多汗症であることを再確認させられました。

　試合が始まって、選手たちが緑色のピッチの上で躍動しているのを眺めていると、梨華ちゃんの熱愛報道があった直後のことを思い出しました。その頃は梨華ちゃんのことから意識を逸らすために、かなり積極的にNACK5スタジアム大宮に通っていました。しかしどれだけサッカーに集中しようとしても、梨華ちゃんの熱愛を告げるスポーツ新聞の紙面がフラッシュバックして、扇風機を思いきりぶっとばしてやりたい気持ちになりました。ぶっとばし用の小型扇風機が必要だ、と切実に思ったものでした。ところが今では、梨華ちゃんの熱愛や結婚のことがフラッシュバックすることはほとんどありません。たまにフラッシュバックしても、そこまでのショッキングは受けません。ああ、僕の心は確実に回復してきているのだな、と実感しました。しかしながら、そいつがいなくなっても俺がいるぞと言わんばかりに、他の不安たちが次々に頭をもたげてきます。仕事に関する不安、恋愛に関する不安、健康に関する不安、などなど。結局、ガチ恋の苦しみがなくなっても、人生にはほかにいくらでも苦しみが存在するんだな、ということを思い知らされました。また、大宮アルディージャがゴールしたらどういうリアクションをとればいいのだろう、という不安もありました。こんなに大人しい人間が、ゴールした途端に立ち上がって「うおー！」と叫んだら変に思われないだろうか。逆に点が入っても大人しく座ったままだったら、「なんだこいつは。それでもサポーターか？」と心の内で批判されないだろうか。しかし結局のところ、大宮アルディージャは点を取りませんでした。引き分けに終わってとても残念に思ったけれど、点が入ったときのリアクションをとらなくて済んだことに安心している自分もいて、僕はサポーター失格だな、と思いながら、とぼとぼと歩いて帰りました。