『音鳴(オトナ)の玩具(オモチャ)』第13回:彼女の魂はこの生臭いボディに受け継がれている
漫画家・イラストレーターの福島モンタが、音の鳴る香ばしいおもちゃを紹介していきます!
池端 恋の身に何が……
やめてくださ~~い!
どうも! 福島モンタです。
音の鳴るオモチャを紹介するコラム、今回はとあるOLの身に起こった出来事をドラマ仕立てでお送りします。
『ロボカープ』
・池端 恋 (いけはた こい)24歳
・都内 メーカー勤務
・広島県尾道市出身
「広島風お好み焼き」の文字を見ると「風も何もお好み焼きは広島のもんじゃけえ!」と、あるある郷土愛を炸裂する彼女。
どこにでもいる普通の女の子。
たまたま居合わせた関西出身者とお好み焼き討論会となり、激昂して相手の耳穴にお好み焼きソースのチューブをまるまる1本流し込んだことも。
もちろん生粋の広島カープファン。
だから最近流行りのにわかカープ女子と一緒にされた日にゃあ、さァ大変!
相手の背中をひんむいて鉄板でよく熱したコテで鯉の滝登りをサササと筋彫りしてしまうんだから、彼女にカープ女子なんてぇおクチが裂けても絶対に言ったらダメヨ!
こいはこいでもあっちの方の恋はカラキシ。
目下絶賛片想い中の同僚イケメンMくんに熱い気持ちを伝えるどころか仕事の用件ひとつもうまく伝えられないで、いつまでたってもおクチをパクパク、まったく池の鯉じゃあるめえし!
仕事中もぼんやりMくん目で追って、ぽかーんなんて大きなおクチ開けちゃって。
それじゃあアンタ、端午の節句の鯉のぼりだよ!
♪小さーいひごいーは子どもーたーちー
おもしーろそーおーにー
およいーでーるー♪
いつの間にやらオフィスで熱唱。
課長のカミナリ「コラー!池端~~! 仕事中に鯉のぼり唄うなア~~!」
(いっけない! また鯉のぼり唄っちゃった!)
(好きなのよね~鯉のぼりの唄)
(特にサビの盛り上がり! 最高じゃけえのう)
♪小さーいひごいーは子どもーたーちー
おもしーろそーに泳いでーるー
あー、最高じゃけえのう!
「コラー! 池端~~また唄ってるぞ~~!」
そこへ同僚イケメンMくんがスタスタと駆け寄って、
「気づいてますか。鯉のぼりの唄、あれって歌詞にお母さんが出てこないんですよね……1番も2番もお父さんと子どもたちだけ……僕、小さい頃にお母さん亡くしてるから……嫌いなんだ、あの唄。特にサビのあの盛り上がり……」
そう言い残して上くちびる噛み締めながら、Mくんオフィスを飛び出しました!
しばし呆気にとられた池端恋。
すると課長がすかさず、
「追え~~!池端~!」
慌ててオフィスを飛び出し、あたりを見渡すと、Mくんひとり河原でバーベキュー。
(Mくん……よっぽど嫌だったのね……)
でも、正直のところ同僚イケメンMくんへの想いは急激に冷めつつありました。
(私が大好きな鯉のぼりの唄をあんなけちょんけちょんにこき下ろすなんて……)
(そんなの私に言わないで作詞者に直接言えばよくね?)
(ふてくされて仕事中に河原でバーベキューとかマジないわ。むろん手際は鮮やかなれど私が思ってた人とはなんかチャウなーチャウチャウ、あー早くオフィスに戻ってチュールねぶろ……)
なんて考え事をしながら歩いていた池端恋が、突如、宙を舞った。猛スピードのダンプカーにはねられたのだ。
宙を舞ってる時点でもうヒトの形をしていなかった。
20メートル飛ばされて道路に叩きつけられた。
ダンプカーはスピードを緩めることなく走り去った。
すると対向車の白いオープンカーが路肩に停まり、運転手が一目散に駆け寄る。
散らばった池端恋の断片を掻き集め、車に乗せて走り去った。
そう、彼こそが偉大なる科学者、ドクター・ゲー。
彼はアンドロイド・ヒューマノイドロボット工学の世界的権威。
IQは測定不能。母の胎内からアルファベットの唄を口ずさみながら生まれてきたと言われているほどの大天才。
その彼が即死状態の池端恋を載せて向かうは西荻窪にある彼の研究所。
ドクター・ゲーは彼が生み出したナノマシンテクノロジーを駆使して池端恋をアンドロイドとして見事復活させたのだ!
見よ!
これが甦った池端恋だ!
何という皮肉!
まごう事なきカープ女子である。
頭にきらめく電子メカ!
上半身はオシャレなスケルトン!
下半身も大胆に尻尾のキワキワまで透け感を演出して大人のセクシーさをアピール。
底部には車輪をあしらい、更に持ち手から吊り下げることにより夢の陸、海、空を制覇。
単三乾電池3本で動く。
もうお好み焼きも必要ない。
スイッチオン!
大好きだった鯉のぼりの唄は若干のアジアンテイストを施されるも、まあ、なんかそれなりに意味のあることを唄っていると思われる。
このロボカープにかつての池端恋の面影は微塵もない。
ジタバタと何か記憶の断片を追い求めるかのようにのたうつのみである。
だが、池端恋であった魂(ソオル)はたしかにこの生臭いボディに受け継がれ、
乾ききった都会の空を
今日も
面白そうに泳いでいるのだ……。
完