『音鳴(オトナ)の玩具(オモチャ)』第11回:どう考えても法を「犯す」側のポリス
[2019/9/16 12:00]
漫画家・イラストレーターの福島モンタが、音の鳴る香ばしいおもちゃを紹介していきます!
いったい誰が信じる?
けたたましい爆音を響かせて疾走する1台のジープ。荷台に積んだパトライトを光らせてマシンガンをぶっぱなし意気揚々と叫ぶ。
「フリーズ!ドントムーブ!」
映画などでよく耳にするアメリカの警官が容疑者に「動くな!」と制する例の決まり文句である。
いったい誰が信じる?
いったい誰がこいつの車に貼られた「911」や「POLICE」の文字を額面どおりに受け取る?
どう考えても法を「犯す」側のビジュアルである。
それは何も後頭部だけ残しあとは全剃りという彼のイデオロギーの塊のような妙な髪型を見ずとも、極まりきった真っ黒な目を見れば一発でわかる。
何があったかは知りたくもないがとにかく社会に不満を持った人間が放つ特有の嫌な輝きに満ちた目である。
こいつが毎夜毎夜、近所を自警団気取りでパトロールするのだ。
取り締まるのは「他人の幸せ」
これのみ。
公園でイチャつくカップルには1分の猶予も与えず発砲。
無論、威嚇射撃だが街の風紀を正したとひとり悦に入る彼の彼自身は鋼鉄のようにエレクトロしているのだ。
そんな彼だが、彼の内面を掘り下げれば掘り下げるほど、
彼は彼以外にはまったく興味がないことに驚かさせる。
たとえ明日、年老いた両親を含めた街のすべての人間が死に絶えたとて、
彼は何の意にも介さないだろう。
毎晩血眼になって取り締まっている他者の幸せ、
それさえも実はどうだっていいのだ。
そして彼は今夜も愛車を駆る。
ふと視線の先に不運にも車にはねられたイタチの死骸が目に入った。
彼のジープの太く黒いタイヤがはねられたイタチの死骸を蹂躙し、
小さな頭蓋骨が割れる乾いた音だけが夜の闇に消えた。
終わり。