『音鳴(オトナ)の玩具(オモチャ)』第12回:死ぬことはない犬

連載・コラム

[2020/3/6 12:00]

漫画家・イラストレーターの福島モンタが、音の鳴る香ばしいおもちゃを紹介していきます!


あんなに仲良しだったのに……

みなさま、お待たせしました。
お待たせしすぎたのかもしれません。
福島モンタです。

音の鳴るおもちゃを紹介するコラム、
第12回はこちらです。

『生きている犬』

〜ごらん、この犬は生きているよ〜

真っ白な毛並みと、
鼻先から尾までスーッと一直線に入ったあずき色の線。

(そんな線の入った犬いる?)

(あずきタイヤに踏まれた跡?)

白一色でやめとけばいいのに。

ライン工場の余計なひと手間である。

だが、どうだろう。

顔はいい。

大好きな散歩をねだり、
ご主人の右側がボクの定位置!

そんな自分が誇らしくて、嬉しくて、
生きているのが楽しくて仕方ない。
といった表情をしている。

顔の左サイドには放射状にたくさんの穴があいている。

散弾銃……?

考えたくないが、毎年晩冬のこの時期、狩猟の終わりに猟犬が山に捨てられるケースがある……。

ある犬はそのまま木にくくりつけられ、
ある犬は散弾銃で撃ち抜かれ……。

だが、この犬は帰ってきた。

銃弾を浴び、
くくりつけられた紐を食いちぎり、
ご主人の元に帰ってきた。

「ねえ、どうしてボクを撃ったの?」

そんな犬である。

食いちぎられた紐。

腹を開けると電池ボックスに力強いレ点。

厳しいチェックの目をかいくぐった、
名犬たる証だ。

単三乾電池二本で動くようだ。

エサなど要らない。

一生死なない。

喉ボトケスイッチON。

ワン!ワンワン!

全身を真っ赤に発光させ、
大音量でかかる悲しげなマイナーコードの曲……。

大好きなご主人様の役に立つことが一番の幸せだったあの頃の、
普通の猟犬でいられたあの頃の自分へのレクイエム。

ワン!ワンワン!

(どうして僕を撃ったの?)

(あんなに仲良しだったのに?)

(用無しになったら撃つの?)

ごらん、赤くたぎる血潮を。

この犬は生きている。

死ぬことはない。

福島モンタ

漫画家、イラストレーター。七色の絵柄を駆使して雑誌、書籍、絵本、テレビ番組、インターネットなどいろんなメディアをジワジワ侵食中。元芸人という特色を活かして、現在Eテレ『シャキーン!』に出演中。ホームページ http://monta-f.com/