『音鳴(オトナ)の玩具(オモチャ)』第12回:死ぬことはない犬
漫画家・イラストレーターの福島モンタが、音の鳴る香ばしいおもちゃを紹介していきます!
あんなに仲良しだったのに……
みなさま、お待たせしました。
お待たせしすぎたのかもしれません。
福島モンタです。
音の鳴るおもちゃを紹介するコラム、
第12回はこちらです。
『生きている犬』
〜ごらん、この犬は生きているよ〜
真っ白な毛並みと、
鼻先から尾までスーッと一直線に入ったあずき色の線。
(そんな線の入った犬いる?)
(あずきタイヤに踏まれた跡?)
白一色でやめとけばいいのに。
ライン工場の余計なひと手間である。
だが、どうだろう。
顔はいい。
大好きな散歩をねだり、
ご主人の右側がボクの定位置!
そんな自分が誇らしくて、嬉しくて、
生きているのが楽しくて仕方ない。
といった表情をしている。
顔の左サイドには放射状にたくさんの穴があいている。
散弾銃……?
考えたくないが、毎年晩冬のこの時期、狩猟の終わりに猟犬が山に捨てられるケースがある……。
ある犬はそのまま木にくくりつけられ、
ある犬は散弾銃で撃ち抜かれ……。
だが、この犬は帰ってきた。
銃弾を浴び、
くくりつけられた紐を食いちぎり、
ご主人の元に帰ってきた。
「ねえ、どうしてボクを撃ったの?」
そんな犬である。
食いちぎられた紐。
腹を開けると電池ボックスに力強いレ点。
厳しいチェックの目をかいくぐった、
名犬たる証だ。
単三乾電池二本で動くようだ。
エサなど要らない。
一生死なない。
喉ボトケスイッチON。
ワン!ワンワン!
全身を真っ赤に発光させ、
大音量でかかる悲しげなマイナーコードの曲……。
大好きなご主人様の役に立つことが一番の幸せだったあの頃の、
普通の猟犬でいられたあの頃の自分へのレクイエム。
ワン!ワンワン!
(どうして僕を撃ったの?)
(あんなに仲良しだったのに?)
(用無しになったら撃つの?)
ごらん、赤くたぎる血潮を。
この犬は生きている。
死ぬことはない。